事務員の憂鬱

毎日、暇人としか思えない人々が、電子情報網を通じて接続してくる。

通常の接続は、公的情報を求めてくる予期された利用者。

彼らの大半は、情報を売ることで生計を立てているものたちである。新聞社や雑誌編集者をはじめとして、非合法情報屋まで含まれる。

問題があるとしたら、彼らの中に公開していない情報まで求める者が含まれていることである。

つまり、情報公開データ領域ではなく、情報管理領域であったり、管理者利用域に踏み込んでくる利用者、というよりは盗賊がいるということである。

全部の電子機構が一気に機能不全にならないように、こと公的機関の電子機構は冗長性を多めに持たせているのだが、それが盗賊たちの根城になったりする。厄介極まりない。

「――誰だよ、二十四テラバイトも冗長性を持たせるように発注したバカは」

彼女は旧式の入力装置――キーボードなどと呼ばれていた――を操っていた。電子頭脳手術を施した人間にとって、手作業などというものは単純作業でしかない。さっさと結線して、頭の中で処理系等を確立したほうが早い。

だが、部長はそれを拒絶した。すでに三人の職員が風邪を引いているのだ。電子病原菌である。それが電子頭脳に侵入しようとし、電子抗体が処理系の優先権を奪ってしまった。彼らは今眠ったように、自分の席に座っている。

「そのバカが私だったりするのだが、減棒はどれくらいが希望かね?」

彼女は必至で情報を入力した。1ビットずつ情報を取り出して、その情報の適合度を確認して、情報を元の場所に戻す。そして次のビットを取り出す。それを何億回やったら終わるというのだ。

彼女はキーを叩き続けた。

きっと、大容量の記憶領域が発明されるまでは、こんな手間などなかったのだ、そうに違いない、と彼女は思った。

だが――時代は繰り返すのだ。

―幕―