要旨
光免疫療法は、近赤外光吸収物質で標識された抗体医薬品を投与し、がんに薬剤が十分に集積した時点でレーザ光を照射することで、がんを特異的に破壊する治療法です。本治療法は2020年に「切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部がん」に対する治療法として日本で承認されています。
私の出向元である島津製作所は、光免疫療法の機序解析や薬剤の分析等で本治療法の普及・発展を以前からサポートしてきました。そして現在、私達は近赤外光イメージング技術等による光免疫療法における薬剤の挙動解析を目的に、近赤外光イメージング装置を開発し、小林先生(NIH/NCI)との共同研究に取り組んでいます。
光免疫療法の特徴の一つに、レーザ光照射に伴って腫瘍上に集積した薬剤から発せられる蛍光の減衰があります。この蛍光減衰を治療中にモニタリングすることで、治療の進行状況をリアルタイムに把握することが出来るのではと考えました。まず初めに、光免疫療法の観察に本イメージングシステムが有効か確認するため、A431細胞を皮下接種した腫瘍マウスモデルに光免疫療法を実施するとともに、システムを用いて腫瘍の蛍光観察を行いました。その結果、治療と同時に蛍光観察が可能であることを確認しました。また蛍光強度はレーザ光照射直後に急激に減衰しますが、この減衰速度は次第に緩やかになり、やがてプラトーに達することを明らかにしました。次に治療前後の腫瘍における生物発光の変化を計測し、蛍光強度の減衰量との間に正の相関があることを確認しました。これら結果から、治療中の腫瘍上蛍光強度モニタリングにより光免疫療法の治療進行状況をモニタリングできる可能性が示唆されました。本研究結果を受け、NIH/NCIにて実施中の光免疫療法のClinical Trialにて、ヒト頭頚部がんに対して光免疫療法を実施時、本イメージング装置により腫瘍上の蛍光を観察可能か、検証に取り組んでいます。
発表当日は、上記の内容を中心にお話しするとともに、治療モニタ装置を用いた他取り組みについても時間の許す限り、可能な範囲でご紹介したいと思います。
略歴
2009年3月に東北大学大学院 工学研究科 修了後、株式会社島津製作所に入社。
2015年11月から2年間、NIH/NCI/Molecular Imaging Branch (Dr. Kobayashi’s lab) における光免疫療法の研究のため、Special Volunteerとして派遣。
2017年12月から島津製作所に復帰。
2020年10月から現在まで、再びNIH Dr. Kobayashi’s labに出向し、光免疫療法の臨床試験等に従事。
2024年10月から島津製作所に復帰予定。
演者: 奥山修平 先生(NIH/NCI、株式会社島津製作所)
演題:近赤外光イメージング装置を用いたリアルタイムモニタリングによる光免疫療法の治療進行の観察
協賛:株式会社島津製作所様
開始時間:8/23(金) 17時30~
会場:Physiology 612