入寮案内パンフ原稿2010

僕はこの春博士号(素粒子論専攻)を修得し京都大学を卒業する。僕が入学したのは2000年、学部課程、修士課程、博士課程を合わせてもう十年間京都大学にいたことになる。何でもいいから受験生のために何か書いてと言われたので、適当に書き綴ることにする。

吉田寮に住み始めて三年になる。吉田寮に移るまでの経緯を書いておこう。学部三回までは自宅から通学し、その後、修士一年まで友人と千本丸太町でシェアハウスをし、そこが解散してから四十日間研究室に住み、博士課程一回が終わるまで別の友人達と下鴨で風呂なし池あり茶室ありの古民家でシェアハウスをした。その後、人生最後の吉田寮に住む機会ということで、ここに引っ越した。ちなみに寮を出た後は、東京で就職をし、そこでまたシェアハウスをする。

僕はこれからも一人暮らしはしないだろうと思う。一人暮らしをするメリットを感じないからである。一人暮らしは非効率的(どうして一人一つの電子レンジ、洗濯機、トイレが必要になるのだろう?共有すれば済むものなのに)だし、世界が広がらないし、一人でご飯を作って食べるよりみんなで作って食べる方がおいしいというのがその理由である。

僕にとって吉田寮に住むメリットは次の三点だった。

1.美しい建築に住む喜びを味わえる。

2.家にいながら世界が広げれる。

3.豊かで文化的生活を享受出来る。

1は見れば分かる。これほど美しい建築に住める機会など人生を通じて二度とないだろう。朝、庭と廊下の美しさに感動して立ちつくすこともある。

2に関して説明すると、普段知り合う機会の少ない他学部、他研究科の人たちと知り合うことが出来、色々な面白い話を聞ける。さらには寮という空間に魅せられた寮外生、宿泊客の人たちとも友人になることが出来る。普通に大学生活を送っても作れる友人はクラスに数名+ゼミ+(バイト、サークル)程度であるのに比べ、この差は大きい。後々の人生にまで影響を与えるだろう。

3に関して言えば、寮は「食堂」という名のライブハウス、劇場付きである。寮のイベントだけでなく、外部団体にも開かれており、頻繁に劇やライブが徒歩0分無料で見ることができる。食堂の天井裏にはこたつと大スクリーンが設置されていて、僕は借りてきた映画をよくここで見ている。日々の飲み会、鍋会なども楽しい。誰かが書くと思うので割愛するが、年に一度寮祭がある、その他ユニークなイベントがたくさんあり、企画も出来る。

寮に入ると勉学がおろそかになるという心配を抱いている人もいるかもしれない。しかし、それは本人次第であると思える。遊び続けることも可能であるが、他学部生や院生から刺激を受けたり、詳しい人から教えてもらうことも可能である。

最後に補修や立て替えの問題に対し、一言残しておきたい。最近読んでいる「マンキュー経済学」に次のような文があった。

「修復された歴史的建造物は正の外部性(ある人の行動が周囲の厚生に影響を与えること)をもたらす。建造物の周囲を徒歩や乗り物で巡る人たちが、建造物の美しさやその醸し出す歴史的雰囲気を楽しめるからである。建物の所有者は修復によう便益のすべてを手に入れるわけではないので、古い建造物を早めに処分してしまう。

この問題に対して地方自治体は、歴史的建造物の破壊を規制したり、所有者による修復に税金面で優遇措置を講じたりすることで対応している。」

これは大同小異で吉田寮のことだなと思った。寮生(快適で近代的な建物に住みたいと思う人もいるだろう)や大学(吉田寮を補修する経済的なメリットは少ないかもしれない)の便益の立場をあえて超えて発言すると、このような美しい建物を立て替えしてしまうのは文化や芸術、歴史を軽視した行動であると僕は考える。

吉田寮の写真:

http://bit.ly/cuCL1B

http://bit.ly/annwNK

文:平田朋義

メール:tomo3141592653@gmail.com

HP:http://bit.ly/dmE5Fv