ビブリス科

Byblidaceae

本科にはビブリス属Byblisのみが含まれる。かつては形態の似たロリドゥラ科に近縁だと考えられていたが、現在では類縁関係はないと考えられている。ロリドゥラ科がツツジ目に属するのに対して、ビブリス科はシソ目に属し、タヌキモ科やオオバコ科などと近しい関係にある(Müller et al., 2004; Refulio-Rodriguez and Olmstead, 2014)。また、この科の特徴として根の発達が良いことがあげられる。


ビブリス属Byblis

捕虫様式:鳥もち式

生育地:オーストラリア大陸(ウエスタンオーストラリア州、ノーザンテリトリー準州)、ニューギニア

Byblis linifloraの捕虫葉

Byblis linifloraの捕虫葉は本体は細いわりに、非常にたくさんの粘液を分泌するため、遠目に見ればまるで霧がかかったかのように見える。光が当たれば英名、Rainbow plantsの名前にふさわしい姿だ。

Byblis liniflora

真夏に霧がかった姿の中から、ひときわ目を惹く青紫色の花を咲かせる。Byblis linifloraは花たくさん咲かせるため、鑑賞するにおいて涼しげで、真夏にぴったりだ。

概要

本属には7種が含まれる(ICPS, 2014)。おそらく、これからも新種の発見や分類の再編によって種数は変わるであろう。一年生か多年生かで、生態的に大きく二つのグループに分かれる。Byblis linifloraに代表される一年生の5種(B. liniflora complex)は、オーストラリア北部に分布し、B. linifloraに関してはインドネシア南部にも存在する、小型の草本である(Barthlott et al., 2007)。一方、B. giganteaに代表される多年生の2種(B. gigantea complex)は西オーストラリア南西部に分布し、茎の基部が木質化し60 cmほどの多年生草本もしくは亜低木になる(Barthlott et al., 2007)。ほとんどの種は水はけの良い土地を好むが、B. aquaticaのみは湿地に生育する。Byblis giganteaは乾季に野火の発生する環境に生育し、それに適応している。野火発生後は根から萌芽して再生し、種子は野火の後に発芽する。

花は薄紫から紫色、B. giganteaには白色の花も存在する。Byblis linifloraは同じ花が何日かにわたって、午前中に開花し、午後に閉花する。そして、自動自家受粉して種子ができる。一方、B. giganteaB. linifloraと異なり自動自家受粉しないどころか、そのままでは開葯すらしない。ある種の送粉者の羽音により、開葯が促進されるようだ(Barthlott et al., 2007)。

種間の系統関係は、核DNAにおける5S–NTS領域およびITS領域、葉緑体DNAにおけるrbcL遺伝子間領域およびtrnKイントロンをもとに系統樹を描くと、B. liniflora complexはB. aquaticaB. filifoliaクレードとB. guehoiB. linifloraB. roridaクレードが認められた。Byblis liniflora complexにB. giganteaは含まれず、これら2つのクレードが分かれる前に分岐していた(Fukushima et al., 2011)。染色体数を考慮すると、B. liniflora complexはx = 9、B. gigantea complexはx = 8であり、別のグループに属すると考えられる(Conran et al., 2002a)。

食虫性

捕虫葉は線形で、有柄腺と無柄腺が存在する。有柄腺からは粘液、無柄腺からは消化酵素が分泌される。モウセンゴケ属と異なり、この腺毛は動くことがない。Byblis giganteaには、この捕虫葉に捕まることがないSetocoris bybliphilusというカスミカメムシ科の昆虫が共生しており、捕まった小動物から吸汁している(Barthlott et al., 2007; Rice, 2006)。

名前の由来

属名Byblisはギリシャの泉の女神Byblisにちなむ。Byblisは双子の兄弟であるCaunusを愛したが、Caunusに拒絶されたために、彼女は光輝く涙をとめどなく流し、ついには泉になってしまったという。Byblisは本植物の日に煌めく露に、Byblisの涙を連想してつけられたものである。英名Rainbow plantsはこの植物の粘液が日光で煌めくことで発生する虹にちなむものであろう。和名はなく、もっぱら属名のビブリスで名前が通っている。