ドロソフィルム科

Drosophyllaceae

本科にはドロソフィルム属Drosophyllumのみが含まれる。そのドロソフィルム属にはドロソフィルムDrosophyllum lusitanicumの1種のみしか存在しないので、本科に含まれるのも1種のみである。

ディオンコフィルム科と近縁であり、ディオンコフィルム科・ツクバネカズラ科クレードと姉妹群を形成する。


ドロソフィルム属Drosophyllum

捕虫様式:鳥もち式

生育地:スペイン、モロッコ、ポルトガル

Drosophyllum lusitanicumの捕虫葉

ゼンマイ状に巻いて出てくる捕虫葉が特徴的。植物体全体から、尿に似た独特なにおいが漂い、多くの虫を呼び寄せる。

Drosophyllum lusitanicumの

花は美しいレモンイエローである。大きく見ごたえがあり、種子もたくさん取れるので、楽しみがいがある。

概要

本属にはドロソフィルムDrosophyllum lusitanicumの1種のみしか存在しない。1 mに満たない程度、ときとして1.6 m程度になる多年生草本もしくは亜低木である(Barthlott et al., 2007)。草本の多い食虫植物の中では、茎が木質化し、場合によって大きくなる点で異彩を放っている。花は花弁5枚の黄色である。

本種はモウセンゴケ属に属するともともとは考えられており、Linnaeusが本種を記載した1753年当時はDrosera lusitanicaとされていた。しかし、現在こうして別属に分けられているように、モウセンゴケ属とドロソフィルム属はいくつかの点で異なっている。葉や花の構造もそうであるが、もっとも特徴的なのはモウセンゴケ属が向軸側、すなわち内側に向かって葉が巻いて出てくるのに対して、ドロソフィルム属は背軸側、つまり外側に向かって葉が巻いて出てくる。この外巻きの捕虫器は比較的近縁なトリフィオフィルム属の一時的な捕虫器とよく似ている。またモウセンゴケ属は動く腺毛を有するが、ドロソフィルム属のそれは動かない。

また、ドロソフィルムは比較的乾いた環境に生育するという点で、他の食虫植物と比較して特異的である。ドロソフィルムの生育地は地中海性気候に属し、夏はかなり乾燥する環境である。この植物は海近くの水はけの良い砂礫質の土地に生育するため、水分の一部は海風によって運ばれるものと考えられる(Barthlott et al., 2007)。

食虫性

捕虫葉は線形であり、有柄腺と無柄腺が存在する。葉の向軸面には無柄腺のみだが、背軸面には有柄腺と無柄腺が密に並ぶ。有柄腺からは粘液、無柄腺からは消化酵素が分泌される。粘液の組成は、モウセンゴケ属と同じく酸性多糖類とされる(Juniper et al., 1989)。捕虫葉ほどは発達していないが、花茎も腺毛に覆われている。その他、本種は独特の芳香を発することが特徴としてあげられる。甘酸っぱい匂いであり、動物の尿を彷彿とさせる。おそらく、獲物の誘引に効果を発揮していると思われる。

名前の由来

属名Drosophyllumは「露を帯びた葉」を意味し、種小名lusitanicumは「ポルトガル産の」という意味である。いくつか呼び名があり英名dewy pine(ポルトガル語でherba piniera orvalhada)、「露を帯びた(草の)松」やslobbering pine(ポルトガル語でpinheiro baboso)、「よだれを垂らす松」はその草姿をうまく形容している。和名ではイシモチソウモドキがあり、「石持草擬」と書いて「イシモチソウに似たもの」を意味するが、分類群が異なっており、そもそもイシモチソウに似ていないため、現在ほとんど使われていない。「ドロソフィルム」という学名の方が通りが良い。