アナナス科

Bromeliaceae

本科において食虫性があるものとして知られるのは、ブロッキニア属Brocchiniaの2種とカトプシス属Catopsisの1種である。他の食虫植物の属と異なり単子葉類であり、単子葉類の中でもこの科が食虫植物としては唯一である。食虫性の認められるブロッキニア属、カトプシス属はそれぞれブロッキニア亜科Brocchinioideae、チランジア亜科Tillandsioideaeという異なる亜科に属し(Givnish et al., 2011)、食虫性は独立に進化したと考えられる。


ブロッキニア属Brocchinia

捕虫様式:落とし穴式

生育地:ブラジル、ギアナ、コロンビア、ベネズエラ

Brocchinia reducta捕虫葉

これまで紹介してきた食虫植物と異なり、Brocchiniaは葉の重なりに水をためて、それが捕虫器の役割を担う。ほかのアナナス科植物と比べて、明確に、中央部の葉の重なりが筒状になる。

概要

本属のうち、Brocchinia hechtioidesB. reductaに食虫性があるとされる(ICPS, 2014)。また、B. tateiを含める意見もある(Givnish et al., 1984)。地上生の多年生草本で、茎は伸びない。葉を重ねて筒状のロゼットとなり、高さは30~50 cmになる(Barthlott et al., 2007)。根の発達は悪い。葉は黄緑色で、葉柄がない。葉の形は先端部が切り落とされたように寸詰まりとなり、丸みを帯びる。花は白色で花弁は3枚。ブラジル、ギアナ、コロンビア、ベネズエラの標高500~2900で見られる白砂の明るい湿地に生育する(Barthlott et al., 2007)。また、ヘリアンフォラ属などと同じように、テーブルマウンテン(テプイ)にも生育する。

食虫性

他の食虫植物と異なり、特殊化した葉ではなく、葉を重ねて株の中心に形成した“筒”を落とし穴式の捕虫器としている。中心部には強い酸性(pH 2.8–3.0)の液体が溜まっており、わずかな芳香があるという(Givnish et al., 1984)。この芳香が獲物の誘引に効果を発揮しているとされている。葉の内側は厚いワックスに覆われ、中に落ち込んだ獲物が足をかけて脱出するのを妨害する。消化酵素は分泌していないとされていたが、現在は少なくともフォスファターゼは有していることが明らかとなっている(Płachno et al., 2006)。しかし、おそらく分解のほとんどは共生微生物によると考えられる。

名前の由来

属名Brocchiniaはイタリアの自然学者Giovanni Battista Brocchiにちなむ。英名で見かけるものも無く、また和名も無い。属名のブロッキニアで呼ばれる。


カトプシス属Catopsis

捕虫様式:落とし穴式

生育地:北アメリカ大陸フロリダ半島南端~ブラジル東部

Catopsis berteronianaの捕虫葉

Catopsisは葉の付け根に水をためて、捕虫器としている。食虫植物であると同時に、着生植物であるため、貧栄養な樹上での生活に適応したのだと考えられる。

Catopsis berteroniana

アナナス科植物にたがわず、花はアナナス科そのものである。白く、可憐な花だ。

概要

本属は1種、Catopsis berteronianaのみに食虫性が認められている。着生植物として生育するロゼット型の多年生草本である。大きさは40~90 cm程度(Barthlott et al., 2007)。葉は黄緑色で、ワックスに覆われる。根は着生基材にしっかりと固着するように多肉質に数本発達する(Barthlott et al., 2007)。花の色は白。フロリダ半島の南部からブラジル東部までの標高0~1300 mの地域に分布する(Barthlott et al., 2007)。

食虫性

食虫性に関しては詳しく明らかとなっていないことが多い。正確に食虫植物と言うためには、さらに検証が必要であろう。ブロッキニア属と同じように、ロゼットとなり水を溜めるが、ブロッキニア属と比べると筒よりも“ろうと型”になる。また中心部のほか、葉腋部分にも水が溜まる。葉の背軸側は白く見えるほどワックスで覆われ、獲物の誘引に効果を果たすとも言われている。

名前の由来

属名Catopsisは「垂れ下がって現れるもの」を意味し、この種の着生植物としての表していると言えるが、少なくともこの種は“垂れ下がって”生育はしない。英名で見かけるものも無いがlampera de la selvaという通称があり、意味は「森のランタン」である。木々に着生して生育する様子にちなんだ名前であろう。また和名も無い。属名のカトプシスで呼ばれる。