ディオンコフィルム科

Dioncophyllaceae

本科には、ディオンコフィルム属Dioncophyllum、ハブロペタルム属Habropetalumおよびトリフィオフィルム属Triphyophyllumが存在する。そのうち、トリフィオフィルム属のみが食虫性を有する。

ドロソフィルム科と近縁で、捕虫葉の形態的特徴や捕虫葉が背軸側に巻いて(外巻き)出てくる様子もよく似ている。系統関係に注目するとディオンコフィルム科とツクバネカズラ科のクレードはドロソフィルム科と姉妹群を形成する(Meimberg et al., 2000)。興味深いのは、ディオンコフィルム科と姉妹群を作るツクバネカズラ科やディオンコフィルム科のディオンコフィルム属Dioncophyllum、ハブロペタルム属Habropetalumは食虫性を有していないことである。これはおそらくディオンコフィルム科とツクバネカズラ科の共通祖先が一度食虫性を失い、トリフィオフィルム属が食虫性を再獲得したからであると考えられる(長谷部, 2012)。


トリフィオフィルム属Triphyophyllum

捕虫様式:鳥もち式

生育地:シエラレオネ、リベリア

Triphyophyllum peltatum

私も実物は見たことがない。興味がある人はぜひとも、上記の学名で画像検索をしてみてほしい。私がネットを始めた当初とは異なり、現在はたくさんの画像を見つけることができる。(Bringmann et al.(2001; 2002)をもとに作成

概要

本属には1種、Triphyophyllum peltatumのみが認められる。比較的最近、食虫植物の仲間入りした植物である(Green et al., 1979)。古木で70 mに達する木本で(Barthlott et al., 2007)、ウツボカズラ属とならんで背の高くなる食虫植物でもある。しかし、移行期(後述)にのみ捕虫活動を行うので、成長すれば“普通”の植物となる。食虫植物のうち、樹木と呼べる姿になるのは本種とウツボカズラ属の一部、ロリドゥラ属に限られる。花は花弁5枚で、クリーム色(Bringmann et al., 2002)、形態はドロソフィルムに似る。根の発達は良い。生育地はカリウムが不足する土地であり、他の食虫植物と異なりカリウムも生育の制限となっていると推察される(Ellison, 2006)。したがって、獲物からカリウムも吸収している。

食虫性

トリフィオフィルムは極めて特殊な生態を持っている。この植物は幼木から成木に移行する時期、かつ雨季の場合に鳥もち式の捕虫葉を作る一時的な食虫植物である。この植物は1 m程度の大きさになるまでは、30 cm程度の大きさの普通の葉をつくる(Barthlott et al., 2007)。そして移行期には捕虫葉を作る。この捕虫葉はドロソフィルム(本章第2.3節参照)に似ており、25 cm程度の大きさである(Barthlott et al., 2007)。成熟すると捕虫葉ではなく、鉤状突起のついた葉を作り、他者に引っ掛けてよじ登っていき、つる植物の挙動を示す。しかし、背が低くなるように切り戻すと再度、捕虫活動を行う。生育段階によって、食虫性の有無が変化する食虫植物は本種を除けば、モウセンゴケ属のDrosera caducaが知られるのみである。

名前の由来

属名Triphyophyllumは「3つの葉」を意味し、生育段階や季節によって3種類の葉を作ることに由来する。1つ目は幼木期に作る「普通の葉」であり、少し長細い以外は決して特徴が多いわけではない。2つ目は移行期に作る捕虫葉である。3つ目は成熟したときに作る鉤状突起の付いた葉である。3つ目の葉は英名Hook–leafの由来にもなっており、同科異属のディオンコフィルム属やハブロペタルム属もこの葉を作る。種小名のpeltatumは「盾状の」という意味であり、種子の形状に由来する。