岳峠手前より見た山頂部。山全体が花崗岩で出来ており、植生の乏しい南西面は石の白さが遠くからもよく目立つ。
武平峠側より見上げた鎌ヶ岳北面。三つ口谷に向かって崩落する中腹部が痛ましい。一度山の崩壊が始まると人知で防ぐことはまず無理だ。
ただし、急峻であることはそれだけ岩石の侵食風化による崩壊が激しいことを意味しており、上二枚の写真でもマサ化した岩盤が崩落して急斜面となり、谷の上部に急斜面を形作っているのがが見て取れます。
御在所岳表道よりの鎌ヶ岳。手前より日陰尾根、長石尾根、馬の背尾根。左奥は雲母峰、右手手前は県境尾根、奥に鎌尾根が連なる。
御在所側県境尾根より見た鎌ヶ岳。右手下寄り山頂に至る県境尾根、左端下より山頂に至る日陰尾根、左手奥は雲母峰、右手奥には水沢岳から仙ヶ岳へと連なる県境尾根が伸びる。
入道ヶ岳山頂より見た鎌ヶ岳とその南に続く鎌尾根。花崗岩の岩盤が300万年前頃から隆起して山脈を形成した。
地質
山全体が中生代の後期白亜紀に地下深部で形成された花崗岩でできており、三重県側に流れ出る長石谷、三つ口谷、カズラ谷、ニゴリ谷等に見られる石も主に白色系の花崗岩が主体です。
これに対して、武平峠からスカイライン沿いの野州川一帯は中生代ジュラ紀の付加体が露出しており、鎌ヶ岳でもニゴリ谷の下流や宮妻峡カズラ谷の入口付近にはこれら黒色系のジュラ紀砂泥質岩の変成岩が多く見られます。
ブナの森
鎌ヶ岳では長石尾根の上流部標高1000m辺りから北東斜面及び北斜面を中心にしてブナの自然林が広がっています。特に北斜面は冬季の積雪環境がよくブナ林の植生がよく保存されていると言われます。ブナは日本の植生において、低山のヤブツバキクラス(常緑広葉樹林帯)と呼ばれる森林帯の上部に位置するブナクラス(夏緑広葉樹林帯)を構成する代表種で表日本中部の山々では標高1000m前後からみられます。
長石尾根山頂手前のブナ混成林。山頂直下の北東斜面にはスズタケの下生えのなかブナの疎林が広がる。
鈴鹿山脈でも曾ては方々で山頂部の植生を形成していたと見られますが、自生地は減少の一途を辿っている様子で、野登のように以前は県の天然記念物に迄なっていたものでも今では見る影もありません。
国見岳山麓のブナ清水や綿貫山山頂部には今も優勢なブナ林が残されている。上は綿貫山のブナ珍変木
原因は人間による自然破壊や環境変化等多々あるでしょうが、こういった面でも鎌ヶ岳のブナ林は貴重なものであると思います。
植物 ( 花 )
鎌ヶ岳で出会った花を上げてみました。季節はやはり春が圧倒的に多く、5月連休前後には馬の背尾根や長石尾根沿いの山麓にはミツバツツジ、アカヤシオ、シロヤシオを始めとする様々な花が開花して心奪われます。
さらに5月末には馬酔木群落の芽吹きやシャクナゲの開花と日を追って花も移ろい山歩きの愉しみの一つとなってくれます。
四月末、長石尾根や馬の背尾根にはアカヤシオが咲く。五月には稜線周囲の尾根筋にはシロヤシロが清楚な花をつける。どちらも春の鈴鹿を代表する花。
四月半ばには、長石谷の岩場に岩桜やイワウチワが花をつける。イワウチワは谷筋の至る所に花を見かけるが、岩桜はごく限られた場所で、中には400mm程の望遠が無ければ満足に写せない高所もある。
春の長石谷では至る所で目にすることのできるイワウチワ。日陰のじめじめした場所で岩に張り付いて咲くどことなく頼りなげな風情がまた良い
4月末から5月にかけて様々なツツジが開花する。山頂間近のドウダンツツジも種類があって美しい。
谷筋の日陰斜面にはイワウチワがひっそりと咲く。人の入らぬ岩場の斜面で、ふいに大きな群落に出会うとほんとに感動する。
こうして並べてみると殆どが春から初夏の花だ。日差しの強い季節には山歩きもお休みだが草花も休む。
秋の花はごく僅か。もっと色々目にしたように思うのに? 青いのはヤマトリカブトです。
春は花と芽吹きが重なって山々が最も美しく輝く時期だと言えますが、秋の紅葉もまた山歩きを楽しみとする者にとっては何者にも代えがたいものでしょう。
山腹に広がる落葉広葉樹の紅葉が、山頂部から山腹へと時をかけて移りゆくさまは本当に美しものですが、既に葉を落とした落葉高木の林もまた真に味わい深いものがあります。