菰野超図書館南の三滝川よりみた御在所山東面。北面は三国岳との間に険しい岩壁を持つV字型の北谷を穿った。
御在所山は名実ともに鈴鹿山脈中部の代表とも言える山でありましょう。三重県側山系の中では1212mの高峰を誇り麓に湯の山温泉街があることもこの山の名前をさらに有名にしています。
温泉街からは山頂までロープウェイが運行されており、山歩きに興味のない一般の人達でも手軽に登ることができるため四季を通して多くの人々に人気のある山です。
鎌ヶ岳より見た御在所山南面。山頂1212mはロープウエイ山上駅より500mほど北に離れている。
山容
御在所山は東縁を断層帯に区切られて険しく西側にはなだらかに傾斜する鈴鹿山脈特有の地形をそのまま表していますが、三角点のある1212mのピークと山上公園に挟まれた山頂部は平原状で冬季はスキー場となります。
北谷に落ちる北東斜面は岩場として有名な藤内壁や断崖奇岩が連なる荒々しい様相で、南東側も本谷上流部からロープウェイの山上駅を見上げるあたりはまさに絶壁です。
一の谷の南面は背後の北谷とともに急峻な花崗岩の岸壁がつづく。絶景の谷沿いにロープウエイが掛かる。
その反面、山の西面はなだらかな山腹をもち、山全体が豊かな緑におおわれています。山頂部がなだらかな山容は、雨乞岳やイフネ、クラシ等の御在所より西部の山にも共通する性質ですが、鈴鹿山脈北東部の竜ヶ岳・釈迦ヶ岳・水晶岳から御在所山を経てより鎌ヶ岳・水沢岳・仙ヶ岳へと続く県境尾根の山々は鋭く尖った稜線を連ねています。
これは白亜紀後期に地下深部で固結した鈴鹿花崗岩がその後地表まで隆起するのですが、その露出が鈴鹿山脈の主稜線部分に集中し山脈西部は近江平野に至るまで主に古・中生代の付加体が表面を覆っており花崗岩に比べると遥かに風化・侵食の程度が緩やかであることと、この一帯の地形が山脈稜線を頂点として西側に緩傾斜した傾動地塊山地であることによります。
(5万分の1地質図幅 御在所山 Ⅰ地形より)
東雨乞岳より見た御在所岳。古期地殻に覆われた西部は山容も穏やかで同じ山とは思えないほどだ。中央のピークが御在所山で背後の山上公園と重なっている。その右に御嶽大権現の社が見える。左端のピークは三国岳。
鈴鹿山脈の主稜線をかたちづくる御在所山1212mのピークや山上公園のある東部は、中生代後期白亜紀に地殻深部で固結した鈴鹿花崗岩が鮮新世から更新世にかけて急速に隆起したとものと考えられており、その隆起は現在も継続しているようです。
ただ地殻の隆起・沈降の判定は難しいものです。鈴鹿山脈をとってみても、国土地理院による過去100年の水準測量による測定では沈降しているのに、地震断層の研究から発達した変動地形学による過去10万年間の評価では、1000年で1m近い隆起速度を示しています。
いずれにせよ、地質学的な研究によって日本海が拡大した1600万年程も昔には、現在の鈴鹿山脈の一帯は完全に水没していたと見られていますから、その後日本海の拡大が収束するとともに、それまで大地を引き裂き薄化していた展張場が、収束境界に近づくとともに沈み込みに伴う圧縮応力に転じ隆起しだしたようです。
藤内小屋を経て国見峠へ至る北谷の南斜面は険しく切り立った花崗岩の岩壁が続く
国見峠から下る北谷の源流部。10月中旬を過ぎると美しい紅葉に染まる。
大黒岩手前より山頂南東面の岩壁を望む。中央右に見える小ピークは富士見岩。
湯の山温泉
湯の山温泉の湧出から、この山系の地下に現在も活動している熱源があることを想像しますが源泉の温度は低く別府や熱海のような高温泉ではありません。
これは鈴鹿山系だけでなく、布引山地の麓にある榊原温泉についても同様でこの辺りが火山フロントではないことの表れだと思います。
湯の山温泉は三滝川上流部の渓沿いに開けた温泉地だけに四季の自然が美しい。
四季の自然を楽しめる観光地だけに時間をかけて歩きまわるのも良いものですが公共駐車場が蒼滝パーキング(2011.10現在閉鎖中)だけなので駐車場に難があるのは残念です。
一の谷新道よりの湯の山温泉街展望。中心左寄りにロープウエイの山麓駅がある。
さいわい温泉街には日帰り入浴できるホテルが多数ありますから、山歩きで疲れた体を温泉で癒すのも、この地ならではの楽しみです。私も知人と連れ立って鈴鹿の山を歩いた帰りにはホテルの日帰り入浴に立ち寄るのが決まりのようになっています。
山上公園
高度成長も真っただ中の昭和59年、三交が麓の湯の山温泉から山頂までロープウエイを建設して以来、御在所山山頂は鈴鹿の他の山にはみられないにぎやいだ観光スポットとして存在してきました。開設当時は大変な賑わいでゴンドラに乗るのも順番待ちで大変でした。山上の施設には捕獲されたカモシカまで飼われていましたが、飼育の手間や自然保護上の問題もあり何時しか廃れました。
山上公園はロープウエイ山上駅のある御在所の東側と一等三角点があり1212mの最高点がある西側の山頂部一帯で東西1kmほどの範囲に様々な施設や観光スポットが点在します。
富士見岩。視界が良ければ富士山が見えると云う。しかし鈴鹿山脈と富士山の間には2000m標高がある赤石山脈が割り込んでいるためその可能性は低い(カシミールでも僅かに山頂部が確認できる程度)
ロープウエイ山上駅側の山上公園。観光客相手の様々な施設がある。山頂に売店があるのも有難いものだ。
最高地点はリフトの終点にある一等三角点1209.4mより50m程西に外れた場所で1212m
武平峠道上部より見上げた御嶽神社。下はガスに霞む御岳神社の参道。こんな日はこの辺りまで足を伸ばす者は殆どない
山頂部は広くて東の富士見岩辺りから西の御岳大権現のあたりまで足を伸ばそうと思うと1km以上の距離があります。
私の子供時代には、山上公園の日本カモシカセンターではカモシカの人工飼育まで行われていましたが現在ではではそのような施設は見られず、自然植物園等あまり維持費のかからない施設が残されているだけの様です。
登山道
人気のある山だけにいくつも登山道がありますが、私がよく利用するのは鈴鹿スカイラインより直ちに登山道に入ることができる裏道、中道、一の谷新道、表道、武平峠道の5本です。
これらのコースですと、スカイラインを利用して車で登山道の麓まで行き、スカイラインのパークエリアに駐車して登れば、登りも一時間半~三時間半前後で山頂に立てます。
武平峠
山頂まで最短で行けるのは武平峠(877m)からです。鈴鹿スカイラインの武平峠トンネル滋賀県側入り口にある駐車場(810m)からですと山頂まで標高差約400mで水平距離1.2km程度ですから1時間前後で山頂に立てます。
峠に下る尾根の稜線上を登るものですが、登山道の多くは風化花崗岩の浅いU字谷となっていて迷う心配もありません。800m以上の高度があるので植生が薄くて、尾根からの見晴らしが良い場所も多く背後に鎌ヶ岳の鋭鋒を眺めながら高度を稼げます。
一部基盤岩の露頭を乗り越す場所がありますが、ルートの岩はしっかりしていますのでそれほどの危険はありません。全体に登りが急傾斜のために、無理をせずにゆっくり登っても距離が少ない分短時間で山頂に立つことができます。
中道
一の谷山荘手前の本谷左岸の中道登山口より御在所山の東稜線づたいに本谷を左手に見て大きく巻き込むようにして登るコースです。コースの距離は長く山頂まで二時間~三時間はかかります。
登り始めは夏緑広葉樹林帯の茂みを進むため見晴らしが利きませんが、ロープウエイが頭上に掛かる辺りから東稜線に取り付き、おばれ岩・地蔵岩など大小の巨岩がコースの周囲に現れます。
五合目のゴンドラ展望より本谷とそこに掛かるロープウエイの絶景が楽しめ、これ以降もキレットありトラバース道ありと変化の多い登山道の醍醐味は御在所山全登山コース中でも屈指のものです。ことにアカヤシオの咲く春の中道は美しく一度は歩いてみたいものです。
裏道(北谷)
北谷はクライミングの岩場で有名な籐内壁がある御在所山北面より崩落した真っ白な花崗岩の巨岩が谷をうずめ、谷歩きの爽快さを満喫できるコースです。
春には山腹に咲くアカヤシオ、初夏にはシロヤシオ・秋には谷の紅葉を楽しめる自然味溢れるルートで、谷の途中には藤内小屋があって売店でゆったりくつろぐこともできます。
スカイラインにかかる蒼滝大橋の少し北にある裏道登山口より御在所山の北にある北谷沿いに分水嶺の国見峠まで上り、そこから山頂まで北西の尾根伝いに登りますが、三国峠から山頂までは1212mピークと三角点のある御在所山側へ登るルートと、尾根道を山上公園駅や富士見岩のある東側ピークへ登るルートとがあります。
一の谷新道
一の谷山荘裏手より、本谷の右岸づたいに張り出した尾根上を山頂に至るコースです。コースの前半は視界の聞かない夏緑紅葉樹の樹林帯を進みますが、ルートの後半には本谷側への展望の開ける場所が現れて御在所南面の景観を楽しむことができます。
本谷とロープウエイの圧倒的な展望を楽しめ数ある御在所のスポット中でも最高の景観を誇る大黒岩にもこのルートの上部より行くことができ、恵比寿岩、鷹見岩など見どころの多いコースで登山口のすぐ先には松茸岩まであって愛嬌を添えます。
表道
山頂貯水池より御在所南麓を下る東多古知谷の右岸にそって山頂に至るルートです。鎌ヶ岳三ツ口谷登山口より少し先にある表道入り口よりスカイラインの百間滝橋をくぐりスカイライン山側にある表道登山口より谷の右岸の上部に張り出した尾根を一気に山頂の水源地まで登ります。
終始夏緑広葉樹の林の中を鎌ガ岳を背にして登りますが、ルート中で視界の開ける場所はあまりなく展望を楽しみたいといったコースの妙味にはかけます。
コース前半に東多古知谷にかかる百間滝を望めるポイントがあります。スカイラインから短時間で山頂に立ち下山したいときなどには便利なコースでしょう。
その他
一の谷山荘裏手より、中道登山口の左手の沢を詰める本谷コースも現在の私にはかなりしんどいコースで、豪雨以来入ったことがありません。
以前には、湯の山温泉街手前の公共駐車場蒼滝パーキングに車を止めて東海自然歩道で各コースに歩いても行けたのですが、こちらも2008年秋の豪雨復旧工事で蒼滝手前に大砂防堰堤がつくられて蒼滝側に抜けることも出来ず、駐車場も閉鎖状態です。
裏道は2008年9月の豪雨で谷筋全体が姿を変えてしまい、曾ての登山路は寸断され現在満足に歩けるものか私には分かりません。
以下の写真は2008年9月と10月に覗きに行った折撮影したものです。もちろんスカイラインもキャンプ場先のゲートで侵入禁止でした。
2008年9月12日中道下方より見た北谷・藤内小屋。転石と流木で谷筋の様相が変わってしまった。
鈴鹿スカイラインも、一の谷山荘より上の路面はおびただしい土石が転がってとても車の通行出来る状態ではなく復旧工事が終わるまでにはかなりの時間が必要と思われます。
東多古知谷に近づくに連れ路面は崩落した石で埋まってしまう。車程もある岩がゴロゴロしていてまことに凄まじい。
これから先はスカイラインの崩落がひどすぎて覗いてみる気力も失せてしまいました。武平トンネルも閉鎖されて通行できません。
2009年5月に武平峠の様子を見に行きましたが鈴鹿側入り口手前は相変わらず崩落したまま放置されていて通行できるにはまだ時間が必要なようです。