『Everybody, say !! YO♪YO♪ Check it out! オーディエンス、リズムの波に乗ってるかにゃ~?この波に乗り遅れるにゃ♪ 始まるゾ☆ 先攻、赤コーナー、大躍進継続中、まだまだ止まらないぞ!《ブラ~~~~~ック》!!』 ステージの真上に表示された観客用の大画面に映し出されたのは、音ゲー関連の盛り上げ役の茶猫マスコットキャラ、リズニャーだった。 そしてリズニャーの紹介とともに、先攻を告げられたブラックも大画面に映し出される。 ブラックはステージに上がり、大きく深呼吸をし、目を閉じてゲーム開始を待つ。 (やるからには『徹底的』に……) 『 …Ready?…MUSIC, START♪』 このゲームは『後攻が有利だ』と思われがちだ。 パフォーマンスの評価は観客の投票もポイントとして加点される為、前よりも後にプレイした方が観客を惹きつけるパフォーマンスをすれば、負ける事はまずない…と、言われている。しかもブラックにとってはアウェイな状態であるから、観客を魅了するには半端な事は許されない。 自らも勝負事において妥協する事は己のポリシーに反する。 ならばどうすればいいか。 答えは簡単だ。 観客だけでなく、相手も、ホワイトも視野に入れておきつつ、リズムのオールパーフェクトを狙う。それが今自分にできるベストだとブラックは自分の考えに自信を持っていた。 案の定、リズムに関してはも最も得意とするシューティングゲームや訓練の為に嗜んでいたリズムゲームのおかげで、表示される譜面のほとんどをダンスを交えながらもクリアしていく。 ちなみに、どこにどういった譜面が出現するかは初見では難しく、全ての譜面をタッチする事は不可能かつ触れたとしても『PERFECT』判定もまず無理だった。だが、ブラックは持ち前の動体視力や反射神経をフル活用し、難なくこなしていく。 ダンスも基礎のステップにアレンジを加えたダイナミックかつ軽やかな動きでリズムの波が激しい曲調に合わせて、ヒップホップダンスも交える。それだけでも充分に観客を惹きつける要素を醸し出す。 極めつけは『パフォーマンス』だ。 曲には歌詞もついており、それに合わせて観客にアピールをしていくのだ。 ブラックはチラリと瞬時にホワイトの姿を確認する。 (…意外だ、ちゃんと観てくれているなんて…) 数日前の彼の様子だと、相手のプレイなど観る価値などない、興味も持たないといった傲慢な態度だった。今はむしろ観られている方が好都合だった。 意識をプレイに集中し、観客のボルテージも上がってきた中、ブラックは最後の仕上げと言わんばかりに、人差し指と中指を口に当てたかと思えば、そのまま大胆にもホワイトも含めた観客に向かって投げキッスをかました。 観客席から一気に黄色い声援が上がり、ほとんどの女性ユーザーは心臓を鷲掴みされたようだ。 ブルーも勿論、心臓だけでなく鼻までやられたようだ。盛大に血を噴き出してしまい、イエローとレッドは「何事!?」と軽く騒ぎを起こしていたが、周りの観客は既にブラックのパフォーマンスに釘付けで、誰もその騒動に気づいてない。 そして最後の譜面も見事『PERFECT』で終え、BGM終了とともに華麗に決めポーズを取り、ブラックのプレイは終了した。 ダイナミックな動きをしたにも関わらず、当の本人は特に息切れをしていなかった。代わりに大きく息を吐いた。 本当は全ての譜面をオール『PERFECT』にしたかったが、どうやら全ての譜面をタッチしたにせよ、少なからず3~4個ほどは『GREAT』の判定となってしまっただろうと少し悔しさが残った出来になった。初見でそこまでやれるプレイヤーなどほぼいないだろうが…それはともかく、ブラックとしては観客の反応というよりは、やはり気になるのは次にプレイをするホワイトだった。 勝つためとはいえ、恥を偲んであそこまでやってみせたのだ。自分らしくもない『アピール』を彼がどう捉えても動揺を促せていれば、ブラックの思惑通りだった。 ところが、プレイ終了後、彼と入れ違いになる前に、反応を伺っても、強面の白いオオカミの下に隠れた表情に特に変化など見られなかった。 (…あの程度では動じない、か…ふふ、さすがだな…) ブラック自身、自分の作戦は失敗に終わったと素直に思った。 最初にかけた挑発の時もそうだが、ホワイトは動じていなかったようだし、あの程度の『アピール』もさほど気にしてはいないだろう。あの時、目が合った気がしたが、もしそれが気のせいだったら…自分らしくもない事をした挙句に敗北となると、醜態を大衆に晒したようなものだ。 それはそれで、悔しいので最後の『悪あがき』をする事にした。 ホワイトとすれ違う手前で、ブラックはせめて余裕だけでも見せようと微笑みのまま、これからステージに上がろうとする彼に言葉をかけた。 「貴方はいったい、どれほどのダンスを魅せてくれるのか…楽しみにしてますね♪」 ホワイトはというと、確かに聞こえたであろうが、既にプレイに集中モードだったのか、特にこれといった反応をするわけでもなく無言でステージに上がっていった。 …が、ホワイトとしてはぶっちゃけそれどころではなかった。 むしろ、いつになく焦りを感じていた。 先ほどのブラックのダンスパフォーマンス…ホワイトとしたことが、つい魅入ってしまったのだ。 それだけじゃない。 さっきから向けてくるあの笑顔。 余裕ぶっこいているあの笑顔がものすごく気に食わない。 一般常識としてはどうかは分からないが。 少なくとも今ここにいる会場の観客は、あの笑顔に加えてのパフォーマンスに心臓を握りつぶされたのだろう。ホワイトはむしろ神経を逆撫でされた気分だった。
そうだ、これはいらだっているせいだ。 あのパフォーマンスだって別に自分に向けられた訳じゃない。 観客に対するものだ。 自分が気にする事じゃないはずだ。 目が合ったのもたまたまそう見えただけだ。 断じて見惚れていた訳じゃない。 つらつらと言い訳がましい事を心の内で言って聞かせるホワイト。
こんなにも顔が変に熱いのも。 やけに心を乱されているのも。 全部、あの笑顔のせいだ。 絶対。
ステージに上がって、ブラックの方をチラリと見やる。 また目が合った、気がしたがすぐに我に返って「フンッ」と鼻を鳴らして「お前なんか相手にしない」「眼中にない」という意思表示のつもりでそっぽを向いた。 ブラックはそんなホワイトの様子に「くすくす…」と微笑した。どうやら自分が思っている以上にホワイトはちゃんと動揺してくれたらしい。その証拠に、他の観客には分からないかもしれないが、ホワイトの顔が若干焦りを見せたのをブラックは見逃さなかった。 『Everybody, say !! YO♪YO♪ Check it out! オーディエンス、まだまだ音楽は止まらないにゃ♪ みんにゃ、お待ちかね☆ 後攻、青コーナー、轟く咆哮、魅せる白狼!《ホワ~~~~~~イット》!!』 ブラックの時と同様に、リズニャーによるアップテンポな紹介とともに大画面にホワイトが映し出された。 その瞬間、先ほどの熱気よりもさらに上がった歓声が会場中に響いた。 いつもなら煩わしいだけのものだが、今は逆に冷静になれた。 そう、今はあーだこーだ考えてる場合じゃなかった。ブラックとは『真剣勝負』の真っ最中なのだ。 (くそっ、今に見てろよ…)
『 …Ready?…MUSIC, START♪』
課題曲が始まった。 同時に、ホワイトは毛皮マントの下に来ていた白いロングコートを脱ぎ捨て、黒のランニングシャツに鍛え抜かれたであろう筋肉質な腕を露出させた。 その姿を見た者はあまりにも無駄のない筋肉に、目を奪われる。それだけでも充分パフォーマンスとも言えるものだった。 「おぉ!? ホワイトが脱いだってことは…」「…アイツ変態だったのか」「違うよ!? 露出狂みたいな事言わないであげなよぉ、あれはホワイトの『本気モード』だよ~」 3人は相も変わらず、この熱気こもった観客席の中で異様にマイペースを貫いていた。 それはそうとイエローの言う通り、ホワイトは普段、コートは脱がない。相手によっては脱がなくても充分リズムとダンスの得点で事足りるからだ。 ホワイトはもともと観客など知った事ではなく、パフォーマンスは二の次だった。なにせ観客が勝手に彼のダンスのキレの良さを評価して、得点を入れていたのだから。 しかし、今回は相手が相手だ。 ブラックはリズム・ダンススキルを補うと同時に、パフォーマンスを隠し玉として披露した。ならばまずは、その熱を、流れを変えなければならない。 自分も気にも留めなかったパフォーマンスを視野に入れつつ、ブラックよりも完璧にリズムやダンススキルの得点を獲得する為に、重荷になるであろうコートは脱ぎ、身軽に動けるようにする。これがホワイトの『本気モード』だった。 その効果は抜群で、あっという間に彼の露出された肉体美に誰もが魅了された。ブラックでさえも彼のその姿につい、目を見張るほどに。 実を言うと、ホワイト本人は別に自分身体に対して自覚がある訳ではない。ただ脱がない時と脱いだ時とを比較すると圧倒的にパフォーマンスの得点の差がある為、本気出す時、つまり負けられない時だけ脱ぐようにしていただけだった。 観客を充分に惹きつけた上で、ホワイトはリズムとダンスに集中する。先ほどのブラックとは違い、激しいテンポの時は足技を使い、手を床につけ足で譜面をタップしていく。そうする事で足元にある長押しの譜面は手による『PERFECT』判定のまま、もともと頭上に浮上していた譜面をリズムよくタッチしダブル『PERFECT』として得点はさらに加点される。 勿論、ブラックのようにステップを踏みながら手を使って連続タッチでもダブル『PERFECT』は得られるが、ホワイトのこのブレイクダンスは一瞬とは言え、これまた見事な腹筋が顕わになる為、観客のボルテージもさらに上がる。 ブラックが『クール&ビューティー』な演出ならば、ホワイトは『セクシー&ダイナミック』といったところだろうか。 互いに身体を張ったパフォーマンスとなったが、プレイの終盤あたりで、ホワイトに異変が起きていた。 (…ちぃっ、なんでだ!!?) 少しずつ、リズムのタイミングがずれてきている気がした。 いつもならミスをしないであろう場面でも『あのパフォーマンス』がされた箇所に近づくにつれて、時折、脳裏によぎりそうになる。 集中したくても、彼が、彼のあの行為が邪魔をしてくる。 笑顔もそうだ、あれを思い出しそうになる自分が嫌になる。 集中しようとすればするほど、頭に浮かぶのはブラックの顔ばかりで。 だが、わずかな乱れだ。このまま立て直せば、挽回の余地はあるはずだ…そう思った瞬間、ホワイトの動きは一瞬止まりかけた。 思い出してしまったのだ。 丁度耳に入ってしまったBGMも、あのパフォーマンス…もろに喰らった投げキッスの瞬間を。 ハッと気づいた時は既に遅かった。時間にしてはほんの一瞬に過ぎなかっただろう。だがその一瞬の遅れのせいで目の前にある譜面のタイミングを逃してしまった。とは言え、かろうじて『BAD』判定ではなく、『GOOD』判定だった。 観客は、そんな彼の動きに変化があったなど気づきもしていない。それぐらい小さなミスと言えど、ホワイトは心の中で大きく舌打ちをした。 (……しくじった。) やってはいけないミスだった。 ブラックのプレイを見ていたから分かるのだ。 このミスが、小さかろうと大きかろうと、勝敗を分ける重大なものだという事を。 なんとか感覚を取り戻し、残りの譜面を『PERFECT』で終わらせた。最後に決めポーズをしてホワイトのプレイも無事、終了した。と同時に口笛や歓声が会場に響き渡った。 彼の、ホワイトの勝利を確信しての事か、それとも無事に踊り切った者を称賛しての事か…どちらもホワイトにとってはどうでもいいが、むしろその喚き声にも聞こえる歓声がいつも以上に煩わしいと怒りにも似た感情が湧いてきた。何もわかっていない観客に対しても、凡ミスでしくじった己に対しても、ただただ、いらだちしか湧いてこなかった。 とはいえ、終わってしまった訳で、いったんステージから降りようとした時に普段の自分ではありえないほど、息切れをしていた。呼吸がいつもよりも浅く、そのせいかうっとうしい歓声と混じって自分の鼓動の音もやけに響くようで。 観客やブラックに気づかれないように、なんとか呼吸を整えてから、ようやくステージから降りた。その際、ブラックがいた気がしたが、何故かその時は見る気にもなれなかった。 しばらくして、リズニャーから観客に評価に関する案内があり、観客1人1人の前にホログラム化したモニターが表示された。そのモニター画面には『【BLACK】 OR 【WHITE】』と選択肢が出ており、どちらかをタップする事で1人の観客につき5ポイントが付与されていく。 全ての観客の評価が終わる頃にブラックとホワイトは2人でステージの中央に並んで立っていた。 すると、リズニャーが『集計が終わったにゃ♪』とアナウンスしたと同時に大画面にはブラックとホワイトの二人が映し出された。その下には向かって右から『RHYTHM《リズム》』『DANCE SKILL《ダンススキル》』『PERFORMANCE《パフォーマンス》』と掲示されていた。そこに獲得したポイントが掲示される。 『《PANORAMA DANCE BATLLE》…結果は~~~~…にゃんと!!』