SUB STORY
SUB STORY
COLORS 番外編
COLORS 番外編
【COLORS 前日譚】
【COLORS 前日譚】
これは【COLORS】結成前の物語少女の知る小さな世界の物語
Episode.06 悔恨の情
誰もいない大きな池のある中庭の橋の上の屋根付きの小屋。 ハクアは独り、すすり泣いていた。 (どうして…どうして涙が止まらないの? 悲しい? ううん…これは…) 「ひぐっ…悔しい…ひぐっ…」 ハクアは好きでこの容姿となっているわけではなかった。 しかし、いつかは母・リュウのように気品に溢れる、誰もが認める『大人』の女性になろうと、16歳になるまで外に出られない分、ずっと自分を磨く為の習い事を一通りこなしてきた。だが、実際はどうであろうか…出会う者はみんな、ハクアを「幼子のようだ」と罵るではないか。 (…でも、ザンザ様は唯一、私を褒めてくださった…認めてくださった。)16年という月日が経っても、なお、こんな自分を求めてくださった。
(…なのに、なのに私は…) 「…本当になんて小さくて息苦しい世界なんだろう…」 今まで自分がしてきた事とはなんだったのだろうか。 物心ついた頃から《奇跡の姫》などと呼ばれ、訳の分からないままに周りからの期待に応えるように必死にやってきた事をいとも簡単に無かった事にされた。それだけでも悔しいが、何よりも罵る者達に対して何も反論できない自分が許せなかった。 そんな弱い自分が《未来の獣王の妻》など、笑い者になるだけだ。 (きっともう、ザンザ様も見かねてしまわれたでしょうね…ああ、兄さまになんて言えば…) ハクアは小屋から出て、鼻をすすりながら橋を歩く。 橋の中央で立ち止まり、水面に映る自分の顔を眺める。 泣いたせいか、目元が赤く腫れてしまっていた。到底、誰にも見せられないほど… 「…ああ、なんて醜い顔…」 (なんて愚かなのだろうか…) 手を腫れた目に添えようとした次の瞬間だった。 「わぁ~! ハクアちん、はやまっちゃダメェ~~!!」「え…? きゃあぁ!!?」 ドーン!と、駆けつけてきたチムニーが勢いよくタックルしてきた。 チムニーの声に振り向いたハクアは「げふっ」と小さく呻きながら吹っ飛ばされてしまった。 「あり? ハクアちん? うわ~ん!! すでに遅かったかぁ!!」「…違う。お前が早とちりして、ハクアをぶっ飛ばしたんだろ…大丈夫か? ハクア」 ハクアが倒れている元凶が泣き叫ぶ中、キリはお腹を押さえて倒れているハクアに優しく声をかけ、手を差し伸べる。 「うぅ…はい、なんとか…ありがとうございます…あの、貴女様は?」 ハクアはまだ見かけた事のない赤髪の女性に御礼を言いつつ、尋ねた。 「…オレは《獣王》レオの娘、キリ=レオだ。今日はこの宴会で演舞を披露する為に参加していたけど…何やら涙を流して走り去ってしまった可愛い姫君を見かけたから、いてもたってもいられなくて、ね」 チムニーは「え、キリってそういう紳士キャラだった?」とツッコんだが、キリは無視してハクアの頭を優しくなでた。 (もしかして、この方は母さまの仰っていた…) 「…はっ! もしかして《レオの舞姫》様ですか!? 私、母から演舞の映像を見せていただいて…! いつも素敵な舞を参考に、私も舞の練習をしてまして…あ、あのお会いできて光栄ですっ舞姫様!」 ハクアはまるで著名人に出会って興奮しているファンかのように、さっきまで泣いていたのが嘘のように捲し立てた。 キリもチムニーもぽかん…とその様子を見ていたが、二人の反応に気づいたハクアは はっと我に返り、慌てふためいた。 「はっ…! あわわわ…も、申し訳ありませんっ私、また自己紹介もせずに、えっと」「…くすくす…そう慌てなくても大丈夫だ、ハクア。オレも君の事は馬鹿や阿呆から聞いているし…それに、オレの舞なんて舞姫とかそう大層なものでもないから…キリで構わないよ。なんだったら『お姉ちゃん』って言ってくれたらなお良い」「何さりげなく、欲望貫こうとしてんの(そーゆーとこ似た者兄妹だよねぇ)」「で…では…キリ姉さま…では駄目ですか?」 ハクアはこてんっと首を傾げて、上目遣いでキリの反応を伺った。 もう一度言おう。これが彼女の『素』である。 「……(え、何この可愛い生き物。こんな可愛い子がこの世に存在しちゃっていいの? 馬鹿とかに誘拐されない? あ、でもあいつこんな可愛い子を泣かしやがったんだった…よし、あとであの馬鹿を殺しとこう。こんな子を泣かすとか万死に値するだろ。しかも、こんな可愛い子があの阿呆の妹とかマジでありえないから。絶対認めないから…とにかくオレの義妹、かわ)いいとも」「…ほんっと似た者兄妹だよね~…いたっ!?」「…あの馬鹿と一緒にしないでくれるか? オレはこんな可愛い義妹を泣かすような事、絶対しないから」 キリは見事に地雷を踏んできたチムニーの頭にチョップを食らわした。 まだ彼の場合、優しいほうである。これがザンザとビャクが相手だったらチョップだけでなく腹パンをお見舞いしていただろうから。 「あ、あの! キリ姉さまっ…その、それは誤解です! な、泣いてしまっていたのは…言い返せれなかった自分に対するやるせなさからというか…とにかくザンザ様は私の為に怒ってくださって、その」 ハクアは必死に弁解した。 キリから異様な殺気を感じられたので、何か危ない予感がしたのだ。 「…うん、わかった。とにかくあの馬鹿を一発殴って蹴って締め上げた上で、詳しい話を聞こうか」「(ひぇっそれもう殺すって言ってるぅ)やめたげてよ~、ザンザ今それどころじゃないんだからさ~…でも良かったぁ~ハクアちん見つかってぇ。ビャクも珍しく心配してたよ~(たぶん)」 (あの兄さまが…!? そ、そんな事が…見たかった!) ハクアはキリの発言にも少し耳を疑ったが、それよりも妹である自分に対してさえ傍若無人なあの兄が心配をしてくれていた事の方がより衝撃だった。 「まぁ、ともかくぅ…ここで立ち話するのもなんだし、このままハクアちんとこの控室に帰っちゃう? そこでガールズトークでもしようよ~☆ ぼく、喉も乾いちゃったからお茶飲みたいしぃ~」 チムニーはピョンと橋の上をジャンプし、ハクアの手を取り「行こ、行こ~」と引っ張りながら提案した。キリも「…賛成」と言い、後についていく。 「え? え? が…がーるずとーくってなんですか??」 ハクアはチムニーに引っ張られながらも、聞いた事のない言葉に困惑する。 「え! ハクアちんてば、知らないの~!? う~ん、まぁいわゆる女の子同士の秘密の話をお茶しながらカミングアウトしていくやつだよぉ(たぶん)」「え…でも、チムニー様は男のヒトじゃ…?」「細かいことは気にしな~い☆ あと、ぼく様づけで呼ばれるほどの者じゃないしぃ、友達なんだからこれからその敬称禁止! オーケー?」 (と、友達…? 私が?) 「…っ!? どうした? ハクア」 ハクアの目からは止まったはずの大粒の涙がひとりでにあふれ出てきた。 「…ふぇ!? なになに? ぼく、泣かしちゃった!? …ひっ、ちょっとキリさん、そんな怖い顔しないでっ! ハクアちんもっほらほら泣き止んでよぉ」「…ひぐっ…ごめんなさいっ…ひぐっ…友達とか初めてで…お二人が優しくて…ひぐっ…嬉しくてぇ…うぅ」 チムニーは長い袖でハクアの涙を優しく拭い「お~よしよし」となだめた。 キリもハクアを優しく抱き寄せ、ハクアの頭を軽くなでた。 「……ただでさえ、初めての宴会だったのに…怖かっただろう。もう…大丈夫だから」「…っ! ひぐっ! キリ姉さまっ、チム兄さまぁ…ひぐっふぐう」 (そう、怖かった…誰からも認められない事も、今までの努力が無駄だったようで…いきなり色んな事が起こりすぎて…) キリとチムニーは彼女の気が済むまで、ずっとそばにいてあげた。 この後、3人で控室にて、がっつりガールズ(?)トークを繰り広げたのは言うまでもない。 ◀BACK ¦ NEXT▶