MAIN STORY

  Chapter.03

【The Game Reapers】

 "彼ら"は恐れられていた

 実力主義のこの世界で

 その存在は『脅威』そのもの

Episode.05



 ブルー先輩と合流を果たしたボクたちは、再びアジトに戻ってきた。 これからチームミーティングを開くためだ。 会議室に入るとレッド先輩以外のメンバーは部屋にあるローソファに座った。 ボクはブラック先輩の隣に座りたかったのだが、先輩たちの定位置があるそうで、彼の隣には既にホワイト先輩がいた。 呆然としていたら、レッド先輩に「グレイはここに座れ」と手招かれ、扉から向かって一番奥のソファ(おそらくレッド先輩の定位置)に座る事になった。
(…下っ端、というよりまだ保留中のボクが座る位置じゃないような?)
 困惑気味なボクをよそに、チームミーティングが始まった。
「おし!全員揃ったことだし、これからミーティングを始める!今回、運営サイドからかなりヤバい案件が出た。より一層の警戒が必要になる」「ヤバい案件〜?まためんどくさい事、押し付けられたの?」
 イエロー先輩はプラプラと脚を動かしながら、レッド先輩に問う。 運営サイドは自分達の手には負えないとか言ってGRsに依頼し、手を借りようとする事は珍しくないらしい。COLORSは報酬次第ではレッド先輩の指示のもと、動くには動くのだが、あまり見合った報酬をもらった試しがないとイエロー先輩がぼやく。
「ぶっちゃけた話、めんどくさいっちゃめんどくさいヤツだな。と、その前に…」
 レッド先輩はボクに「こっち来い」とまた手招く。 ボクはソファから離れ、レッド先輩のそばへ行くと、みんなのほうへ向き直された。
「GRsミーティングの内容を告げる前に、グレイを正式にこのチームのメンバーに加える。さっきも言ったように警戒を強める事態にある以上、俺たちのそばで保護したほうがマシだしな。んで、ブルー。あとはお前さんの承認なわけだが」「問題ない、承諾する」「はやっ!?めっちゃ食い気味じゃん!」「…可愛いコが増えるのは大歓迎」
 そんな理由で安易に承諾されて良いものだろうか。 ひとまずブルー先輩からの承認をもらえた事により、正式にチームに加入する流れになった。 すると、ボクの目の前にモニター画面が表示された。


―プレイヤー:グレイ 所属チーム『COLORS』承認―


 プロフィール画面に新たにチーム名が追加された。 それにより、今までロックされていた機能が解除されたようだ。
(…ここまでは順調…だよね?)
 チラリとホワイト先輩のほうを見る。 彼は唯一、ボクの加入に反対していた。
(もしかしたら厄介者払いされるかも……でも)

「先輩がた、改めてよろしくお願いしますっ!」


 正式な加入が決まり、次にレッド先輩は最強クラスリーパーが集う会議で得た情報を話だした。 まず、今回のリーパーズの召集は『転送装置の不具合』に関する説明がメインだったらしい。 不具合が起きた原因は「エネルギー不足」説が濃厚だという。
「『エネルギー不足』…この世界を維持する為のエネルギーが安定していないからゲートの機能も制限されたと運営サイドは考えているという事ですね」
 架空の世界を創り上げるだけでも、おそらく膨大なエネルギーを要したに違いない。 身体と一緒でそれを維持し続けるのならば、なおさらエネルギーが足りないとなると機能が制限されてしまう事は容易に想像がつく。問題は…
「問題は〜、そのエネルギー不足が起こった『原因』と『補充』ってこと〜?無理ゲーにも程があるんですケド
 イエロー先輩が気だるげに言う。 そもそも『原因』がわかったとしても、『補充』はどうすればよいのだろうか。 ただのユーザーでしかないボクらにできることは限られてくるはず。
「…ブラック、グレイには【アレ】に関しては説明済みなんだよな?」
 唐突にレッド先輩はブラック先輩に問いかける。
「…【アレ】??」「ええ、もちろん。グレイ、僕がココに案内する前にこの世界について少しお話しましたが、覚えていますか?」「あ、はい!…たしか―」
 ―【野獣人結晶化計画】。 野獣人(ビースト)は生まれつき魔力を身に宿す。万能にみえるが、実は暴走化するリスクもあり、魔力をコントロールできないとそれに身も心も侵され、最終的に純度の高い魔鉱石の結晶となる。そこに目をつけた運営が何も知らずに迷い込んだ野獣人を無理やり結晶化させて原動力にさせる、という非道極まりない計画のことだ。 その実態を調査していると、ブラック先輩から説明があったのを思い出した。 
「俺様の読み通りだとしたら、今回の会議では核心に迫るもんがあった」
 レッド先輩と目が合った気がした。気のせいだろうか。
「それは―…」
 レッド先輩が話そうとした瞬間、まるでそれを阻止するかのように部屋中にサイレンらしきものが鳴り響いた。
「なになになに、このサイレン!?」「…っ!どうやら運営サイドより緊急速報が発信される合図のようですね」
 ブラック先輩はモニターを表示させ、通信欄を確認したようだ。
「イエロー!プロジェクターを起動しろっ!!」「あいあいさー!」
 レッド先輩が指示を出すと、ただのローテーブルだったはずの卓は瞬時に電子盤に切り替わった。そして部屋も暗くなり、卓の中心部にはホログラム化した円盤が現れた。 その円盤から出てきたのは―
「ヒュー…マー…?」
 初めて聞く名前だ。 しかし、この怪しい仮面の男、ヒューマーの肩書きには見覚えがあった。
(あ!あのビラの…!)
 街で配布されていたビラに記載してあった提供元【ヒューマリズミカル・ホールディングス・カンパニー】。 その総支配人という事は…
「この世界…GAME WORLDを創った張本人のお出まし、ですね」
 ブラック先輩は神妙な面持ちでホログラム化されたヒューマーを見つめる。 一体、何をしようとしているのか。 良い予感はしなかった。
―同時刻、GAME WORLD内全体にも緊急速報の警報が鳴り響く。
「おい、見ろ!上空にでっかいモニターがっ!!」「なんだ、なんだ?」「緊急速報って…一体何が起こっているのやら」
 全エリアの上空に突如として現れたモニター画面。 ほとんどのユーザーらは、世界の異変にざわついていた。 無理もない。突然のシステムダウンが起こり、ログ機能低下により元の世界に戻れなくなった彼らはこの架空の世界に「閉じ込められた」も同然の状況のなか、誰もがゲームをプレイする場合じゃなかった。 そんな混乱の渦中にある彼らをよそにモニターが起動する。 画面内には【緊急速報】テロップとともに一人の仮面の男が現れた。 彼の名はヒューマー。 このアミューズメント施設《GAME WORLD》を運営する総支配人だ。所謂、最高責任者という立場にいる者。映像はホログラム化されたものだからなのか、それともシステムダウンの影響だからなのか。鮮明度は落ち、色褪せた画質で映し出されていた。
『―紳士淑女の皆々様。ご機嫌麗しゅう。私の名前はヒューマー。この"世界の理想郷"―GAME WORLDの創設者として、このような形で申し訳ないが、現状、何が起こっているのかを説明させていただきたい』
 エリア中にどよめきが起こる。 滅多に表舞台に現れる事のなかった存在が顔を出してまでする説明となると、事態はより深刻であると誰もが認識した。全員が固唾を飲み、彼の声明に耳を傾ける。
『現在、システムダウンによるログ機能低下が発生したことは既に伝わっていると思うが、そもそも何故、そのような事態が起きてしまったのか。それは―』
 ヒューマーの説明によると、この世界は濃度の高い魔力(マナ)エネルギーで成り立っており、現在その補填が間に合っていないとの事だった。それは運営サイドにとっては由々しき事態だが、それほどに多くの人々に利用してもらえているという事にもなる。しかし、その利用者の中には反乱因子(バグ)とみなされる者も少なからずいるのも事実なのだと語る。
『執行機関"ゲーム・リーパーズ"はそのバグを除去するために立ち上げたもの。彼らには既にある指令を出してある。皆様にもぜひ協力していただきたい。そうすれば世界の維持が安定し、今の不安も解消されると約束しよう』
 ゲームランク『リーパー』所有者がワールド・アウトの権限を持つ所以だと言いたいのだろうか。そもそも彼の言う反乱因子とは一体何を指すのか、誰もが理解に苦しむ内容だった。
「そんなのどうだっていい!早く元の世界に帰らせろっ!」「システムダウンもユーザーが増えたからって…要は私達のせいだって言いたいの!?」「運営の管理不足だろうが!早くなんとかしろっ!!」
 ごもっともな野次が飛び交うと、モニターを観覧していたユーザー達はこぞって騒ぎ出した。 しかし、当の総支配人は表情を変えずに口を開く。
『あぁ、そうだ。言い忘れていたことだが―』
「あ…?うわぁぁぁぁぁっ!!!!」「ひぃっ!?なんで【コイツら】が…!?」「まだポイントを持っているのに…なんで!」
 エリア中に悲鳴が響き渡る。 さきほどまでの野次が断末魔に切り替わるこの光景は人々にトラウマを植え付けるには十分な効果となったことだろう。 そんなことはお構いなしとでも言うように、彼の話は続く。
『私は世界の創設者…いわば世界の生みの親である。我が子を仇なす者は全て、反乱因子(バグ)とみなす。エリア毎に管理ロボットを配置したので、【彼ら】が執行対象を見つけ次第、ワールド・アウトを執行するようプログラムを変えてある』
 一体どれほどのユーザーが一掃されたことだろうか。 管理ロボットがバグと認識したユーザーらは光線を浴びて電子化し霧散していった。
『この不安定な状態でワールド・アウトされることはおすすめしないがね。執行されない為にはどうするべきか…ご理解いただけたかな?』
 総支配人・ヒューマーの演説とともに各エリアごとの中継動画が流れているモニターをアジトで観ていたボク達は動揺していた。 演説が終わり、ホログラム化したモニターも消えると、電子盤の卓がいつものローテーブルに切り替わった。今まで息を止めていたのかと思うほど、全員がふぅ〜っと力を抜いた。 先に口を開いたのは、イエロー先輩だった。
「なにこれ〜…」「チッ…頭がイカレてやがる」「……グレイ、大丈夫か?」
 ボクは頭が真っ白になった。 顔が青ざめていく感覚が分かるくらい、血の気が引いていた。

(反乱因子…世界を仇なす者……それって…)

 指名手配された本来の自分の姿が思い浮かんだ。 手配された理由は、憶測であるにせよ、ブラック先輩がボクの魔力(マナ)が狙いだと言っていた。しかし表立った理由は明確にされていなかった。
(つまり…"私"が…)
「とうとうなりふりかまっていられない状況になったと認識していいでしょうね」「あの……ブラック、せん、ぱい」
 声が震える。 声だけじゃない、心なしか身体まで震えだした。 これは怒り?恐怖? とにかく負の感情がボクを襲う。 ボクの様子に気づいたブラック先輩は、レッド先輩にミーティングの中断を申し出た。
「…リーダー、グレイの体調が優れないようなので僕の部屋へ連れて行ってもいいでしょうか?」
 ボクはどんな表情をしていたのか。 しばらく沈黙だったレッド先輩も「いいぞ」と許可してくれた為、ボクはブラック先輩と一緒にルームへ向かった。
 ブラック先輩はボクをベッドに座らせ、水の入ったコップを渡した。 喉が乾いたわけでもないのに、まるで負の感情を流し込むかのように一気に飲み干した。
「…グレイ?」「…して」「はい?」「どうして…こんなひどいことを…!!誰も…悪くないのにっ!!罪のないヒト達が…どうしてっ…!」
 流し込んだはずの言葉が溢れてきた。 彼に当たっても致し方ないのに。 涙があふれて、嗚咽が止まらない。 これは同情からくる悲しみの涙ではない。 次は…
「…次はボクの…私の番、ですよね?」
 指名手配された理由が明確になってしまった。 運営サイドは私を狙っている。 恐怖に蝕まれる。 この世界に閉じ込められた今、逃れられないのだと囁かれている気がしてならない。 すると、ブラック先輩は軽く抱きしめ、優しく背中をさすってくれた。
「…そうさせない為にも、僕等がいるんです」
 彼はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「本当にそれが可能ならば…あんな回りくどいコトなんかせずに、手当たり次第捕まえて実行していることでしょう」
 彼の言う通りだ。 まだあのヒト達が犠牲になったとも限らない。
「…たとえ、彼らがそうなってしまったとしても、貴女が気に病む事はない。今はただ、無事でいることが重要なんですから、ね?」「でもっ…」「すべてを護る事は不可能に近い。何かを得る為には何かを犠牲にしないといけない。この世界がそう回っているように…貴女はそれを『ぶっ壊したい』のでしょう?」

――『願い』は叶えたのかい?

 あの少年の言葉がよぎった。
 そうだ。 私の……ボクの『願い』は……


 あれから少し落ち着きを取り戻したボクは会議室に戻ることにした。 ブラック先輩に「あまり無理をしないように」と念を押されたが、このままじっとしていられなかった。
(まずはレッド先輩たちに謝って…お話も聞かなきゃ)

「リーダー、ただいま戻りました……何をしているんですか?」
 ブラック先輩とボクが会議室に戻ると、ブルー先輩がレッド先輩を後方に向かって反り投げた状態で固まっていた。状況がよく分からない。
「リーダーにお仕置きしてたとこ〜。んで、ブルーのプロレス技が炸裂したって感じ?」「な、なぜそんなコトに…?(すごく痛そう…)」「……天使と同じ、否、それ以上の痛みを与えようと思って」
 イエロー先輩の状況説明も意味不明だが、ブリッジした状態で淡々と話すブルー先輩に対しても困惑を拭い切れない。
「んおっ?ブラックとグレイかっ!体調はもう大丈夫なのか?」
 やられている側のレッド先輩はボク達に気づき、またもやそのままの態勢でボクのことを心配してくれているが…むしろレッド先輩のほうが大丈夫なのだろうか。それはともかく早く謝らないと。
「あ、えと…はい!もう、大丈夫です。お騒がせしてごめんなさいっ」
 ボクは頭を下げ、ギュッと目を瞑った。会議を中断させてしまったし、こんなときに迷惑をかけてしまったのだから。怒られて当然だ。 しかし、プロレス技から解放されたレッド先輩は特に気にしていない様子だった。 肩を回し「…久しぶりにキツイの喰らったな〜」とボヤいた後にボクのほうを見て、何事もなかったかのようにニカッと笑いかけてくれた。
「体調が良くなったんならヨシっ!」「え…?でもっ」「おめぇらも"じゃれ合い"はここまでだ。2人が戻ってきたことだし、ミーティング再開すっぞ!」「今のをじゃれ合いで済まそうとすんの、ムリがあるんじゃあだだだだだっ…!なにすんのさっ!アホオオカミっ!!」「余計なコトを喋るんじゃねぇ。チビ助」
 呆然と立ち尽くしていると、ブラック先輩がボクの背中を軽く押した。
「くすくす…みんな、僕たちを待ってくれていたみたいですね。さ、ソファに座りましょう」
 ブラック先輩は「ね、良いチームでしょう?」とボクを安心させるように一声かけてホワイト先輩のもとへ向かった。
「グレイち〜ん、ミーティングするよぉ」「…馬鹿の近くが嫌ならココ(膝の上)においで」「ケッ…兄貴を待たせんな、ドジ助」「ふふふ♪ …だ、そうですよ。グレイ」
 先程までの不安が少し和らいだ気がする。 ボクは俯いている場合じゃない。
(きっと、大丈夫…)
「はいっ!」

 最初に指定されたソファに座る。 それを確認したレッド先輩は「よし、揃ったな」と笑顔を見せる。
「後手に回っちまったが、過ぎたコトを悔いるのはナンセンス!俺たち【COLORS】の今後の目的・方針を決めていくぞっ!!」
 COLORSリーダーの号令を合図にミーティングが始まった。

 色とりどり、よりどりみどりな【COLORS】に新たな色が加わった。 灰色の少年はある想いを胸に秘め、会議に臨む。


 BACK  ¦  NEXTAnother Story(Ep 5.5)※【Another Story】は本編で語ることのないSS。 読まなくても問題ない内容になってます。