SUB STORY
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【COLORS】本編・番外編リメイク!(随時更新)
Episode.01 奇跡の姫
昔、二人の神が創った世界。その世界では数多の種が産まれた。
だが種には各差が生じた。
生きる為、守る為に戦争を繰り返す。
神や自然の恩恵を授かる事が無かった
『人間』
神や自然の恩恵の下、魔力に愛されし
『野獣人』
この2種族の争いは未だに絶えない。 (大地界誕生説の1節より) とある諸説の古書を手に銀髪の少女が一人、物憂げな表情で読みふけっていた。 少女は自分の身長ほどある長い長い銀髪を少量だけツインテールにしていた。母親譲りの紅玉を思わせる程の真っ赤な瞳。肌が色白のせいか、その瞳はより一層目立つ事だろう。 そんな彼女は今、《獣ノ森》の深くにあるヒト知られざる大宴会場の控室にいた。そこで行われる催事に今年から参加できる彼女は、その時が来るまで母がくれた古書を読んでいた。 「ハクア…ハクア、聞こえていますか?」「え…あ、はい!母さまっ!」 そこには、短い黒髪の人物とその傍らに長い金髪を一つ束に結っている凛々しき女性がいた。 銀髪の少女、ハクア=ティガーに声をかけた黒髪の人物は、見た目も声もどちらかと言うと男性に近いが、女性ともとらえられてしまうほど神秘的な雰囲気を漂わせていた。その人物は、紅玉を思わせるほどの真っ赤な瞳を細め優しく微笑んだ。 「くすくす…よほど集中していたようですね。ですが、もう身支度を整えなければならない時間ですよ。今宵は貴女にとっても特別となるであろう《獣ノ宴会》が開かれるのですから」「あわわわ…!もうそんな時間!?す、すぐに準備を…!」「姫様、ご安心を。本日の宴会用にとチッパーズ族から衣装を取り寄せております故、それにお召替えくださいますよう」 黒髪の人物の傍らにいた金髪の女性がスッとハクアに衣装一式を手渡し「お手伝い致します」と手際良く着替えの作業を進めていく。 「さすがはリリアン。ハクアは良き従者に巡り合えて幸せ者ですね」「…!なんともったいなきお言葉…美しく、さらにお優しいリュウ様や姫様にお仕えする事、私めもこの上無き幸せ者であります!」「…リリアン姉さまはいつも大げさです。母さまはともかく私なんて特に美しくはありませんし…」 黒髪の人物、リュウ・ヒュードラ=ティガーと金髪の女性、リリアン=フォクシーはハクアの言葉に顔を見合わせる。 今宵はハクアにとって特別な宴会になるというのに、あまり喜んでいないように二人には見えたのだ。 「ハクア、顔をあげなさいな」 リュウはハクアの目の前に座り、そっと両手を彼女の頬に添えた。 優しく彼女の頬を包むその両手は母ならではの温かさをハクアは感じた。 「…母さま?」 ハクアは両性であるに関わらず、誰もが認める美しさを兼ね備えたリュウの顔に見惚れていた。 リュウは優しく微笑み、ゆっくりと口を開いた。 「何を悩んでいるかは分かりかねますが…貴女は今日をもって十六歳という野獣人の女性陣にとっての節目を迎えるのです。もっと自分に自信を持ちなさいな。貴女は私と我らが族長スカー=ティガーの自慢の娘なのですから…ね?」「リュウ様の仰る通りにございます。それに姫様、私の事はもう『姉さま』などとお呼びにならず、『リリアン』とお呼びくださいませ。私は主君をお守りする護衛の一人に過ぎませぬ。この命に代えましても必ず貴女様をお守りする事を改めてお誓い致します」「…お母さま、リリアン……」 ハクアはティガー族族長の娘、それだけでなく母であるリュウは元神獣人ヒュードラ族で『両性』という希少種。 野獣人と神獣人の間に子が産まれた事例がほとんどなく、ましてや遺伝としても男生体が産まれやすいと云われていたところ、『完全な女性体』が産まれた。それがハクアだった。 周りの人々は口を揃えてこう呼ぶ…《奇跡の姫》と。それがどれだけ、彼女にとって重圧を感じずにいられるはずがないことなど、誰も知る由もない。彼女の悩みはそれだけじゃなかった。 優れた魔力を持つ両親の子、そして優れた魔力や才能を併せ持つ四つ歳離れた異母兄、ビャク=ティガーの妹である事による周りからの期待の重圧も耐えられない。 でも耐えるしかなかった。 彼女には今生きている《この世界》しか知らないのだから。 だから、たとえ性格にも容姿にも恵まれなくとも、期待に応えられるように。 …その通り名に恥じぬように、努力するしかなかった。 ああ、なんて小さく狭い世界なのだろうか。 自分は本当にこの世界に必要とされているのかさえも自信がもてない。 母の鼓舞や従者の誓いも申し訳ないほどに、今のハクアにとって全て『それだけお前に期待しているのだよ』と言われているのと変わらない。そうこうしているうちに、化粧も《和:この世界では和式のこと》の衣装の着付けも終え、半透明の頭から足の先まであるベールを身に着け、身支度が整った。 すると、別の使いの者が部屋の入口までやってきた。 「失礼いたします。《獣ノ宴会》の刻が迫ってまいりました。旦那様、並びに若様も準備が整い、お待ちしております事ご報告いたします」「報告ありがとうございます。こちらも準備が整いましたので、今から向かうと返事を」「その必要はねぇ」 リュウの言葉を遮った声の主は入口にいた使いの者に下がるように合図し、部屋に入ってきた。 「ビャク兄さま!」 先ほどまで浮かない表情が一変し、ハクアは心から嬉しそうな表情を見せた。 部屋に入ってきたのは、ティガー族族長の嫡男でハクアとは異母兄にあたる白髪の青年、ビャク=ティガーだった。彼は《華:この世界では中華のこと》の衣装と装飾を身に着けていた。ハクアは兄の容姿に見惚れていた。しかし、そんな妹など見向きもせず、彼はリュウの元へと歩み寄る。 「リュウ、親父がもう少ししたらここに来るから、それまでここで待ってろって…身体まだ本調子じゃねぇんだから、あんまり無理すんなよ」「そうでしたか。それをわざわざ伝えに来てくれたのですね…ありがとうございます、ビャク」「…別に…『もののついで』ってやつだ」「『ついで』? なんのでしょうか?」 もしかして… ハクアの事を一目見にきてくださったのでは!? 「きっとそうに違いない」と期待をした。 そわそわと大好きな兄の自分に対する言葉を今か今かと待っていた。ところが、その期待とは裏腹に全く見当違いの言葉だった。 「…ザンザの兄貴からハクアを呼んで来いって頼まれたから、そのついで」 「ガクッ」と肩を落とすハクア。 そもそもこの兄に期待するほうがどうかとも言えるかもしれないが。 しばらく黙ってその様子を見ていた従者リリアンがしびれを切らして、とうとう口を挟みだした。 「若様、恐れながら…他に仰るべき事があるのでは?」「あ?」「ですから、他に仰るべき事があるのではないかと」「黙れ、女のくせにオレに指図すんじゃねぇよ」