MAIN STORY

Chapter .02

【We are "COLORS"!!】

近づく者は"勇者"か?"愚者"か?彼らの『色』に染まる頃手遅れとなるだろう

Episode.04

   数分後、物陰から恐る恐る顔を覗かせる。 先ほどまで対戦した二人組が跡形もなく消えてしまった。 そんな恐ろしい光景を目の当たりにしたからか。 恐怖で身体の震えが止まらない。 「…い、今のって」「下手したら、貴女も同じ末路を辿っていたところでしたね」  あの光景に見慣れているのか。 それともただ冷静なだけなのか。 淡々と言葉を発するブラック。 彼は「まだ安心できないので」と言い、しばらく身を隠すようにと告げ、周辺を確認しに行ってくれた。 正直、困惑している。 突然現れた少女たちの事、あの二人組の行方… ただのアミューズメント施設にしては謎だらけだ。 (《WORLD OUT》って一体…)  しばらくして、周辺に誰もいない事を確認したブラックが戻ってきた。 「危ないところでしたね。『アレ』はこの【GAME WORLD】の運営…所謂この世界を管理する者たちです。あの二人組のように、所持ポイントをゼロにしてしまうと強制的にこの世界から退場させられる…それが《WORLD OUT》。ああやって運営サイドの者が執行人として現れるんです」「そんな……はっ!先ほどは助けていただきありがとうございました。私はハクんぐっ」  御礼とともに自己紹介しようとした。しかし、彼は私の口に手をあてて言葉を遮った。 「ここでは、その本名は公にしない方が身の為ですよ」「…ケホッ…な、なんでですか?」「それは(ぐるるるるるる~)……?」「す、すみません…ここに来てから、全くご飯を食べてなくて…」  こんな緊迫した状況でなんと空気の読めないお腹なのだろうか。 今すぐに穴があったら入りたい。 沈黙したブラックの様子をおそるおそる見ると、彼は笑いを堪えていた。 「ふふっ…くくっ…すみません。そんな状態だったとは露知らず…いいでしょう。またやつらが現れるかもしれません。僕も貴女に質問しなければならない事があります。ここを離れるついでに《FOODS AREA》に寄りましょうか」「あぅ…面目ないです」   そして私達は《SHOOTING GAMES CORNER》から移動し《FOODS AREA》を訪れた。 このエリアは飲食可能の店が豊富にあり、ユーザーたちの休憩場所だという。 ブラックはポイントの使い道の1つだと教えるついでに、テイクアウト可能なサンドイッチを奢ってくれた。ここでの飲食物は『フードアイテム』『ドリンクアイテム』と呼ばれ、ユーザーは《バフ:自分のステータスにプラス効果を付与される》を得ることができる。 ブラックの説明によると、この世界における『ポイント』は複数の役割を持つのだという。例えば各ゲームに挑む為のビットとして、衣食住に必要な通貨として、そして― 「―ライフポイント?」「この世界では不自由のない生活を保証する代わりに、ポイントによってユーザーを管理しています。ポイントの有無でランクが左右されると同時に、存在の証明となるもの。それがライフポイントです」「じゃあ、ポイントがゼロになると…」「ライフポイントがゼロになった場合、ユーザーは何もできなくなります。この世界での“異端者”とみなされ、運営またはある組織によって《WORLD OUT》が執行されます」「あの、それって」「シッ...!隠れてっ」  目の前には、先ほどの小型ロボットの姿があった。何やら店ごとに徘徊をしている様子だった。 一体、どうしたというのだろうか。 気がつけば、エリア中がなにやらざわついているようだった。 言われた通り、店と店の間の狭い路地に身を隠した。小型ロボットが通り過ぎた事を確認して、ホッと胸を撫で下ろす。 (あれ?そもそも…なんで隠れなくちゃいけないのかな?)  先ほどもそうだが、ポイントがゼロになったわけでもない。 別段何かしたわけでもないのになぜ隠れなければいけないのか、ふと疑問を抱いた。 ブラックに理由を尋ねようと顔を上げると、目の前の壁に取り付けられている貼り紙…のような電子板が目に入った。

「こ、これは…私?」「……事態は想像以上に深刻のようですね」  ブラックさんも電子板を見つめ、何やら考え込んでいるようだった。 (指名手配…?私、何かしたっけ?)  目の前の電子板には確かに私の顔が映されていた。 名前も種族も、どこから情報が流れたのか分からない。 だが1つ言えることは― 「―運営は貴女に目をつけた、そう捉えてもおかしくはない」 (おそらく奴らの狙いは…) 「目をつけたって…私はこの世界に来たばかりなのにっ…本当に何もしてないんですっ」「落ち着いて…騒ぐとやつらに見つかります」  動揺を隠せなかった。 状況が分からない、一体何が起こっているというのだろう。 「…僕についてきてください。そこでお話をしましょう」     ここはエリア内にある個室のリラックスルーム。 このルームは既にブラックの私物化したものの為、彼が言うには運営の目も盗めるし、セキュリティも万全のおかげで会話も聞かれる事はないそうだ。 「さて…まずは改めて自己紹介をしましょうか」  ブラックさんは優しく微笑む。 「僕はブラック。マルチプレイチーム《COLORS》に所属しています。以後お見知りおきを」  彼は丁寧に一礼をし、自己紹介した。 私はというと、先ほど名乗らない方がいいと言われたので躊躇してしまった。しかし、彼はそのまま話を続けた。 「ここは、大手エンターテイメント企業団体の総支配人が造り上げた電脳世界【GAME WORLD】。人間だけでなく、どの種も受け入れる《Everyone's Welcome》を謳った《世界の理想郷》とも云われている架空の世界です」「世界の理想郷…」「ですが、理想郷とは名ばかり…その実態はもっと残酷なものです。それより…貴女のような方が何故こんなところに?」「そ、それは…その…」  私はここに来るまでの経緯を話した。 謎の少年の事、転送装置の事。そしてあの噂の事も。 「街のヒト達が噂していたのです。行方不明者がいて、その大半は野獣人だと…そんな不穏な噂があると知った以上、私が見過ごすわけにはいきません!真相を確かめて…獣王様に報告せねばっ…だから!」「落ち着いてください。事情はだいたい分かりました」 (何が彼女をこうも追い詰めているのか、何か焦りを感じるが…)  少し考え込んだ彼だが、順を追って説明してくれるようだ。 「まず、その少年については僕にもわかりませんが、リーダーなら何か知っているかもしれません」「リーダー、さん?」「僕が所属するCOLORSは5人の少数チーム。チームを統率する者を“リーダー”と呼びます。彼は運営との繋がりを持ってますから、何かしら情報を得ている可能性が大きいのです」 (運営とも繋がりがあるって…危険なんじゃ?) 「次に転送装置の件。これに関しては、実は僕の仲間にエンジニアを得意とする者がいまして、アジトに1つ所有しているものがあります」「でも、入る時に使ったものと同じ装置じゃないと帰れないんじゃ」「本来ならばおっしゃる通りです。ですが、僕らが所有しているものは少し改造しているので、プログラムを書き換えれば元の世界に戻れます」 (…よく分からないけど、帰れるならよしっ!) 「そして、噂に関してですが。はっきり言いますと、その噂は『事実に等しい』です」「え…?」「運営がなぜ貴女を指名手配したかわかりますか?」  首を横に振る。 全く見当もつかない。 「ふむ…僕の推測が合ってればの話ですが、おそらく運営は表向きは別の理由をこじつけて貴女を指名手配していることでしょう。しかし本当の理由は貴女を否、貴女の魔力(マナ)を欲しているのではないかと」「私の…魔力?なぜ?」「この世界を維持するには膨大なエネルギーを必要とします。それも、純度の高いマナエネルギーがなければ既に崩壊していることでしょう。しかし、魔鉱石だけでは充分な火力にならない。そこで運営が思いついた先が―【野獣人結晶化計画】」 (まさか…) 「そう、奴らは膨大なエネルギーを得るために魔力を身に宿した野獣人をエネルギーに変えるという非道極まりない計画を立てた、しかし肝心なその動力室なる場所に未だに僕らは辿り着けないでいるのが現状です」  野獣人の結晶化。 それは野獣人の誰もが恐れ、禁忌とされる魔力の暴走の成れの果てだった。
 『野獣人は無限に魔力を生成する』
 それは大きな勘違いだ。 魔力が暴走し、制御できなければ…身体中に魔力が巡り、魔力そのものに喰われるのだ。その姿はまさに結晶と呼ぶに相応しいほど、純度の高い魔石によって身体が覆われたものだった。まるで棺桶の中で眠るように、永遠に目覚める事はない。 しかし、魔力の暴走を起こすなどそう簡単な事ではないはず。
(一体、どうやって…?)
 ブラックさんが言うには彼の所属するチーム【COLORS】は迷い込んだ同志を保護するだけでなく、運営の暗躍の調査もしているという。 「本来なら、貴女を一刻も早く転送装置で元の世界に帰さねばなりません。それが僕らの役目ですから。しかし状況はそう簡単にはいかなくなりました」  私が指名手配されたことにより、迂闊に動き回る事ができなくなった。 今もなお、小型ロボットたちが私を探していると思うと…考えただけでも悪寒が走る。 「この状況を打破する為の方法が、1つだけあります」「ほ…本当ですか!?」  ずっとここにいるわけにもいかなかった。 かといって今外に出れば、捕まるのも時間の問題だっただろうから、方法があるに越したことはない。 「貴女のデータを書き換える、これが一番手っ取り早い方法です」「私のデータを?」「このレアアイテムの1つ【アバターリセット】を使えば、貴女の名前も性別も種族も全てリセットし、仮初めの姿になれます」 (名前も…性別も!?) 「つまり、貴女は『ハクア=ティガーではない誰か』になりすませばいいのです。そうすれば、運営の目を盗んで【COLORS】のアジトへ辿りつけるはず」  ブラックさんはモニターを操作し、アバターリセットを私のアイテムデータに転送した。モニターのアイテム一覧に【アバターリセット】が追加された。 私は画面をじっ…と見つめる。 これを使ったら、別の誰かになって行動しなければならない。 運営にも誰にもバレないようにしないと、きっとひどい目に合う。 でも― (―…このまま、帰って終わりで、いいのかな)  結局、何もできずにおずおずと元の世界に帰るしかないのか。 (もし、許されるのなら…)  私はブラックさんにあるお願いをすることにした。  「ブラックさんっ、お願いがあります!」   突然声を張り上げたからか、ブラックは目をまるくした。 さらにこのあと、その願いに驚かされる事になる。  「私を、仲間に入れてもらえませんか!?」  
「なんですって?」  突然何を言い出したかと思えば「COLORSに加入させてくれ」というではないか。 (困ったな。噂とは全く違う、破天荒なお姫様だったとは…)  僕は返答に困った。 なぜなら本来なら役目を果たさなければならない立場だからだ。 しかし、即興とはいえ、ダブルスを組んだ際に見せた戦略的構想力は優秀だった。 ただ帰すには惜しいと思うほどに。 「お願いしますっ!私も力になりたいんですっ!」  彼女は勢いよく90度腰を曲げて頭を下げだした。 なぜそこまで必死なのか、彼女の考えている事は分からない。 ここで渋っても致し方ないと判断した僕は、彼女に提案をすることにした。 「顔を上げてください……はぁ、分かりました。貴女の意思を尊重しましょう」「……っ!!ありがとうございますっ!」  彼女は顔を上げ、ぱぁっと笑顔になった。 しかし喜ぶのはまだ早い。 そう簡単に誰もが入れるわけではないのだから。  「ただし…アジトに行く前に、いくつか条件をのんでもらいます。条件を満たさない場合は……いいですね?」  僕はいくつか彼女に条件を出した。 この条件さえクリアすれば、上手くいけば加入はできるかもしれない。 しかし1つでもクリアしなければ、COLORSに入る事は認められない。 彼女は強く頷き、条件の1つをクリアさせる為に【アバターリセット】を起動させた。    その条件とは―。     BACK  ¦  NEXTAnother Story(Ep 4.5)※【Another Story】は本編で語ることのないSS。 読まなくても問題ない内容になってます。