MAIN STORY

Chapter .01

Welcome to the GAME WORLD

誰もが平等に平穏に暮らせる世界“世界の理想郷”へようこそ

 Episode.02



「げぇむ…わーるど? なんですか、それ?」  ここは人間の王国、セントテラ・キングダム…の平民たちが居住する街はずれにひっそりと佇むカフェ【NORANEKO Cafe】。 このカフェはどの種族の者でも利用できる数少ない異種間平和主義の象徴《Everyone’s Welcome》を掲げている。人間はもちろん、街に寄った魔術師や野獣人(ビースト)らも憩いの場として重宝しているカフェだ。 そんな賑わいを見せるカフェで人気のブレンドコーヒーを嗜む長い銀髪の少女とその少女の向かいに座る緑の髪をトップで束ねた可愛らしい少年がいた。彼はティースプーンを片手に驚きの表情を見せた。 「えっ!ハクアちん、知らないの?今じゃ世界中の誰もがその話題で持ちきりなのに!」「こら、チムニー。おヒメさんは家から出れるようになってまだ日が浅いんだろ? 知らなくても無理もないさ」  キョトン顔をしている銀髪の少女の名は、ハクア=ティガー。 野獣人の種族の中でも上位種にあたるティガー族の娘だ。傍らにいた白いヘッドタオルをしている人間の男が言った通り、彼女はとある事情でほぼ家から出ることは許されていなかった。 はたから見ると人間と相違ない容姿だが、よく見ると顔に《獣ノ証:野獣人には必ずある痣のようなもの。種族によって痣の形は異なる》がある。ハクアの場合は左頬に、緑の髪の少年、チムニー=チッパーズの場合は鼻に獣ノ証がついている。 「え〜、だって〜」とチムニーは注意を受けてバツが悪そうにするも、軽くため息をつき説明した。 「GAME WORLDは、と〜っても大きなアミューズメント施設…要はみんなが遊べる場所、みたいな?その名の通り、ゲーム遊び放題で楽しいとこだヨ☆」「楽しいとこ…ハクアも行ってみたいですっ」「ダ〜〜メッ☆」「えぇ!? 連れてってくださる流れでは?!」  まさか「ダメ」と言われるとは思わなかったであろうハクアは狐につままれた気分になった。 チムニーは悪戯っぽく、ニシシッと笑った。しかし、彼らのやりとりを側で見ていた男の視線に気づいたチムニーは慌てて話をそらした。 「あ、あ〜〜えぇっと…マスターのコーヒーって、ほんっと〜に美味しいよね! ね、ハクアちん!」「露骨に話を反らしすぎでは…?」「嬉しい事言ってくれるじゃないか、チムニー」「マスターさん。マスターさんもGAME WORLDってご存知ですか?」  そばにいた男の名はゾフィ。 NORANEKO Cafeのマスター…所謂、このカフェの経営者兼店長だ。 彼の淹れるコーヒーは誰もが口を揃えて「美味しい」と絶賛するほどだ。それだけでなく、まだ29歳と若いにも関わらず知識、経験が豊富なうえに人当たりが良いときた。そんな彼は種族問わず誰もが信頼する存在だった。 特に彼女は箱入り娘だからだろうか。初めて見るもの聞くものに興味を持ちやすい年頃の彼女はキラキラと目を輝かせて「教えてほしい」と訴えてくる。 「もちろん、知ってるとも。うちと同じ《Eeryone's Welcome》を掲げているからね。なんでも《ゲーム》たるものに挑戦できるとかなんとか…ま、最近はいい噂は聞かないがね」「と、言いますと?」「あまり詳しくは知らないが…その施設に入ると別世界の疑似体験ができるらしい。だがその世界に入り浸る者がいるせいか行方不明の届け出が大量にあるとか、ゲーム内容によっては借金を背負う者が跡を絶たないとか、あと」「いや、マスターめっちゃ詳しくない?!」    いったいどれほどの情報を持っているのか、それとも冗談なのか。彼が言うと冗談には聞こえないのだが。 「ほぼお客さんの土産話だけどね。まぁ、要は『楽しいだけの場所じゃない』ってこった」「行方不明者が出ているのは怖いですね…」「そ…そそ!ハクアちんの事だから絶対、ぜ〜〜〜ったい入り浸っちゃうから!!ハクアちんのパパンもママンも心配しちゃうでしょ?」  両親を出されると何も言えない。 心配してくれるのはありがたいが、いつまでも子供扱いされたくない彼女はあまり納得できなかった。だが、付き人として一緒に行動してくれるチムニーが連れて行ってくれないのであれば断念するしかなさそうだ。 「それに比べて、マスターのカフェはちょ〜居心地良いよねぇ。大昔の人間や野獣人たちからしたら、きっとありえないもんね!」「はははっ! それがうちの“売り”だからね。じゃなきゃ『誰でも歓迎!』なんて掲げられないだろう?」  「それもそっか☆」とチムニーとマスターは談笑を続けているなか、ハクアは1人だけ考え込んでいた。  (…羨ましい…私にも“自由”があったら良かったのに)   結局、この日はどこにもよらず、帰路につく。 だが彼女の顔はまだ浮かない顔をしていた。 「……はぁ」「も〜、まぁだ気になってるの〜?」「いえ、そういうわけでは…ただ」「ただ?」「私は…このままでいいのかな、と」  歩みを止めるハクアとチムニー。 ハクアの問いにチムニーは笑顔で答えた。 「ハクアちんはそのまんまでいいんじゃないかな」「でもっ」「ハクアちんが納得してないなら…それこそハクアちんが1人でも大丈夫って事、認めてもらうしかないじゃん?ハクアちんの頑張り次第では、そのうちどこにでも行けちゃうかもよ〜?」「私、次第…」  「ま、アイツは許しそうにないけどw」とつぶやきながらチムニーは再び歩き始めた。  (…いつまでも誰かに頼ってばかりじゃダメ、だよね)   ハクアは胸の前できゅっ…と拳を握る。「ハクアち〜ん?」とチムニーの呼び声に応え、駆け寄る。   ある思いを胸に抱いたまま。     BACK  ¦  NEXT