MAIN STORY

  Chapter.03

【The Game Reapers】

 "彼ら"は恐れられていた

 実力主義のこの世界で

 その存在は『脅威』そのもの

Episode.06



「俺たち【COLORS】の今後の目的・方針を決めていくぞっ!!」
 COLORSリーダー、レッド先輩はとあるモニター画面を拡大させてボク達に見せた。 そこには5人のユーザーの顔写真が映っていた。
「このヒトたちって…」
 見るからにチャラい、妖艶、子どもなど、COLORSに引けを取らない独特な印象を持たせるヒト達だが、画面上には《Game Reapers》と表示されている。 Game Reapers…略してGRs。運営のトップ、ヒューマーに実力を認められた者だけに与えられる世界最強の称号『リーパー』が集う組織。レッド先輩もその組織の一人だ。先輩を含めて6人のリーパーが存在する。 画面上の5人の顔写真の下には与えられた称号が表示されている。
【レースゲーム・リーパー "群青の死神"】オールバックの金髪、大きなゴーグルが目立つ男性。表情のせいか、ポーズのせいか…レッド先輩よりも胡散臭そうに見えてしまうのはなぜだろう。
【シューティングゲーム・リーパー "純白の死神"】白い狐耳に赤い牡丹の髪飾りを添えた、まさに"純白"・"妖艶"という単語がふさわしい女性だと思う。ただ先輩たち曰く『"純白"というには程遠い性格』らしい。
【Virtual RPG・リーパー "緑陽の死神"】キャメルカラーのふんわりとした髪に眠そうな瞳をした少年。自分よりも幼い子までもが《リーパー》の称号を与えられていることに驚いた。しかもボクと同じくデビデビくんぬいを持っている…仲良くなれそう。
【リズムゲーム・リーパー "紫苑の死神"】ホワイト先輩とは色違いの黒いオオカミを模した毛皮マントを羽織った中性的な印象をもつ青年(だと思われる)。なんとなく雰囲気がブラック先輩に似てなくもないような…?
  そして―

【サバイバルゲーム・リーパー "漆黒の死神"】黒フードを深く被り、口元は複数のベルト状のマスクで隠している。彼こそが「世界最恐」だと云われている人物。誰をも寄せ付けない雰囲気が画面上でも伝わってくる。

 …これが、ボクが抱いた彼らの第一印象だった。

「お前らも知ってる通り…俺らGRsに与えられた任務は『反乱因子(バグ)の除去』。簡単に言うと、WORLD OUT執行の権利を持つ俺等の手で不正ユーザーを狩れって話だ」「口で言うのはカンタンだけどさ〜、やっぱり無理ゲーじゃん?特にその5人にとってはさ」「どうしてですか?このヒト達って強いんですよね?」
 イエロー先輩はまたもや気だるそうに指摘をする。 新参者のボクからしたら、なぜ無理があると断定できるのかが分からなかった。
「リーダーと彼らには大きな違いがあるんです。《ソロ》か《マルチ》かで権利の効力に差が生じます」
 ブラック先輩の説明によると、マルチプレイチーム"COLORS"のリーダーを担うレッド先輩がリーパーの称号を持つ事により、そのチームメンバーにもWORLD OUT執行権が付与される、とのこと。
「本来なら、リーパーランクではない僕たちはポイント全賭けモードに切り替える事は不可能ですが、リーダーがGRsの一員の為、僕たちもそれが可能となり執行する事も許されます」「あっ…そういえば"あの時"も!」
 異色なアバターコンビに絡まれそうになり、ブラック先輩が助けてくれたあの時、全賭けモードに切り替えてプレイしていた事を思い出した。 ブラック先輩は頷き、肯定した。 「そしてソロプレイヤーのリーパーは、他のユーザーにその権利を分け与える事ができない仕様になっているはずです。それだと任務を遂行するにあたって比較的効率が悪い、とイエローは言いたいのでしょう?」「そゆこと〜☆それにぃ、このメンツがお互いに手を組むとは考えにくいしねぇ」
 彼らの関係性は謎だらけだが、先輩たち曰く『我の強い者の集まり』らしい…到底、ヒトのこと言えない気がしないこともないが。
「他の連中にとって効率が悪いっちゃ悪いが…それは俺たちも同じだ。マルチと言えど、この人数じゃ時間がかかるのは目に見えているだろ」「じゃあやっぱ無理ゲーじゃん」
 チッチッチッ…とレッド先輩は人差し指を左右に振った。
「連中も頭はイかれてるが、冴えてるからな。割に合わないと声が上がる前に手を打ってきた。それが『執行権の緩和』だ」「執行権の…緩和?」
 執行権の緩和という事はどういう事なのだろうか。 一人でも、複数人でも効率が悪いという原因は、その権利を持つユーザーが限られているということ、つまり…―
「―…WORLD OUT執行できるヒトが…増える?」
 つい口に出てしまった。先輩たちは一斉にボクの方を見る。レッド先輩のお話の途中だったのに口を挟んだから怒られるかと思ったが、むしろレッド先輩は上機嫌だった。
「ザッ…ツライツッ!!グレイの解釈はほぼ正解だ。GRsの任意で権利を他ユーザーに付与することを運営は認可したわけだ。そうすりゃ、ソロスタイルもマルチスタイルもフェアになるって魂胆だろうな」「ふ〜ん、それで僕たちも仲間増やして運営の"お掃除"に協力してくって感じ?」
 フェアになるということは、マルチプレイヤーのレッド先輩も任意でボク達以外のユーザーに権利を与える事ができるということになる。
「メンバーを…増やされるんですか?」
 なんとか仲間入りしたボクからしてみれば、少しモヤッとしてしまうが…今後のチームの方針がそうなるのなら致し方ない。
「はっ!わざわざリスクを増やすなんて愚行を兄貴がするわけがねぇだろが」
 ガリッと音を立てて口に含んでいたアメを噛み砕くホワイト先輩。
「リスクって?」「僕たちは互いに詮索しない、情報を外部に漏らさないことをルールに掲げているでしょう?人数が増えれば増えるほど、リーダーや僕達の目を掻い潜って情報を外部に売る輩が現れる可能性が高くなります」「…メンバーを敢えて増やす事はない。ただ馬鹿の権限で俺達以外のユーザーに執行権を与えることができるってだけ」
 ブラック先輩とブルー先輩が分かりやすく答えてくれたおかげで少し理解できた。確かにボクらは皆「人間になりすましている」。所謂この世界の実態を調査するために潜入しているわけだから、情報漏洩はご法度なのだ。
「ま、確かにメンバーはこれ以上増やすことはしねぇし、どこの馬の骨とも知らん奴に権利を与えるようなことはしねぇよ」
 安心しろと言わんばかりに、笑顔で断定した。しかしその後すぐに空気は一変した。
「俺様は、な」「え……?」「他のリーパーは"協力者"を募るでしょうね。おそらくなんらかのメリット…保証を運営から約束されたのでは?」「あ〜、確かにそれはあり得るかもぉ。まさかと思うけど〜…それで僕らに喧嘩売ろうとしてたり?」「ケッ…喧嘩上等、売られたらその分、返り討ちにしてやりゃあいいだろうが」「……脳筋阿呆が」「あ゙ ぁ゙!?」「……俺たちはなんとかなる。だがルーキーのグレイは違う」「え、ボク…?」
 確かにこの世界に来たばかりで、ゲームなんて超超超初心者だ。 でもこのCOLORSの一員になったから安心・安全だと勝手に思っていた。
「グレイ、お前さんはこの世界に"なんらかの方法"で迷い込んだらしいが……俺はそれが運営側が指摘する"不正ログイン"と関係していると踏んでいる」
 ボクは内心ドキッ…!とした。 ボクがここに迷い込んだ経緯は、ブラック先輩が事前に伝えてくれているらしいが、ボク=指名手配中の少女だとバレてしまったのではないかと、焦燥感に駆られる。
「何か手がかりでも?」
 ブラック先輩がさりげなく問う。
「いんや、運営に探りを入れてみたが…あの様子だと知らないみてぇだな。奴らでも予期しない現象だからこその反乱因子(バグ)になるんじゃねえかって俺様なりの推測だ」「ほぇ〜…ってことは、グレイちんがバグの対象かもしれないけどぉ、まだ運営側は気づいてないってコト?」「おそらく、な。が!それも時間の問題だ。グレイは既にCOLORS所属メンバーだが、他の死神どもの動向次第では執行対象と認定されちまう可能性が高い」「それこそ手当たり次第…まずはルーキークラスのユーザーを狩る事も充分あり得ますから…何かしらの対策は必須、という事ですね」
 つまり、完全に安心・安全ではないというコト。 正体がバレたわけじゃないようだから、ひとまず胸を撫で下ろす。
「そこで、だ。ブラックがグレイを紹介した時の《案》を採用する」「グレイちんを皆で育てようってやつ?」「……初耳」「グレイはゲームのプレイ経験がほぼゼロに近いので、僕たちがマスタークラスまで育てたら面白いのではないかと提案したものです」「…なるほど、手取り足取り教えてあげるってことか」
 何故か悪寒が走った。
「そのとーり!俺たちは俺たちで運営と他の死神どもの動向を見張り、まずは守りを固める。同時にグレイのレベルを上げちまえば、そう簡単にキルされることもなくなる」「でも、先輩たちの負担が」「ノープロブレムッ!!これはお前さんのでっかい"野望"を叶える為にも必要な手順だしな」「ボクの…野望…?」

「世界、ぶっ壊すんだろ?」

 先輩の言葉にハッとする。 『こんな世界は間違っている、壊したい』と、口で言うのは簡単だ。 しかし今のボクのままじゃ、叶いそうにない願いだった。 「そのためには、まずはスキルを磨かないと話は始まらねぇ!それに俺様は面白くない"ゲーム"には興味ねぇし。人生楽しまなきゃ損、損!!」
 レッド先輩はボクの頭をわしゃわしゃと撫でた。
「まずは楽しまないとなっ!そうだろ?」「そーそー、面白くないと退屈でつまんないもんネ☆」「ドジ助のくせに要らねぇ心配すんじゃねぇよ」「……単純馬鹿と脳筋阿呆が頼りないから仕方ない」「てめぇ、さっきから喧嘩売ってんのか!?ガルルル…!」「やめなさい、ホワイト」
 今にも掴みかかろうとする勢いだったが、ブラック先輩の一言で「チッ!」と舌打ちはしたもののすぐに唸り声を収めた。
「ボクもリーダーに賛成です。それに僕らは全員マスタークラスのプレイヤーですから、ね?」
 だから何も問題ないと優しく微笑むブラック先輩。 涙が出そうになるも、ぐっと耐える。
「…は、はい!ご指導、よろしくお願いしますっ!!」
 不安は拭いきれていない。 だが、彼らと一緒ならとても心強かった。 そしてチームの方針…ミッション1つ目は《グレイの育成》が決まった。
「でもぉ…問題はやっぱりGRs対策だよねぇ」「え、ボクのレベルアップがそれなんじゃ」
 てっきりボクが強くなればいいと思っていたが、そうではないらしい。
「それはまた別問題ですね。こうして僕たちがミーティングしている間にも既に動きを見せているリーパーがいるように、より一層警戒をしなければいけません」
 ブラック先輩が自身のモニターの通知欄にある情報を見つめていた。 彼が閲覧した通知はシューティングゲーム・プレイヤーに向けたものらしく、発信元は"純白の死神"だった。
「お、嬢ちゃんは仕事が早いなぁ」「うわっ、もう協力者を募ってんの!?あの純白がそんな早く動くとは思えないケド?」「大方、取り巻きの"群青の死神"にやらせているのでしょう…リーダー、どうしますか?」
 早くも動き出すリーパーがいるとなると、焦りが出るかと思われるが、レッド先輩はむしろ平然としていた。
「ん〜、嬢ちゃんの事は一旦様子見、だな。丁度いい、ブラックはこのまま純白の嬢ちゃんの動向を監視・報告にあたってくれ」「承知しました」「リーダー、僕は〜?」「イエローは最近VRPGにハマってるし、"緑陽"担当だな」「あいあいさ〜☆」「ブルーは"群青"担当。ホワイトは"紫苑"担当な。んで、俺は"漆黒"の旦那を担当する。各自担当リーパーの動向について随時報告すること!」
 テンポ良く担当を割り振っていく。どうやら先輩たちのテリトリーもしくはそれに近いゲームジャンルのリーパーを担当するようだ。
「今はとにかく様子見だ。何か怪しい動きがあったら必ず報告、いいな?」「はいは〜い!リーダー、質問っ!」
 イエロー先輩が長い袖を振り回す。 なにか気になることがあったようだ。
「おう、どした?」「すんごぉく、さりげなく言ってたけどさ〜"漆黒の死神"って引退してたんじゃないの〜?」
 そういえばブルー先輩と合流する前に、そんな話をしていた気がする。 漆黒の死神は数ヶ月前からこの世界から姿を消したから、引退したのではないかと噂されていた、と。 しかし、レッド先輩は自ら担当すると言っていた。つまり―
「ん?旦那もこの世界にいるぞ?」「ハァーーー!?なんっっでそんな重要なコト、早く言わないの!?」「お、なんだ?イエロー、お前も旦那と遊びたかったのか?俺もだ!」「ちっがぁーーーう!!むしろ、いてほしくなかったわ!!」
 イエロー先輩はジタバタとソファの上で地団駄を踏んだ。ブラック先輩も「やはり噂でしかなかったということですか…」と落胆していた。 それほど相当危険な人物だということなのだろう。
「えっと…世界最恐のヒト、なんですよね?」「ヒト…と言っていいものか分からない存在ですが」「…?」「安心しろ、お前ら!旦那と俺はマブダチだからよ♪余計なコトしなけりゃ、旦那も俺たちには噛みつかねぇから」
 「ダッハッハッハ!」と高らかに笑うレッド先輩。 「せっかくこの遊び放題の世界にいるんだ。楽しまねぇとな!!」
(不思議なヒト…この状況下でこんなに明るく振る舞えるなんて)
 リーダーたる所以なのか。 どんな状況でも弱音を吐かない、笑顔の絶えない自分の許嫁を思い出す。 不安など忘れて、ついクスリと笑ってしまう。
「んも〜しょうがないな〜」「……馬鹿になにを言っても無駄」「さすが兄貴っ!」「くすくす…リーダーらしいですね」
 どうやら先輩たちも現状を受け入れたようだ。 こうして、2つ目のミッション『GRs対策』も定まった。 あとは―
「―…つーことで今回のミーティングは、以上!!解散!!」「えっ!?お、終わりですか!?」
 まだ他にやることがあるはずなのに。 ものすごくアバウトに話が終わってしまった気がする。しかもGRs対策も担当を割り振っただけで、具体的にどうするかを話し合っていない。 それなのに進行役のレッド先輩は「終わりだぞ?」とキョトンとした顔だった。 さらには他の先輩たちも「今回はさすがに長かったネ〜」「……疲れた、寝たい」「ブラック、行くぞ」「えぇ、ついでに情報収集もしておきましょうか」と本当に解散してしまった。
「え、えっと……ボクは何をすれば??」「そうだなぁ、グレイはとにかく『ゲームをプレイ』だな」「ゲームを…?」「お前さんは要は『経験不足』に『知識不足』。いろんなゲームを数こなして、ポイントを増やすと同時にプレイスキルも上げていくのが目標だ」
 そう言われても何から始めればいいのかが分からない。 もちろん初めてのゲームに手を出すときはトレーニングでチュートリアルを経て実践に入るという流れは知っている。 ただ、どのジャンルのゲームから始めるべきかが定まらない。
「んじゃあ、俺様と「僕と一緒にゲームエリア周ろっか☆」「わわっ!?イ、イエロー先輩っ!?」
 ボクとレッド先輩の間に突然現れたイエロー先輩に驚いてしまった。 たしか彼は皆と一緒に部屋を出ていったはず。いつの間にか戻ってきていたらしい。
「単独行動は原則禁止でしょ?ブルーは寝に行っちゃったし、モノクロは出稼ぎに行っちゃったし。フリーなイエローさんがグレイちんの特訓に付き合ってあげるヨ〜」「でもイエロー先輩も忙しいんじゃ…」「ゲートは結局システムが復旧しないと、なぁんにもできないっぽいもの。ね!リーダー、いいでしょ〜?」
 イエロー先輩はまるで親に強請るような素振りでレッド先輩にお願いをした。 ボクとしては先程もエリアを案内してくれたのもあって、気心知れたイエロー先輩の先導は願ったり叶ったりだ。レッド先輩は何故かしかめっ面をしていたが。
「…はぁ、分かった。いいか、無駄遣いするなよ。変なとこにも連れてくな、死神どもを見かけても無視しろ、あとは―」「ダイジョブ、ダイジョブ〜☆お子様じゃないんだしぃ、そんなに心配しなくてもいいって。ちょぉっと軽く遊んでくるだけだよ?ね、グレイちん!」「は、はいっ」
 「…さっきやらかしたばっかだろうが」とレッド先輩は呆れていたが、イエロー先輩はそんな彼を無視し、ボクの手を取って「善は急げダ〜!」とゲートを起動してゲームエリアへ向かったのだった。

―これは"ゲーム" 既に始まっている この世界を生き抜く"ゲーム"が…―



―Chapter.03 Fin.―
 BACK  ¦  ーーーAnother Story(Ep 6.5)※【Another Story】は本編で語ることのないSS。 読まなくても問題ない内容になってます。