SUB STORY
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COLORS 番外編
COLORS 番外編
【COLORS 前日譚】
【COLORS 前日譚】
これは【COLORS】結成前の物語少女の知る小さな世界の物語
Episode.03 理想と現実
時を遡る事、数分。 ハクアは目的地の宴会場の広間までの道のりを長く感じていた。 しかも道行くところどころで皆、思い思いに酒を飲んだり、大声で笑いあったりと初めて見る光景に酒を飲んでもいないのに悪酔いしてしまいそうだった。 それだけではない。ハクアとビャクが通るたびに皆、話す事も忘れ、二人を見るのだ。その視線の先が自分に向けられているのではないかと思うと、不安でたまらない。 ああ、どうか、どうか… 何事もありませんように。そんな不安に押しつぶされそうになりながらも、ハクアは懸命に兄についていくと、ビャクは急に立ち止まった。 「?…兄さま?」「これはこれは、ティガーの若君ではありませぬか! このようなところでお会いできて大変光栄です。御父君にはいつもお世話になっておりまして」「…悪いが、先を急いでいる。挨拶なら後にしてもらえるか。行くぞ、ハクア」 唐突に声をかけてきたのはどこぞの一族の男だった。 しかし、ビャクにとっては優先事項が相当低かったのだろう。適当にあしらっていた。それでも男は酒に酔っているのか食い下がり、ハクアをじ~っと見てきたと思ったら、おもむろに口を開いた。 「ほほう…もしや貴女様がかの有名なハクア様ですな! いやぁ私も運がいい! こうして奇跡と謳われる姫君にもお会いできるとは! しかし、思いのほか、まだ幼くお見受けしますが…今日は兄君の付き添いですかな?」「え…?」 ハクアは耳を疑った。 もともと、歳の割には確かに幼く見えるかもしれないと自分でもコンプレックスだったのだが、改めて他人から見た自分に対する評価を知り、返す言葉がすぐには思いつかなかった。 行き先々でのハクアに対する視線は、誰もが知るあの女嫌いのビャク=ティガーが幼子を、しかも女子を連れていたのが物珍しかったらしい。初めて公の場に参加した為、ハクアを知らないのも無理もない。 そもそもの話、彼女がまだ一人では宴会に参加できないほどの幼子に見られてしまっていたという現実をつきつけられたという事になる。 ショックで何も言い返せずにいるハクアを嘲り笑うかのような視線に耐えられないと思ったその時、黙っていた兄がいきなり男を壁にのめりこませる勢いで打ち付けた。 「がはっ!!?」 男も周りの者たちも一瞬何が起きたのかが分からなかった。 そこには、その場の全員が青ざめるほどの魔力のオーラを身にまとったビャクがいた。 「…オレの妹は確かにとろ臭くて、弱っちいが…てめぇみてえな世間知らず野郎に値踏みされるほど餓鬼じゃねぇんだよ! この雑魚が! とっとと失せろっつってんだろが!」 正に罵詈雑言を浴びせるとはこの事だろう。 男は酔いが覚めたのか、誰よりも血の気の引いた顔で「ひえぇぇぇ! お許しを~!」と叫びながらその場を立ち去った。気が付けば、他の者達も誰もその場にはいなかった。無理もないか。 あっけにとられていたハクアは我に返り、すぐさま兄のもとへ駆け寄る。 「ご、ごめんなさい、兄さま! 私なんかの為にお手を煩わしてしまって…」 慌ててビャクに謝罪をすると、ビャクは珍しくハクアをじっと見つめてきたと思いきや、ハクアの頭をなでまわした。ハクアは突然の行為に戸惑いを隠せないでいた。 「…に、兄さま?」「…ふん、行くぞ」 (もしかして…慰めてくださった、のかな?) あの野獣人の男の無礼な態度にイライラしただけかもしれないが、ビャクのおかげで少し気持ちがスッとした気がした。何を考えているのかが読み取れない。それでもたまに見せる兄の優しさにいつも救われた。 (でも、これからはそうはいかない。) そうこうしているうちに、だいぶ時間をかけてしまったが『レオの若』こと、ザンザ=レオが待っている宴会場の広間にたどり着いた。 「いいか、絶対に兄貴に失礼のないようにするんだぞ」「はい、兄さま」 さすがのビャクも緊張しているようだった。 ハクアにもその緊張がひしひしと伝わってきた。 彼のこめかみから一筋の汗が滴る。 (…やっべ〜。変なおっさんにこいつが絡まれたせいで、すっげぇ待たせちまった。たぶん…いや、絶対に怒られるじゃねぇかあぁぁぁ!) …ただただこれから我が身に起こるであろう結末に絶望を感じていた。 広間に入ると、先ほどとは打って変わって、比較的若い年齢層の野獣人達が集っていた。ここもどんちゃん騒ぎとなっていたが、それもビャクが来た事で皆静まりかえる。だが、先ほどとは違って、ハクアに絡んでくる訳ではなく、ひそひそと話したり、ざわつきだした。 (ここでも、やっぱり…) 「なぁ、もしかしてビャク殿の側にいる娘って例の噂の…?」「《奇跡の姫》じゃないか?今日がお披露目なんだ!」「まぁ、なんて可愛らしいのかしら」「母君に似ていらっしゃるな」「でもちょっと幼くない?」「ビャク様が凛々しいからそう見えるだけじゃない?」 などとやはり、みな、似たような事を話しているのが嫌というほど聞こえる。 しかし、気のせいだろうか。 奥の間の付近に座ってる女性陣のうちの一人の視線がなぜか冷たく感じるのは。 またもや場の雰囲気に呑まれてしまいそうになった、その時だった。 「随分と遅かったなぁ、ビャク」 声のした奥の間の方を見ると、目の前には大きな寝椅子でくつろいでいる金髪の大柄な男―ザンザ=レオ、その人がいた。 ビャクはさっきまでの傍若無人ぶりが嘘のように「びくっ」と身体をこわばらせた。 「お、遅れてすみません! ザンザの兄貴! もっと早く着きたかったんすけど…その」 ものすごい低姿勢かつ勢いよく土下座しだしたので、ハクアは若干引いてしまった。 兄のこの低姿勢は母・リュウ以外では初めて見た気がする。 「あぁ~いい、いい。お前の事だから、あれだろ? まぁた変なやつに絡まれたんだろ。お前の魔力がここまで伝わってきたほどだし、なぁ?」
(母さまの仰っていた通りの御方…)
レオの若は《全ての魔力に愛されし存在》と云われるほど魔力感知能力が優れていて、複数の自然の魔力を身に宿す、神と同等の力をもつといった獣王の血筋の中でも最も優れた才能の持ち主だ。 魔力の流れを辿ることができるとも云われていた。感じるというよりも、おそらく何かが視えていると表現した方がしっくりくる。 (この方こそ『奇跡』という言葉が相応しいのでしょうに。) 昔話のように、幼い頃リュウからレオ族にまつわる話は聞いていた。 中にはザンザのようなまるでおとぎ話を彷彿とさせる話もあったので、半信半疑だった。 そんな完璧に近い彼はいったいなぜ自分なんかを呼びだしたのか。 弟分の妹だからか、はたまた世にも珍しい《奇跡の姫》だからなのか。 もしそうだとしたら、こんなちんちくりんで申し訳ないなと心の底から思うハクアだった。 ビャクとザンザが本当の兄弟のように仲睦まじく話している光景を見て、羨ましいと思った。自分ももし男の子だったら…もっと自信をもてただろうし、兄ももっと見てくれたかもしれない…などと一人悶々と考え事をしていた。 すると、ビャクがハクアの側にきて耳打ちをしてきた。 「ハクア、ザンザの兄貴の御前だぞ。顔をあげろ」「あ…はいっごめんなさい、兄さま」 母から「粗相のないように」と言われていたのに。 まだきちんと挨拶もしていない事に気づき、慌てて顔を上げ、ザンザの前に出て一礼し必死に笑顔をつくった。 「ご挨拶が遅くなり、大変申し訳ありません。今宵の《獣ノ宴会》より初めて参加させていただきます、ハクア=ティガーと申します。兄や母からレオの若様のお話はよく伺っており…その、お会いできて光栄です」 ちゃんと笑顔で言えただろうか。 兄の顔色を横目で伺うが、目が合っても顎で「前を見ろ」と合図されてしまった。 ザンザはと言うと、何が良かったのか、満面な笑みでハクアを見ていた。そして、ハクアに向かって雄々しい手を差し伸べ「おいで、ハクア姫」と、とても優しい声でハクアを呼ぶ。 ハクアは突然の事に少し躊躇したが、皆が見ている前で断る事なんてできない(ましてや兄もめっちゃ見てる)のでおずおずとゆっくりとハクアも手を差しだす。すると一瞬で手を取られたと思えば、懐へと抱き寄せられた。一瞬の出来事でハクアはとても困惑をしていた。 周囲の者達もその光景にどよめいた。側に居座っていた女性陣も全員開いた口が塞がらなかった。 ハクア自身も戸惑いを隠せないでいると、ザンザはハクアの長くて細い銀髪に手をかけ優しくなでた。そして、愉悦に浸った面持ちで口を開いた。 「あぁ…ハクア、オレはお前に幼い頃会ってからず~~っとこの日を待ち望んでいた。あの頃のオレの目に狂いはなかった! この細く艶のあるシルクのような髪も、白く透き通る柔肌も、その麗しい紅玉の瞳も…全てにおいてオレの…未来の獣王の妻として相応しい。オレもハクアに会えて心から嬉しく思うぞ」 今まで溜めに溜めていた想いを一気に放出したかのように、これでもかというぐらい褒めちぎってきた。 一瞬、何を言われたかはよく分からなかったが、ものすごい勢いで恥ずかしい事を言われた気がした。 ハクアはあっけに取られてしまったが、すぐさま我に返った。 「あ…あの、その、レオの若様」「ザンザで構わんぞ」「えと…では、ザンザ様。その、お褒めの言葉をいただきとても嬉しく思います。で、ですが…その、えっと…兄や皆様が見てますので…その」 「離してほしい」等と言える訳もなく、赤面でしどろもどろとなんとか言葉を紡ごうとするが、ザンザには逆効果だった。 「…オレの嫁の照れ顔、超可愛い」「ふぇ?」 ザンザがぼそりと呟いた。 さっきも「未来の妻」とか…聞き間違いだと思っていたが、どういう事なのか。ハクアはますます状況が呑み込めずにいた。 「あっはは~♪ 早速、見せびらかしてくれちゃって~☆ ぼくも含めて、皆びっくりしちゃってるよ~? ね、ハクアちん」 唐突に横で声がしたと思ったら緑の髪のちょんぼをユラユラと揺らしてチムニーが覗き込んできた。 「はぅ!? い、いつからそこに…??」「え~? さっきからず~っと居たよぉ。あれか、ザンザのセクハラが衝撃すぎてぼくが分かんなかったんだねぇ、あはっ♪」 チムニーの発言自体が衝撃的なものである気がするが。 ハクアは目の前にいるチッパーズ族の青年の言葉に驚いた。あのレオの若君をセクハラ扱いするとは。確かにさっきからめっちゃ腰のあたりとか触ってきているが、ハクアは父も母によくやっていたから、これが普通なのだと思っていた。 「こぉら、チムニー! いつオレがセクハラしたんだよ、ハクアが勘違いするだろうが!」「え、現在進行形でしてんじゃん? ハクアちん、嫌だったら遠慮なく言っちまいなよぉ。こいつ、すぐ調子に乗るからね?」「…え、じゃあ…ちょっと嫌です」「……っ!!??(ガーン!)」 チムニーに指摘されなかったら、永遠と触っているつもりだったのだろうか。 まさかの拒絶にショックを隠せないザンザ。 よほど嫌われたくないのか、渋々と手を一瞬放した。しかし、触らないから膝に乗ってろと言わんばかりにがっちりホールドされてしまった。 「あ…、あの、ご挨拶が遅くなりましたっ。初めまして、私はビャク=ティガーの妹・ハクアと申します。チムニー=チッパーズ様ですよねっ。衣装を手掛けてくださったと伺っております! 御礼を申し上げたかったので…素敵な衣装をありがとうございます」 ハクアは深々と一礼し、感謝の気持ちを伝えた。 もし会えたら必ず礼を言おうと思っていたので、少し気持ちが和らいだ。 「ふふふ~、どういたしまてぇ♪ 実はハクアちんが赤ちゃんの時に一回だけ会った事があるんだけどね。いい感じに仕上がってよかったぁ」 チムニーもハクアが喜んでくれているのを知ってとても満足したようだ。 チムニーら、チッパーズ族は野獣人の武具の装飾、衣装の製作・販売を生業としている。今回のハクアの衣装に関してはビャクの幼馴染という事もあり、その妹のハクアの為にチムニー自身が手掛けたものだった。 「え…チムニー様はおいくつなんですか?」 失礼かもしれないが、チムニーはビャクの幼馴染で見た目は10~12歳くらいに見えると言えど、せいぜい18歳くらいかと思っていた。だが、先ほどのザンザに対する態度といい、どうも釣り合わないのだ。 「あ~よく言われるんだよねぇ、ぼくは23歳だよ(てへぺろっ)ちなみにザンザと同い年だゾ☆」「…!? 兄さまよりも年上だったのですか…!? 私とは7歳も…?」 自分も他人の事を言えない容姿だが「見た目が詐欺」とはまさにこのことである。 しかも大柄なザンザと比べると、ますます冗談としか思えない。 「お前、さりげなくオレの歳をカミングアウトしてくれるなよ」「別に減るもんじゃないからいいじゃ~ん♪…いでででっ何すんのさ! ビャク!!」「…さっきから調子に乗りすぎだ、ボケェ」 片手でチムニーの頭を鷲掴みし、ぎりぎりと手に力を入れるビャク。 そんなやりとりを微笑ましく見ていたハクアは「くすくすっ」と笑った。チムニーのおかげでだいぶ緊張が解けてきたようだ。ザンザも、ハクアの笑みに胸をなでおろす。 (グッジョブ、ビャク! チムニーのアホのせいで、いっときは「セクハラ」のレッテルを貼られるところだったが……くそ、オレの嫁は笑顔も天使、否、女神か!?) …心中下心満載だった。 ハクアはだいぶ緊張が解けたところで、ザンザの方を向き、先ほどから疑問に思っていたことを口にすることにした。 「あの、ザンザ様…えっと、質問をしてもよろしいでしょうか?」 こてんっと首を傾げ、上目遣いでザンザの許可を伺った。 他の下心ある女性ならば、あざといものでわざとらしかったりするが、彼女の場合、これが『素』である。
「ぐっ…(めっちゃ目の保養じゃねぇか!なんだこの『可愛い』を具現化した生き物は!? わざとか? わざとなのか? え、オレ試されてる? オレの理性試されてるのか? いや、もうぶっちゃけ色々と限界っちゃ限界だぞ! あ~~~っとにかくオレの嫁、カワ)いいぞ?」 今の間は何だったのか…と戸惑いつつも、ハクアは疑問を口にする。 「えっと…私とザンザ様は今日、初めてお会いするのですが…その、先ほどから仰っていた未来の妻とか嫁とか…どういう事なのでしょうか?」 ビャクの制裁から逃れたチムニーは「ですよね~」と思いつつも、二人の傍らでザンザの反応が気になった。 それもそのはず、何せチムニーだけでなく、ザンザもハクアに会ったのはハクアがまだ一歳にも満たない赤ん坊の頃だったのだから。ハクアにとっては面識がない男に急に「嫁」呼ばわりされている事になる。誰もが同じようにそう疑問に思うだろう。 「ん? そのままの意味だが?」「…え?」 残念なことにザンザという男は単純思考の塊と言っても過言ではない。所謂、おバカなのだ(良く言えば『素直すぎる』のかもしれないが)。 物事に対して思考を巡らす事を得意としていない彼は、潔いほど、悪びれる事も無く言葉をそのまま発し、行動に移す傾向がある。だからザンザからしてみても「自分の嫁に(なる予定の者に)嫁と言って何がおかしいのか」と頓珍漢な事を考える。 二人揃って首を傾げる様子を見て、ビャクもチムニーもため息をつく。 「…ザンザの兄貴、非常に申し上げにくいんすけど…」「お前、馬鹿なの?」「あ゙?」「…ってビャクは言いたいんだってぇ☆」「は!? ちっげーよ!!…兄貴、兄貴がハクアに会ったのはハクアがまだ0歳の時、リュウが出産報告を兼ねてレオの親父殿の元へお目通しいただく為に連れて行った一度のみなんすよ。兄貴の妹への気持ちはオレにとっても、非常にありがたいんすけど…」 当時からティガー族は《獣王》レオに仕える一族の中で一、二を争うほどの権力と能力をもつ一族だった。長年世話になっている王に報告をしたいと、リュウとティガー族族長は当時四歳のビャクと赤子のハクアを連れてお目通しをしていただいたらしい。 「そうそう、たまたま僕もザンザの家に遊びに来てたから、一緒にハクアちんに会ったんだよね。まぁ、ハクアちんは赤ちゃんだったから覚えてないだろうけど」 つまり、当時赤子だったハクアに一目惚れしたザンザ少年は、ハクアを自分の嫁にすると決めてから、この16年間ずっと、想いを秘めていたという事だ。 当時から他者との概念や思考が少し(いやだいぶ?)ずれていたのだろうか。 「…そうだったのですか…でも」 それでも、ハクア自身、急に未来の妻とか嫁と言われてもピンとこない。 だとしても、なぜそこまでして? こんな16歳とも思えない容姿の私を? 何の取り柄もないのに… 「あ~…なるほどな。確かに言われてみれば、初めて会った男に『嫁』呼ばわりされればびっくりするわな。…ごめんな、ハクア。オレず~~っと、ハクアに会える日を楽しみにしていたから抑えがきかんかった…」 ザンザは二人に指摘されるまで、自分ひとりがいかに浮かれていたのか、ようやく理解ようだ。 しゅん…と落ち込むザンザ。やはり歳相応の青年なのだろう。 ハクアはザンザの頬にそっと手を添え優しく微笑む。 「…いえ、私も…その、申し訳ありません。ザンザ様がそんなに私を想ってくださっていたなんて露知らず…ですが、その」 ハクアは何かを言いかけたが、さっきまで落ち込んでいたはずの彼は、それを遮り、頬に添えられたハクアの手を取り、満面な笑みで喜びを顕わにした。 「分かってくれたか! じゃあ、オレの嫁って言っていいよな? な?」「え…いえ、あの」「よし、皆の者、聞いてくれ!!」 ザンザは勢いよく立ち上がり、どんちゃんと騒いでいた周辺の野獣人達に向かって大声で呼びかけた。 その場で宴を楽しんでいた者達は皆、ザンザの呼びかけに応え、何事かと注目した。チムニーもビャクもザンザが何を言い出すのか分からなかったが、嫌な予感がした。 「ザンザ様…?」「もうすぐオレの妹、キリが今宵の宴会の為に《演舞》を披露するだろう。だがその前に皆に伝えたい! このオレ、《獣王》が息子、ザンザ=レオはこの麗しい《奇跡の姫》…ハクア=ティガー姫を未来の獣王の妻とするべく、婚約者として迎える事をこの場を借りて! 皆に宣言する!!」 まさかの婚約宣言に皆、一瞬間をおいたが、すぐさま拍手喝采が沸き起こった。 「わぁ~! おめでとうございます!」「《奇跡の姫》に《未来の獣王》…実に素晴らしい! 将来が楽しみだ!」「皆、酒だ! 踊りだ! お祝いだ~!」 一気にどんちゃん騒ぎが再発し、皆各々に乾杯しあったり、何人かはザンザやハクアの元にやってきて祝賀の言葉を伝えにやってきた。 (な、なぜ、こんなことに??) ハクアはいまだに状況の整理がつかなかった。 本当は「そんなつもりはなかった」のだから。 「あ~あ、ま〜たやっちゃったよ? どうするの~お兄ちゃん?」「誰がお兄ちゃんだ、ちび助…兄貴が定めた事にオレが口出す事じゃねえし、親父もリュウもきっと喜ぶだろうよ、問題は」「…問題は『王様』かな~? あの様子だと、宣言したはいいけど、たぶん身内に言ってないんじゃないかな? あの馬鹿は…ん?」 チムニーとビャクはザンザ達の傍らで呆れてはいるものの、ザンザらしいと言えばザンザらしい行為だと納得していた。しかもティガー族族長としても、自分の娘が未来の獣王に見初められたと知れば、それを喜ばないわけがなかった。 しかし、それを良しとしない者も少なからずいた。 「お待ちくださいませ、レオの若様」 ◀BACK ¦ NEXT▶