SUB STORY


COLORS 番外編

【Team MONOCHRO】

 これは白狼と黒猫の出会いと絆の物語※BL表現あり(全年齢向け)※なんでも許せる方向け 
Episode.2 すれ違い  (…あぁ、つまらないな。)  『Winner!!赤コーナー、ブラ~~~~~ック!!!!』   激しいBGMに騒がしい観客の叫び声が響く、この場所は《DANCE GAMES CORNER》。 ダンスゲームにも多種多様な機種があり、個人プレイ用に正方形のステージの上で足元に流れてくる譜面をステップで踏んでいくスタイルのもの、これまた足元に上下左右の矢印が等間隔に描かれているステージの上で画面から降りてくる同じ方向の矢印を踏むスタイルのもの…これらは所謂リズムゲームにも近いジャンルではある。だが個々のプレイヤーは足だけでなく手の振り付けもするなどアレンジを加える事もある。それが上級者にしかできないパフォーマンスだとかなんとか。他にも画面に表示されたバーチャルコンピューターの動きに倣って本格的なダンスを体験できるものもある。 ブラックはあらゆるダンスゲームをトレーニングしつつ、基礎を築き上げ、実戦を挑み、効率良くゲーム・マスターを目指していく。しかし、そんな中でも一番体にしっくり来たのが…  ―《PANORAMA DANCE BATTLE》通称《パノダン》。   他のダンスゲームはおそらく初心者でも、コツを掴めば難易度が多少高くてもクリアできるだろう。 しかし、このパノダンはリズム感覚だけでなく、ゲーム内でのダンス技術にパフォーマンスまで評価の対象になっている。要は、うまくリズムに乗ってパーフェクトを狙ったとしても、ダンスの技術もなく、観客を沸かせるパフォーマンスもできていなければ、ポイントを得られないどころか…勝負にも勝てないという事になる。 《DANCE BATTLE》と称されているこのゲームは、ただ得点を稼ぐだけではなく、相手と競うものだ。それだけでもコンピューター相手の個人プレイよりもハードルが上がるというのに、さらにこのダンスゲームが他と異なるのは、譜面だった。 ホログラムを利用したものだろうか、その特殊なステージ上で繰り広げられる譜面は四方八方に浮かび上がる。これらの譜面は足でも手でもタイミング良く触れればポイントとなる。つまり、プレイヤーはダンスを披露しつつ、BGMに合わせて譜面をタップしていかなければならない。 ありとあらゆるダンスゲームの中でも真に上級者向けと言われているのが、おそらくこのゲームだ。 「予想通りであれば、リーパー候補者リストのほとんどがこのゲームに参加しているはず…」  ブラックはひと際、騒々しいエリアに近づく。 パノダンは特殊な機能を用いている為、ステージも観客席も無駄に広く設置されていた。 プレイヤーの華麗なダンスが決まれば、観客の歓声が沸き起こり、その場だけ熱が込みあがってくる錯覚をしてしまうほどだ。観客たちの間をすり抜けて、良く見えるであろう位置でその対決を見守る事にした。そこに『彼』はいた。 「きゃ~~~♡ 白狼様~!」「ひゅ~~♪ 今日もキレッキレだぜぇ!!」  彼、ホワイトが一つ一つのダンスを豪快に決め、BGMに合わせて四方八方に散らばった譜面を同時にタップしていく様はまるで白く逞しい狼が優雅に踊っているようで、誰もを魅了した。 課題曲もリズムに乗りやすいヒップホップだからというのもあるが、何より彼自身が心の底から楽しんでいるのがよく伝わってきた。 「…なるほど、これは楽しみだ」  ブラックは自分でも驚くぐらい、興奮を覚えていた。 きっと、彼との対決はさぞや期待に満ちた刺激をくれる事だろう。 すると、ホワイトは最後に決めポーズを取りながら最後の譜面をタップし、オールパーフェクト特有のド派手なエフェクト付きでプレイを終えた。と、同時に今まで以上に沸き上がる歓声。 普段首にかけているだけのヘッドフォンで耳を覆っても無駄なくらい響き渡るそれに応える事もせず、プレイし終えた彼はさも「結果は分かり切っている」とでも言いたげな、どこかつまらなそうな表情でステージから降りていった。 もちろん、結果はホワイトの圧勝だった。 あれほどのパフォーマンスで歓声も尋常でなければ、彼に敗北などないだろうが。ふと、ホワイトがブラックの近くを通り過ぎようとしていた。ブラックはいつもの癖というのもあるが、なるべく気配を消していた。 今彼に話しかけても相手にされない事だろうし、得策ではないと判断したからだ。それにしても、ホワイトという男は随分と切り替えの早いのだと少し感心した。大抵のプレイヤーなら、あそこまでの歓声を浴びたら愉悦に浸り続けるだろうに。そして天狗になるのだ。 そうしたら、いずれ対戦した時にその鼻をへし折ってやれたのに。 さぞ快感を得たに違いないと、少し残念に思っていたその時だった。 「ホワイト様っ! あの、いつも素敵なプレイを拝見させてもらってます!大ファンです、良かったらこれをどうぞ!!」  男なら誰もが見惚れるであろう可愛らしい女性ユーザーだった。 おそらく観客の1人なのだろう。熱気に浮かれたのか、勢いよくタオルを差し出していた。他の女性観客も「あの子、ずる~い!」「抜け駆け!?」などキャーキャーと甲高い声を上げている。 普通に五月蠅いな…そう思った瞬間、ホワイトは差し出されたタオルを勢いよく彼女の手から弾き落とした。 「…え??」「……女の施しほど、気分の悪ぃもんはねぇ…とっとと失せろ、邪魔だ!(ガルルルル…)」「ひぃっ!」  ブラックは呆気にとられた。そして前言撤回したいとも思った。 彼は切り替えが早い淡泊な男ではなかった。 むしろこの黄色い声援、歓声もろとも鬱陶しいと、煩わしいと感じていたのかもしれない。 天狗どころの話でもないな。暴君といったところだ。 しかも… 「……野獣人《ビースト》」  ボソリと、この世界では口にしてはいけないであろう単語を放ってしまった。 しかし、彼のあの『威嚇』は野獣人特有のものだった。こっそりモニターで彼のプロフィールを覗いても、種族は『人間』だった。 それなのになぜ、彼はそれができるのか。 あの白オオカミの毛皮マントのオートスキルか…それとも…     ブラックが1人考え事をしている間、男はある言葉が聞こえた方を見つめた。 確かに、聴こえた。『野獣人』という言葉が。 声のした方を見つめていると、他の騒がしい観客とは違い、自分になど全く興味もないかのようにそっぽ向いている黒猫帽子がいた。若干後ろ姿だったが、少し紫がかった黒髪が見えた。そして何故かその異色な黒猫を魅入っていた。 「お~い、ホワイト~!」  ハッと呼び声に気づいたホワイトは、気を紛らわすかのようにそれに応えた。 「…なんだよ、ちび助」「チビじゃないし! ほんと、年上に対する態度じゃないよねぇ、イエローさん、ぷんすこだよ!?」  ホワイトの背丈半分ほどしかないそのユーザーは黄色のクラウンウサギを模したヘルメットに大きな赤いゴーグルと横にはねた緑の髪が特徴の、どこからどう見ても少し変わった出で立ちだった。 ピョン、ピョンと跳ねながらホワイトに抗議をするが、ホワイトは若干上の空のようだった。 「ん? どしたの?」「……チッ…てめぇのせいで、見失っただろうが」「は? いきなり人のせいにするとか、マジ最低ぇ…リーダーに言いつけてやる」「てめっ…兄貴は関係ねぇだろがっ!」「…で? 誰を見失ったの~? 可愛い子でもいた?」「ふざけてんじゃねぇぞ、ちび助がぁ……黒猫」「黒猫? リズニャーじゃなくて? い゙っだ!?殴る事ないじゃん!」「てめぇに報告しようした俺が馬鹿だった…兄貴に直接言う」  ホワイトはそう言うと《DANCE GAME CORNER》を後にした。 もちろん、イエローも後をついていく。  (あの黒猫帽子…一応、マークしておいた方がいいかもな)   自分を野獣人と見破ったと思われる黒猫のユーザーの事は声がするまで気配すら気づかなかった。 衣装が黒だったからか、それにしてもあの蛍光色ラインは逆に目立つだろう。となると、意識して気配を消していたとなると相手もただの『人間』とは到底思えない。  (また『あいつ』と会える気がする…)   そう思うと、何故か心躍る感覚になる。 久々に骨のあるやつと戦えるかもしれない…だが。  「…どうせ勝つのは俺だ」    BACK  ¦  NEXT