MAIN STORY
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【COLORS】本編・番外編リメイク!(随時更新)
Episode.03
『1人でも大丈夫って事、認めてもらうしかないじゃん?』 先日、行きつけのカフェをあとにした帰路でのチムニーとの会話。 『ハクアちんの頑張り次第では、そのうちどこにでも行けちゃうかもよ〜?』 賑やかな街並み、人々が行き交う噴水広場で独り、記憶の中の言葉を反芻する。 こうしてただ街を眺めているこの時間こそ無駄かもしれない。 自分が何かしら行動を起こさなければ、この街のように変わり映えのない世界が続くだけ。誰にも知られず、何も知ることなく時の流れるままお人形のごとく、座っているだけ。 この現状を、私自身を変えたい。 頑張り次第…その『頑張り』とは? なにかを成し遂げたとして… 誰がどう認めてくれるというのだろう? 噴水から勢いよく噴射され、重力に従い滴り落ちる水を見つめる。滴り落ち、跳ねた水が手にかかった。手の雫に息を吹きかけると、雫は半透明な氷の結晶と変化した。そして一羽の美しい蝶の姿になった。蝶はまるで生きてるかのように、手から離れ、噴水の周りをひらひらと飛んでいった。 この魔力…《氷(アイス)》を生まれ持った私は、周りから『奇跡の姫』と呼ばれるようになった。 本来、神々の恩恵を授かった私達―野獣人(ビースト)は《自然の魔力(マナ)》を生まれつき授かる。その自然の魔力は5大魔素といわれ、 《炎(フレア)》《水(アクア)》《木(リーフ)》《風(エアロ)》《雷(ボルト)》 が挙げられる。 誇り高き先祖の教えとして『その恩恵は神からの祝福であり、愛そのものだ』と信じ、口を揃えて誇らしく掲げる―『我々は、自然の魔力に愛されている』と。 そして私は、その5大魔素の1つ《水》の変異種である《氷》に唯一愛された者…というだけで周りから期待され、敬われ、挙句の果てには妬まれることも。さらには『奇跡の姫』と呼ばれるが故に多方面から狙われる存在となってしまった。 「…貴方が羨ましいわ。誰にも縛られず、自由に飛び、いろんな景色が見れるのだもの」 意思の有無がわからない蝶に羨望の眼差しを向ける。 自由に飛び回る蝶を見ていると、ふとある人物を思い出す。身内以外で、唯一自分を“認めてくれた”存在。自由という言葉がよく似合う許嫁の姿が目に浮かぶ。 彼の名はザンザ=レオ。野獣人を統率する百獣の王の息子。私はザンザ様の、未来の獣王の妻となる…予定なのだが。 実感が湧かないというよりも、未だに自分が選ばれた理由がよくわかっていない。それに… 「…今の私じゃ、全ての自然の魔力に愛されし御方の妻にふさわしいって言えない、よね」 つい、本音が漏れてしまった。深いため息も出る。 こうして独りで悩んでいる間にも、ザンザ様は兄様と共に鍛錬に励み、王になるべく勤しんでいらっしゃるというのに。それに比べて私は… 「やっぱり独りで来るんじゃなかったな…結局嫌な事ばかり考えてしまうもの、ん?」 顔を上げると幼い少年少女がひらひらと飛んでいる氷の蝶を不思議そうに見つめている。 《同志:野獣人は同種の者を同志と総称する》ならば、微量といえど魔力が込められている生成物ならすぐに感知するだろう。だが、この子らの反応からみて、おそらく人間(ヒューマン)の子どもだ。 人間は野獣人とは違い、神々の恩恵を授からなかった唯一の種。私達の言葉でいうと『自然の魔力に愛されない種』だ。 なぜ神が人間だけそうしたのかは歴史書にも記されていなかったからわからないが、私は人間はその分賢く生きているのでは、と思う。 神の加護を許されなかった代わりに神々は人間に『知恵』を授けたのではないか、とある歴史書の考察論で記されていた。その知恵とは、魔道具精製にもつながると考えられている。 人間は自力で魔力を生成できない為、魔力が宿る石―魔鉱石が埋め込まれた道具を用いる。この魔道具は人間たちの日常生活に欠かせないもので、平民層から王族まで幅広く使われているらしい。 勿論、NORANEKO Cafeも例外ではない。例えば料理に用いるコンロ。火力に《火》が宿った魔鉱石を使用しているそうだ。 しかし、魔鉱石はとても貴重な資源であるが故に力を発揮する媒体の魔道具も相当高価なものになる…私達からしてみれば無縁に等しい代物だが。その媒体がなければ、人間たちは魔力を感知できないどころか扱えない。一見、野獣人が優位だと思われがちだが、実のところ、そういうわけでもない。 ローブを深く被り直し、蝶を見つめる子ども達に近づき、声をかけた。 「その蝶、気になりますか?」 急に声をかけられた子ども達は一瞬驚きつつも、顔を見合わせて「うん!」と力強く頷いた。 私はにっこりと微笑み、噴水の水を両手に掬い、また息を吹きかけた。すると粉雪が舞ったかと思えば、それはあっという間に複数の蝶に変わり、子ども達の周りをひらひら舞った。 子ども達は無邪気に蝶を追いかけた。今度は人間の少女が私に近づき、一輪の花を差し出した。 「《まほう》を見せてくれたお礼! ありがとー、キレイな魔術師さま」 どうやら、私のことを魔術師と勘違いしたようだけれど、むしろありがたい勘違いだった。 なにせ、本来は人間の国で無闇やたらに魔力を使ってはいけないから。それこそ、貴重な魔力を無限に生成できるとされている野獣人がいると知られたら邪な考えをもつ人間に狙われてしまうだろう。 少女がくれた一輪の花は、とても綺麗に花を咲かせていた。まるで満面な笑みを見せてくれる少女そのもののようだ。 「私達もお互いに生きやすい世界だったらどんなに良いか…」「? 魔術師さま?」「ううん、なんでもないです。お花をありがとうございます」