環境DNA実習

ひみラボでは,環境DNAをつかった実習を準備しています.

実習内容は,小学生,中学生,高校生,企業,市民など,対象者にあわせたプログラムを用意しています.

以下に,基本的な実習の流れを書きます.その後に,対象者別のポイントをまとめます.機材や試薬等は,ひみラボで準備します.

実際の実施状況については,「ひみっ子ラボ」のページ(こちら)をご覧ください.

【手順1:採水】

川や池から水を汲みます.

1リットルの専用ボトルを使って,直接汲み取ります.手が届かない場合は,専用のひしゃくを使います.

採水においては,他の場所と水が混ざってしまうと,結果に影響を与えますので,必ずひみラボで準備する機材を使用します.

採水した試料水は,ひみラボへ持ち帰ります.この際,できるかぎり冷やした状態で持ち帰ります.

上の写真: 採水し,ひみラボに持ち帰ったボトル.

【手順2:ろ過】

ひみラボで,ろ過装置を使って,試料水をろ過します.時間の経過と共に,DNAが損傷しますので,採水したその日にろ過します.

ろ過の際には,保持粒径0.7μmのガラスフィルターを用います.

ろ過時間は,試料水の溶存物によりますが,10分で終わる場合もあれば,1時間以上かかる場合もあります.一見すると当面な水でも,様々なものが含まれています.

ろ過後のフィルターは,次の実験まで冷凍保存します.冷凍中は,長期間保存できます.

上の写真:ろ過装置.右側のフラスコの上に漏斗が載っています.フラスコと漏斗の間にフィルターがセットされています.フラスコに試料水を入れ,左側の機械で吸引すると,水はフラスコの中に移動しますが,その途中にあるフィルターにDNAなどが絡め取られます.

上の写真:試料水のろ過が終わった後の円形フィルター.当初は白いフィルターでしたが,試料水に含まれていた砂泥粒子や藻類,そしてDNAが絡め取られています.

【手順3:DNAの取り出し】

フィルターからDNAを取り出します.フィルターには,DNA以外にも様々なものが含まれていますので,その中からDNAだけを取り出します.取り出されたDNAは,採水した水の中に住む様々な生き物のDNAが含まれています.

DNAの取り出しには,専用の機材や試薬を使います.所用時間は約2時間です.

上の写真:ひみラボのDNA実験室.専用の施設や設備を使って実験を行います.

【手順4:PCRと電気泳動】

取り出したDNAには,様々な生き物のDNAが混ざっています.その中から,目的の生き物のDNAを見つけ出すために,対象の生き物だけを見つけ出す試薬を用いたPCRという実験を行います.上の写真の左下に写っている機械を使います.所要時間は,約3時間です.

PCRを行った後,目的のDNAを可視化するための電気泳動を行います.

PCRや電気泳動および可視化においては,危険性の低い機器・試薬を用いています.(専門家向け:DNAの染色には発がん性物質を含まない試薬を用い,発色はLED光源を使用しています)

上の写真.PCRと電気泳動を行った結果.5種類の試料を電気泳動しています.白いバンドがDNAを表しており,上端から泳動を始め,下に移動しているほど小さいDNAであることを意味します.

【手順5:解析】

上の写真をみて,結果の解析を行います.アメリカザリガニを探すためのPCRを行った結果です.

一番左の列は,DNAの大きさを知るために用いる市販のサイズマーカー.2番目の列と5番目の列に,同じ移動位置(約600bp)に白いバンドが見えます.この結果から,2番目の試料と5番目の試料を採水した場所にアメリカザリガニが住んでいたことがわかります.

5番目の列の方が,バンドがはっきりとみえますが,これは試料中に含まれているDNAの量が多い,つまり多くのアメリカザリガニが住んでいることを意味します.

【対象者別のポイント】

《全対象者共通》

一連の実験は,通常は数日をかけて行います.そのため時間の制約がある場合は,ひみラボで事前に準備した各実験段階を体験していただくことが可能です.1時間コースから,半日コースまで,相談に応じます.

危険な試薬や器具類は,できる限り使用していませんが,ガラス器具や先のとがったプラスチック器具等を使用することがありますので,実験に先立ち行う安全指導に従ってください.また,川等での採水の際にも,安全には十分に留意してください.

上記に関連して,参加者が手を動かす実験以外にも,ひみラボスタッフがすべて作業を行い,参加者には見学してもらうスタイルの実験も可能です.

《小学生・中学生向け》

自分たちが日ごろ住んでいる町や学校の周りに住む生き物を調べる実習をお勧めしています.

例えば,学校の前を流れる川に,メダカが住んでいるのか,アメリカザリガニが住んでいるのか,などを調べることができます.また同時に,川に入って,網で生き物を捕まえる実習も可能です.

《高校生向け》

対象生物が住んでいる,住んでいないだけではなく,それらが住む(住まない)水辺環境を同時に調べる実習をお勧めしています.共存生物や水質などの調査も可能です.

《企業向け》

昨今では企業等にも,生物多様性に対する取り組みが求められています.事業所・周辺の環境保全や啓蒙・啓発活動の一環として,本実習をご活用ください.

上記実習のご希望やご相談につきまして,まずはひみラボにご連絡ください.

(本活動の一部は,平成28年度・29年度富山大学学長裁量経費および平成29年度エスペック地球環境研究・技術基金の助成を受けて行っています)