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合唱通信 No.28 2018/03/07 ◇ 十周年記念コンサートを間近に控えて ◇

いよいよ、十周年の記念コンサートが、4日後にせまってきました。

普段の練習のままの、表現と響きで発表することができれば、コンサートの成功は間違いありません。リラックスして、いつものにこやかな表情で、思うぞんぶんに歌っていただければ、と思います。

ところで、韓国で先日行われた冬季オリンピックでは、日本の選手が大活躍し、大会の期間はもとより、帰国後の報告会の様子も連日マスコミで報じられ、日本国中が彼らの活躍に大いに沸き立ちました。

参加国同士が競う大会ではなく、あくまでも参加選手個人が競う大会、であることはわかっていても、日本の選手が良い成績を挙げると、同じ国民として誇らしい気持ちになったり、選手と共に喜んで、『良かった』とうれしい心持ちに充たされるのは自然な感情なのでしょう。

そうした大活躍の選手の帰国後の報じられかたを見て、気がついたことがあります。

それは、金メダルや銀メダルをとった選手たちよりも、銅メダルをとった女子カーリングの選手について報じられた回数や時間が、多く、長かったということです。

カーリング後進国と言われていた日本の選手が、世界に伍して緊迫した競技を展開し、日本女子カーリングとして初めて、メダルを獲得したということが最大の理由であることは言うまでもありませんが、理由はそれだけではないかも知れないとも思っています。

カーリングという競技の奥深さやおもしろさに、多くの人々が気づかされ、その難しい競技で女子が健気に勝ち進んだということが一因として挙げられるでしょう。

さらに、絶えず緊張を強いられる2時間半にも及ぶ競技の間中、彼女たちがいつも変わらぬ笑顔で互いに支え合い、話題にもなった北海道弁でやりとりをしながら、困難な状況を克服していく姿に、そこはかとない魅力を感じたことも大きな理由かも知れません。

ひょっとすると、たとえ彼女たちが銅メダルを獲得することができなかったとしても、その戦いぶりや表情に惹きつけられ、マスコミでの取り上げかたや報じられかたに、さほど大きな違いはなかったかも知れない、とすら思えます。

どうやら、私たちは栄冠を勝ち取ることと同等かそれ以上に、惹きつけられる何かに、えもいえぬ魅力を感じ、心を躍らせるものだと言えそうです。

そう考えると、なぜマスコミが金メダルを獲得した選手を凌駕するほどに、女子カーリング選手たちの話題を取り上げるかの納得いく説明ができそうだからです。

数値で表すことのできるスペック以上に、言い表せない何事かに惹きつけられる、という典型的な例に、近年になってレコードが再注目されているという社会現象があります。

再生帯域や音のクリアさなど、数値上の特性ではCDやハイレゾ音源などのほうが、ずっと優れているはずなのに、古い録音媒体でスペック的には不利なはずのレコードが、音楽的な魅力を味わえるとして人気を回復しているというのです。

音をより良いものにすれば、人間が満足するものになる、というわけではなく、音楽としての暖かみや説得力、表現力といった音楽的な魅力こそ、人間の求めているもので、レコードの方に軍配を上げる人々が根強く存在するということの証でしょう。

音楽に対する「よさ」、の基準が、一元的ではなく、機器では測定不能な、心をとらえるよさや、なんとも言えない魅力といった一見あいまいとも思える不思議な力も、価値の基準として存在し、それも人間に大きく作用するということが言えそうです。

合唱でも同様のことが言えそうです。

音程、曲想、発音やバランス、響き、テンポの設定やダイナミクスの変化など、どこをとっても見事でそつのない演奏であるにもかかわらず、聴き手の心をわしづかみにしたり、聴き手の共感を得られない演奏もあります。

いわば、『うまいけどそれがどうした』、と聴き手が思わされてしまう残念な演奏です。

一方で同じレベルの演奏なのに、『もう一度聴いてみたい』、『とても心地よい』、『聴きごたえがある』と思ってもらえる演奏もあります。

その違いは、何なのでしょう。

それは、聴き手から良い評価を得ようとするようなお仕着せの演奏と、自分のために自分が歌うことを楽しむ、あるいはその曲のよさを我が事として歌いたい、という止むに止まれぬ自己表現のための演奏との違いではないかと思っています。

その曲が、あるいはこのフレーズが好きだ、この部分の歌詞を心を込めて歌いたい、などという心情は、自ずと声の表情に、そして歌いかたに表れてしまうものです。

ソステヌートという用語は、技法や歌い方に関する音楽用語と思われがちなのですが、実は歌い方に表れてしまう「心を込めて表現する」心情の方に重きを置いた言葉なのです。

歌に込められた思いや、その歌の魅力、その歌のよさなどについては、幾度となく歌い込んだ積み重ね、また長い人生経験を通しての洞察など、熟年合唱団だからこそ悟ることができるというメリットがあると思われます。

実際、この十周年記念コンサートに向けた練習を重ねるごとに、フロイデならではの魅力ある演奏、聴きごたえのある演奏、我が物としての表現ができているはずです。

この度の記念コンサートでは、それぞれの曲に対して感じておいでの「よさ」や、その曲を通して「言いたいこと」、「伝えたいこと」を精一杯歌い上げていただければ大成功間違いなしです。

なぜなら、それは、結果として会場においでいただいたお客様方に「えも言えぬ」魅力ある演奏として伝わること必定だからですし、練習の様子を見るにつけ、今のフロイデのありのままの演奏で、それが十分可能だと思われるからです。

そこには、カーリング女子の代表選手に惹きつけられる何事か共通するものがあるように思われます。

おそらく皆さんの演奏をお聴きいただければ、『いいね』『ひと味違うぞ』『身をゆだねたい』と結果としておもっていただけるはずです。

自信をもってコンサートに臨み、私たちの「それぞれの歌に込める思い」を伝えようではありませんか。