合唱通信 No.16 ◆ ウォルシング マチルダって?◆ 2014/02/26
「ウォルシング マチルダ」は、とても有名な曲であるにもかかわらず、そのタイトルの意味が不明で、いったい何を表しているのかといぶかしくお思いの方が多いのではないでしょうか。
英語で表記すると、「Waltzing Matilda」と綴られるタイトルです。ですから、私は単純に〝ワルツを踊るマチルダさん〟のことを歌った歌なのだろうと思い込み、そう思い込むことで納得・理解できたつもりでいました。それでも、訳詞のどこを見ても〝ワルツを踊るマチルダさん〟を描いた歌詞がどこにも見当たらず、リフレインになぜ唐突に「Waltzing Matilda」が出てくるのか、いぶかしく思いながらも『知らなくても歌うことに支障はない』と長年追究せずにきました。
それでもフロイデでこの曲を歌うに際し、自身で腑に落ちる説明が欲しいと思い、少し調べてみました。諸説あってどれが正しいのかは分かりませんが、「Waltzing」は踊るワルツとは無関係で、「当てもなくさまよい歩く」という意味だというウィキペディアの記述、さらに「身寄りのない一人の貧しい放浪者が唯一抱きしめられるのがこの毛布だけで、その毛布にマチルダと女性の名前をつけてオーストラリア大陸をさまよう」ことを意味しているという説明を鵜呑みにして、納得しようとしました。
しかし、それでもなぜ「Waltzing」が「放浪や彷徨」という意味になるのか、優雅な円舞曲「Waltz」と同じ綴りである言葉がなぜ〝さまよい歩く様子〟という意味を派生して持つようになったのか、不思議でたまりませんでした。それに、その貧しい放浪者が抱きしめて歩く毛布に、なぜマチルダと名付けたのかということも歌詞のどこからも読み取れず、わかったつもりではいても不思議さは募る一方で、納得のいかないもどかしさを感じていました。
そこでさらに調べた結果、これはもともとはドイツ系移民からでた表現で、ドイツ語の古語Walzeに由来しているということが判明しました。古語Walzeは〝職人の遍歴の旅〟を意味していたというのです。
その名詞の動詞型walzenは〝遍歴の旅をする〟という意味の他に〝三拍子のワルツを踊る〟という意味もあるとのこと。遍歴の旅をすることもワルツを踊ることもともに〝回ること、転がること〟を意味することから、同じ語源を共有しているというのです。
これで納得がいきました。両者はまったく無関係ではなく、同じ古語Walzeを語源としていたということが分かり、すっきりしました。想像するに、職人としての腕を磨くための「遍歴の旅」という意味から派生し、各地を放浪することまで拡げて意味するようになったのでしょう。
そこまではわかったものの、放浪者とマチルダの関係がいまひとつ分かったようで分からないところがあります。なぜ特定の「マチルダ」なのか、マリアやキャシーといった他の女性名ではいけなかったのかという疑問が残るからです。そこでさらに調べてみると、『Matildaはゲルマン系の一般的な女性名』であること、放浪者が常に携行する毛布などが〝いつも一緒にいて、伴侶のようなもの〟であることからそう歌われたのだ、という記述を見つけました。
なるほど、なるほどと思いましたが、もう一つ腑に落ちません。しつこく調査を続けました。
そこで見つけたのが次のような一文でした。
『Matildaという女性の名は、ドイツ語では"Mathilde" または"Mechthild"で古いドイツ語でmaht = Macht (力)+ hilta = Kampf (戦い)に由来する』。さらに『ヨーロッパの30年戦争(1618年~1648年)のとき兵士に付き添う力強い女性たちの意味に使われ、後には夜を暖かく過ごす毛布の意味を持つようになった』
これでマチルダと毛布の関係が明らかになりました。さらに旅人(放浪者)が携える毛布がマチルダとして歌われる理由もずいぶん鮮明になりました。
よかった、よかった。これで納得です。
Waltzing Matildaの意味を尋ねての放浪の旅(ちょっとした探索旅行)の顛末でした。