合唱通信 No.21 2015/06/11
◇骨伝導、どうでしょう?◇
どなたにも経験がおありのことでしょうが、録音した自分の声を聴くと、自分の声と思っているのとは違う“誰か他人の声”のように聞こえるものです。
なぜ録音された自分の声に違和感を覚えるのでしょうか。
ふだん私たちがお話をしたり歌ったりしているときに聞く自分の声は、二つの声を同時に聞いています。一つは「骨導音」、そしてもう一つは「気導音」です。
骨導音とは、声帯の振動が自身の骨を通して聴覚神経に伝わる音のことです。
そしてもう一つは、声帯からいったん体外に出た音が空気を振動させ、それが耳を通して入ってくる音のことです。
ふだんはその両方の音を聞いて生活していますが、マイクが拾って録音・再生される音は気導音だけですので、それが録音した自分の声を聞いたときの
違和感のもとなのです。
しかも録音機器が発達したとは言え、自分の声を忠実に録音・再生することは(厳密には)難しいものがありますので、自分の声を忠実・客観的に聞くことは
日常生活では困難です。
しかし、手軽に何も使わずに、しかもリアルタイムで自分の声を忠実に聞く方法が一つだけあります。
それは、両手で耳をしっかり塞ぐことです。外に出た自分の声の気導音を遮り、声帯からの振動音だけを骨導音として聞くことができるからです。
両手で耳を塞いだ程度では、完全に気導音を遮ることはできませんが、ご自身の声をありのままに骨導音として聞くことはできます。
実は、あの難聴を患ったベートーベンも、指揮棒を口にくわえて一方の端をピアノ本体に押し当て、ピアノの音が発する振動を歯を通して聞きとり(つまり骨
導音として聞いて)作曲をしたと言われています。骨伝導を経験的に知っていたということなのでしょう。すごい!
昔からこの骨導音を手軽に聞くこと、しかもリアルタイムで聞くことができれば、歌唱や合唱の練習に大いに役立つに違いないと考えていました。
自分の声の響きのみならず、その歌い方やピッチなどを客観的にモニターすることは「歌をつくる」上で不可欠な要因だからです。
しかし残念ながら、伴奏を聞き、他のパートの音も聞き、全体のバランスを聴き取って表現をつくりあげるためには、「耳を塞ぐ」という行為は何としても避け
なければなりません。
困りましたねえ。耳を塞いでしまえば骨伝導によって自分の声をモニターできるけれども、そうすると合唱で必要な「他とのバランス」「他とそろえる」ために
“耳の機能を存分に働かせる”ことが出来なくなってしまいます。
その問題を解決するために、耳を塞がずに骨導音を聞ける機器を開発すれば良いということに気づきました。
声帯の振動を拾い、その振動をコメカミあたりにつけた振動素子に伝え、頭骨に伝わった振動を直接(つまり外耳や中耳を通ることなく)聴覚神経に伝えれば
すべてうまくいくはずだと思ったのです。
コメカミあたりにつける機器は、振動を伝えるだけで良いので、ほんの小さなもので良いはず。
そんなものができれば、外部の音は耳で聞き、自分の声は骨伝導で聞いて客観的に自分の声をモニターしながら合唱に参加するという「夢のような環境」
ができるはずなのですが、誰かそんな機器をつくってくれる人はいないでしょうか。(しかも安価に、という条件付きで)
加齢に従って聴覚も視覚も衰えていきがちですが、骨伝導は外耳や中耳の機能が衰えたとしても、頭骨から直接内耳に振動を伝えることで音を聞き取る
ことができますので、これからの超高齢化社会でますますニーズが増えるだろうと思ってもいます。
閑話休題(それはさておき)、一度ご自分の耳をしっかり塞いで“骨導音によるご自身の声”をモニターしながら個人練習をなさってみてはいかがでしょうか。
お役に立つこと請け合いだと思うのですが・・・。