第6話. シュレジンガー(シュレディンガー)の猫 (2004/10/31作成。2005/04/15改訂、2007/10/24青字で末尾に加筆)(2008/05/30 題名に(シュレディンガー)を追加、2008/06/03茶色字で追加)
第6話 シュレジンガーの猫は、量子力学の解釈に関する問題です。量子力学は現代ではその理論に基づいた発明が数多く実用化され、その理論の正しさを疑う人はほとんど居ないと言って良いと思いますが、その解釈についてはいくつかの有力な解釈はありますが、未だに定まっていません。第4話でイントロと予告編を出しながら、永いこと筆を接がなかったのは、これからお話しする内容が、あまりにも突飛なアイデアに基づくものですから、いくら根拠の無い仮説とはいえ、さすがに出し渋っていたためです。
最初に、まじめな話として、量子力学の解釈に関する3つの理論を簡単にご紹介し、次いで、そのどれでもない小生の解釈を提示したいと思います。
量子力学の「重ね合わせの原理」によると、厳密にまっすぐに立てられたカードは同時に左右の両方向に倒れます。この重ね合わせを量子の世界から現実の猫に伝えることを考えた思考実験がシュレジンガーの猫で、箱の中の猫は扉を開けるまでは死んでいるか生きているか判らない、生と死の状態が重なり合っているが、箱を開けた瞬間にその生死が定まるというものです。
1.コペンハーゲン解釈::
この実験を繰り返すと、観測者は死んでいる猫と生きている猫をランダムに見ます。波動関数はその確率をあらわすものというものです。 この解釈は長く受け入れられてきましたが、問題は、観測によって波動関数が収縮する(シュレジンガーの猫の場合、その元となる量子の状態が猫を生に導くものと死へと導くものとの2つのどちらかに収縮して確定的なものになる)必要があるが、波動関数がいつ収縮するかを決める方程式が見当たらないということです。
2.多世界解釈:
重ねあわせを平行世界とその住人についての結果と考えるというものです。重ね合わせ状態は猫と観測者との関係が異なる状態がそれぞれ独立に変化し続けるというものです。猫が生になる変化と死になる変化は宇宙そのものが分離して、それぞれが独立して更に分離変化し続けるというものです。この解釈では、シュレジンガー方程式は常に成り立ち、波動関数の収縮も起こらないが、宇宙は無限に分離し続けなければならず、そんな解釈で良いのだろうかという不安が残ります。
3.デコヒーレンス解釈:
周りの世界との小さな相互作用によって、重ね合わせ特有の量子的性質が急激に減衰するというものです。シュレジンガーの猫の場合、それを生または死へ導く元となる粒子に1個の光子が当たるといった非常に小さな環境との相互作用が密度行列(波動関数によってあらわされる重ね合わせの状態の密度をあらわすもの)の干渉性を急激に変化させ、コイン投げの時のような古典的な確率をあらわす密度行列に変えるというものです。
小生の理論は3を併用しますが(その後、末尾青字訂正のとおり3の併用を止めました)、解釈は下記のようになります。
波動関数は表向きは重ね合わせの確率を表すもの、または密度行列を表すもののように見えますが、実は摂動関数または振動関数と呼ばれるべきもので、量子が、時間軸と垂直な別の時間軸に沿って振動していることを表す式というものです。我々がよく知っている時間軸のどこの時点でも量子は凍結されておらず、第二の時間軸に沿った自由度を持っており、(物理量は位置情報も含めて固定されておらず)、同じ瞬間(時点)の中で、別の状態・値に変化する。我々はその第二の時間軸に沿って起こった振動の全ての結果の重ねあわせを我々の知っている時間軸のある時点で見ているというものです。波動関数が観測により縮退するように見える (光子や電子等の量子は、観測するまでは例えば位置または運動量等の物理量が定まっておらず、波動関数として計算される確率でしかその物理量を推定できないのに対して、例えば位置を観測した瞬間に、その位置が定まるように見える) のは、量子を観測するために待ち構えている別の量子も同様に第二の時間軸に沿って振動しているが、第二の時間軸の中でも両者がぶつかる場所は1点でしかないため、その場所が観測されているに過ぎないというものです。
アインシュタインが、量子力学に対して因果律の働く解釈を求めた気持ちは同感できるものがあり、小生の解釈はその方向のものだと思います。
この解釈によれば、シュレジンガーの猫は常に生と死の間を第二の時間軸に沿ってさまよっているはずですが、現実には、この大きさのものでは生又は死のどちらかしか観測しないと思います。その理由は、デコヒーレンス理論によって、シュレジンガーの猫を生または死に導く過程が環境とのわずかの相互作用によって生又は死のどちらかに確定的に傾き、我々は重ねあわせを観測できないことになると考えるからです。
[2007/10/24加筆、2008/06/03更に茶色字訂正]
最後の5行について下記のように訂正いたします。
小生の理論はデコヒーレンス理論を併用すると言いましたが、間違いでした、併用いたしません。シュレジンガーの猫を生または死に導く過程が、環境とのわずかの相互作用も受けないようにした場合には、シュレジンガーの猫は観察するまでは生と死の状態が重なり合っており (第二の時間軸の中で取りうるあらゆる状態をとっており)、観察した瞬間に、観察のための粒子と第二の時間軸の中の1点で衝突する場所と運動量に従って、生または死のどちらかの結末を迎えることになります。