第20話. 生命と熱力学第二法則について (2005/07/18 予告編作成、2005/08/06 発表。2006/03/17 図に加筆)
秩序有る状態は必ず無秩序な状態になる。こぼれた水は放っておくと元の器に元の状態で戻ることは無い。シリンダーの中に広がった空気が勝手に一箇所に集まることは無い。冷たいものはぬるくなり、熱いものもぬるくなる。
これは有名な熱力学の第二法則 (エントロピーは増大する) です。
たとえば、夏に氷を作るとか、冷房で部屋の中を冷やすとか、ある系の中で、ある事について特別の秩序を保とうとすると、その「ある事」についてはエントロピーは減少しますが、そのための仕掛けを含めた全体のエントロピーは必ず増加します。冷房の例では、室外機から出される熱により、外の環境まで考慮すると全体の無秩序さは増大することになるということです。
星が生まれ、銀河が生まれ、星の中で元素合成が進んで、その星の死によって撒き散らされた元素から惑星が生まれる。 更に、惑星は太陽の周りを秩序正しく回る、これらは重力によりもたらされたものです。一見すると、このような流れ (無秩序な状態から秩序ある状態が生まれる) は、エントロピー増大の法則、熱力学の第二法則に反するようですが、重力という制約条件 (及び、厳密には宇宙生成時に密度揺らぎがあったということ、及び、宇宙斥力と重力の強さがある値であったということが、重要な制約条件ですが) の基では、このような秩序が生まれることは自然の流れであり、宇宙全体のエントロピ-も増大しているはずです。
では重力によってDNAやRNAが生まれるでしょうか?
生命はDNAという特別な秩序を複製し維持しようとする働きであり、地球上では何十億年にもわたってその活動が続けられてきました。 複製は、個体の中の細胞分裂というかたちか、または、生殖という形で続けられてきましたが、複製は必ずしもそっくり同じものを生成するわけではなく (個体の中の細胞分裂は、ほとんど完全に同じものを複製しますが)、変化が生じて、多くの種の分化をもたらしました。つまり、秩序を維持しようという動きの中で、無秩序がどんどん広がっているということになります。そういう点では、生命は熱力学の第二法則に逆らっていないと言えると思います。また、生命が秩序を維持しようとする働きに関しては、外部からのエネルギー補給が必要であり、その事によって、外部も含めた系の中ではエントロピーは必ず増大していると思います。
問題は、この宇宙のどのような法がDNAやRNAを生むことを促したのかということです。少なくとも重力が無ければ、DNAやRNAを構成する原子が密接に寄り集まらなかったのは確かです。
では、重力は必要条件であるとして、十分条件たり得るでしょうか?
以下に、重力と言う環境下で、それが十分条件として生命が発生しうるかどうかを考察します。以下の説明の中で言及しているDNAやRNA合成を促す環境 (構成材料の密度、圧力、温度、光や宇宙線等の外部エネルギーの供給、等) は、結局は重力によりもたらされるものです。(光や宇宙線等の外部エネルギーをもたらす星や銀河も、重力により作られたものですから)
原始地球のどこかで、核酸(DNAやRNA)の構成単位である4種類のヌクレオチドの一つが偶然作られる確率は、ありえないほど低いとは思いません。材料となる分子や原子の密度、温度、圧力、(及び場合によっては光や宇宙線等の外部エネルギーの供与) が、合成のための条件を満たせば、また、その環境がある時間継続すれば、その限定された環境の中でヌクレオチドがある一定の量合成されたということはありえると思います。環境の継続時間によっては爆発的に大量に合成されたということも (そのような環境では、その構成要素や他の無関係の合成物も大量に生成されると思いますが) ありうると思います。
4種類のヌクレオチドの構成要素はいくつかの共通の構成要素に分解できますので、上記の条件が整っていれば、4種類がそれぞれある確率である量合成されたと思います。4種類のヌクレオチドはその構成要素としてアデニン、シトシン、グアニン、チミンという4つの塩基のどれかを持っており、且つ、アデニンとチミン、シトシンとグアニンは水素結合による塩基対を構成し易いので、ヌクレオチドがA(アデニン)とT(チミン)、C(シトシン)とG(グアニン) とでなる対を構成することも十分な確率で起きえると思います。
4種類のヌクレオチドがある量合成されれば、ヌクレオチド同士がリン酸エステル結合で連鎖をなすことも確率的にはさほど低くなくありえると思います。 ヌクレオチドの連鎖によりDNAまたはRNAが出来上がります。 結論すると確率の掛け算では在りますが、ある環境がある時間継続すれば、DNAやRNAがある量自然に合成されるということはありえると思います。 DNAやRNAはAとT、CとGの塩基対を生成しやすいということが、自身の複製を生成しやすいことの基本的仕組みとなり、その後複製を作成すると言う反応が継続してきたと言うことになります。
そのような原初のDNAやRNAの複製反応が、現在の地球上の生命の大部分のDNA/RNA複製反応まで進化するためには、その反応を阻害する様々な要因に打ち勝って来る必要があったと思います。 阻害要因とは、温度や圧力、化学物質、光や宇宙線、DNAやRNAの構成要素となる材料の密度等の激変、等の環境の変化のことで、数十億年の生命の歴史の中で、このような環境の変化は日常茶飯事であり、気の遠くなるような阻害の積み重ねがあったはずです。そのような阻害に対抗して複製反応を守って継続する仕組みに偶然恵まれたDNA/RNAが生き残って (これも確率の掛け算になりますが゛、母体の数が十分大きければ、十分な数生き残って) (これが、適者生存の仕組みだと思いますが) 今日に至ったと思います。