種々の材料の物性分析に関わる「蛍光測定」のアレコレを、超基本的なことを含めて今日実験室で話していたので簡単に記録しておきたいと思う。無機、有機のいずれの材料や分子を見るのにも参考にしてもらえる部分があるかもしれない。では早速行ってみましょ。
★ 光るってどういうこと?
・何らかの原因で集まったエネルギーが放出される現象として起こる。
・白熱電球のフィラメント: 「フィラメント」は、単に「細かい糸状の構造(や、それを持つ物体)」意味する。電気抵抗が高くかつ細い材料に電流を通すことによって、そこを局所的に高温にすることで起こる黒体輻射として光を得られる。1800年代半ばに英国のジョゼフ・スワンが発明した後に、米国のトーマス・エジソンが商用化したことで有名。
・LED(light-emitting diode 発光ダイオード): 電圧を加えると発光する半導体素子。一つのLEDが発する光の色(波長)には偏りがあり、白色光源とするには複数を合わせて使う必要があるが、与えたエネルギーの赤外光や熱に変換される割合も低く、白熱電球より発光効率が高い。1960年代にニック・ホロニアック氏が赤色LEDを発明 (➡ Appl. Phys. Lett. 1: 82, 1962) した後、緑色LEDも1970年代に開発されたが、もう一色必要であった青色LEDは20世紀末期になってからようやく開発・実用化への道が切り拓かれた。青色LEDの元となる窒化ガリウムの研究成果 (➡ Jpn. J. Appl. Phys. 28: L2112, 1989) と高輝度青色発光ダイオードの発明 (➡ Jpn. J. Appl. Phys. 32: L8, 1993) により、赤﨑勇氏、天野浩氏、中村修二氏の三名が2014年のノーベル物理学賞を受賞した。
・集まったエネルギーは光の他に、熱の形で放出され得る。ここをコントロールすることで効率良く発光を得ることができる。
★ 光らないってどういうこと?
・前述のとおりエネルギーが「熱」に変換されることなどで「光らなく」なる。
・梅澤が最近3年ほどの間、事あるたびに興味を持って読み返している論文がこれ。
➡ E. Thimsen et al. Nanophotonics 6: 1043-1054 (2017)
もう少し書きたいことは別の原稿として準備中なので、それが公開されたら追記します。
(2021年9月14日追記)その総説論文が公開されました。➡ K. Okubo et al. "Concept and Application of Thermal Phenomena at 4f Electrons of Trivalent Lanthanide Ions in Organic/Inorganic Hybrid Nanostructure" ECS J. Solid State Sci. Technol. 10: 096006 (2021)
★ レーザーの仕組みと光ファイバーのつくり
・レーザーダイオード: 半導体のクラッド層の間に、屈折率の高い活性層が挟まれた構造を持つ。半導体が発した光をLEDはそのまま放出するのに対し、レーザーダイオードは発した光が活性層内で増幅する構造になっており、位相の揃った強い光を放出(誘電放出)する。
・レーザー光を送るファイバー: 基本的にこれも、内側に屈折率の高い材料が置かれている。この構造の中で、入射光が内部で全反射する(屈折率界面を透過せず、境界面ですべて反射する)ことでファイバーの先に送られていく。
★ 蛍光測定するときに使える励起光源って、レーザー光だけではないよ
紫外~可視光の蛍光を使っている人からしたら当然の話だが、励起光源として使われるのはレーザー光だけではない。むしろ紫外~可視蛍光を使う既製品では、キセノンランプからの白色光から必要な波長だけを光学フィルターに通して得た光や、紫外励起の場合は水銀灯や紫外LEDの光がよく使われる。私たちは近赤外レーザーばかりを使っていますが、それがメジャーではないということは念のため。
★ レーザー光や蛍光の進み方
ファイバーから出たレーザー光は、ファイバーの出口から広がるように出てくる。この光を、ファイバーの出口で平行光にするのがコリメーターレンズ。平行光になれば、それが当たる面積は光源からの距離によらず一定なので、パワー密度も光源からの距離によらず一定になる。
一方で、励起することで発する蛍光は、その発光体から四方八方(全方向)に向かって出ている。そのため、ある量の光が当たる面積は光源からの距離の二乗に比例する。なので、光強度/面積で表されるパワー密度(すなわち光束の密度)は、光源からの距離の二乗に反比例する。
★ 蛍光測定のコツ(そんな大仰しい話ではないけど、最低限押さえておくべき基本的なポイントを。)
なので、手持ちのレーザー光で試料を励起してそこからの蛍光を測定する場合、レーザー光(励起光)がコリメーション(平行化)されていれば光源から試料までの距離は気にしなくてもいい。
一方で、試料(蛍光体)から蛍光を取り込む集光口までの距離は短い方がいい!
★ 蛍光検出システムや、そこで用いる光学フィルターについて最低限知っておいてほしいこと
蛍光の検出に用いるセンサーは通常、励起光として使っている波長の光にも感受性があるだろう。なので、蛍光測定では通常、試料(蛍光体)とセンサーとの間に励起光をカットするための波長選択のフィルターを入れる。励起光よりも波長の長い蛍光が出る通常の系では、励起光を通さず蛍光を通すロングパス(ショートカット)フィルターがよく使われる。
しかし、波長選択性のあるフィルターであっても、カットしてくれる波長の光のカット率は100%ではない。カット(吸収)の割合は、光の透過率の逆数の対数である "OD (optical density) 値" で表される。OD 2であれば、透過率は 10^(−2) = 0.01 (= 1%)、OD 4であれば透過率は10^(−4) = 0.01%。なので、例えば蛍光の検出器につながる集光口に強い励起光の一部がダイレクトに入ってしまう光学系になっていると、それが99.99%カットされて0.01%に減衰していたところでセンサーは応答してしまう。
それを回避するために蛍光の測定は普通、試料から見て励起光が進んでくる向きと直交する方向に検出器を置くのだ。これは実は90°でなくても60°などでもいいわけだが。90°でなくても良い証拠に蛍光顕微鏡は、試料から見て励起光が入ってきた向きに返る方向に出ていく光を捉える作り(同軸照明系)になっていることが通常である。このとき、センサー自体が励起光の進行を妨げてはいけないので、ダイクロイックミラー (dichroic mirror) で励起光もしくは蛍光の一方だけを反射する光学系を組み、励起光と蛍光の光路を分ける形を作ることになる。実際には、励起光(短波長側)のみを反射して蛍光(長波長側)は透過するダイクロイックロングパスフィルターを使う場合が多い。
さーて、安全対策を確認した上で何か測ってみましょ。