「有用な道具を使う。」当たり前にしか見えないことですが、意外とできていない人は多いかもしれません。例えば話題になったChatGPTは、使えているでしょうか? 実際にはどのような場面で使えるでしょうか?
例えば研究室のゼミでは、卒研生にも大学院生にも英語論文を調べてのレポートを課題にしています。ここで、価値の高いレポートはどのようにしたら書けるでしょうか?(そもそも価値のあるレポートとは何か、と聞かれそうですなそれは他の話題になるので、また別の機会がありましたら。ただし、もしそれが分からないなら大学に2, 3年間以上いた意味もほぼ無いとだけ、ここには書いておきます。)
英語論文の要点を短時間で理解して自分の言葉で要約できる力は、身につけるべき武器になるものです。しかし、初めからそれをできない以上、使える道具を使って自身の能力を上げていく工夫は必要でしょう。幸いなことに私たちの手元には辞書がありますし、訳を検索できるウェブサイトもあれば、文章を機械翻訳してくれるウェブサイトも便利になりました。今では、ある程度レポートのような体裁を成し得るものを、生成AIを使うことによって出力できるようにもなりました。
ぜひ一度使ってみてください。便利だと聞いているほどには完璧なものができてこないと思うことでしょう。その原因はひとえに、はじめに生成AIに投げた指令が適切でないことにあります。
どのような指令を投げれば、どのような質問をすれば、どのような出力を目指せばレポート(報告書)として意味のあるものができるでしょうか。ぜひそれを試行錯誤してみて、もっと良いレポートを書けるようになってもらいたいと思います。ChatGPTをうまく使うことが、レポート作成に必要なある作業をスキップさせてくれることは間違いありません。しかし、それをスキップして上がってきた “素案” をブラッシュアップしたり、必要に応じて一部分を大きく書き直したりすること。どのようにそれをしたらより良い報告書ができるか。その課題と真摯に向き合えば、単に一つのレポートを作れるだけでなく、大学生が身につけるべき「価値のあるレポート」とは何かについての理解を深めることにも繋がるに違いありません。
実は、同様の課題は生成AIが出てくるよりも前からありました。例えば、英作文の際にインターネットでも容易に使える機械翻訳の活用。初心者は、自分の準備した日本語を翻訳に投げてそのまま出てきた英語を並べてみて、それをそのまま他者に見せてしまって評価を下げます。だいたいそんな風に作られた英文には、こんな所にすぐにでも見つかる問題があるのです。
①まずおかしい。その理由として、まず元の日本語がおかしいことが多い。
②元の日本語が完璧でも、文体が場面に適していないことがある。
③文体が整っていても、文脈に通っていないことがある。
①は、機械翻訳で返ってきた英文を同じツールで、まずはそのまま日本語に訳してもらうことでヒントが得られます。この操作で返ってくるのは、元のおかしい日本語からできたおかしい英語を再度訳した日本語なので、何かがおかしいはずです。訳し直した日本語文を見直すことで、自身が初めにどんな日本語文を書くべきだったかを考え直して文を修正するといいでしょう。ここで必要なのは、「返ってきた日本語文のおかしい点に気づける力」、つまり結局は日本語力が求められることになります。
②③も同様で、結局は場面や業界でよく使われる語句やキーフレーズを自身で理解しておいて、十分な日本語文から訳された英文を推敲できる力が求められます。つまり、良い文書を成果としてアウトプットするのに結局その言語力(この場合で言うと英語力)が必要であるには違いないのです。
そう考えていくと、ネット記事で言われるような「生成AIで仕事がなくなる」のはウソだと分かるでしょう。ここで例に上げた機械翻訳やChatGPTを使うことは、何らかの作業をスキップさせてくれることは間違いありません。しかし、それをスキップした先の次の手順で求められることはこれまでと同じですし、むしろそちらがこれまで以上に重要にすらなるのです。そこを実行していく力を身につけるために必要なトレーニングは、以前からこの研究室で大切にしていることと実は何ら変わりません。忘れてはいけないのは、有用な道具が手元に「ある(存在する)」ことが事実としてあり、
●それらを使って、いかに良い成果を挙げられるか
●成果を最大化するのに、私たちがそれを使いこなせるか
によって、成果の大きさなり評価なりが大きく変わるということなのです。
さぁ、ぜひやりたくない作業をスキップして(※)、次のステップを楽しみに行きましょう。
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(※) 何でもかんでもChatGPTでスキップするのが良いわけでないので、念のため。ChatGPTが一般に公開されたときに、私の近くにいたある研究者が「わー、論文のイントロダクションを自動で書いてくれる!!」と感激しているのを見たときは、(アホちゃうか…… そのストーリーを語るのが研究の醍醐味なんとちゃうんか!?)と思ったものです。まぁ、研究の醍醐味を感じるのも人それぞれなので別にいいのですが。
ただただ、やりたくない作業をアウトソースして、やりたいことにこそもっともっと時間を充てていきたいものですし、多くの人にも限られた時間をそのように使ってもらいたいものだと思うところです。
【こちらも参考に】
Newspicks - 東大・松尾研トップと語る日本のAI逆転法【松尾豊】(2024年6月24日公開)
Voicy - #生成Alで遊んでみた