2011-64

大学入試センター試験

「いやだったことは何か」と訊かれたら,私は「大学入試センター試験業務」と言うだろう.単なる試験監督官ならともかく,入試管理委員(学部責任者)や主任監督官はやりたくない業務である. 入試管理委員は全学的な準備段階の会議から,試験問題・解答用紙のチェック,監督官説明会など試験終了後の解答用紙のチェックまで気の休まることはない.当日は受験票の再発行,体調不良者のための別室受験など何か問題が生じると試験本部と試験会場を走り回ることになる.

比較的軽い主任監督官の業務でも,時系列にセリフ?が記載された分厚い冊子を時間に合わせて一字一句誤りのないように読み上げなければならない.他人が書いた文章だから,文章を切るところを間違えると変な口調になってしまう.時間毎に同じことを言わないといけないので,受験生は「またか」とうんざりしている.途中から受験する受験生がいるからそうしなければならないということである.毎時間同じことを繰り返すので,かえって注意力が散漫になるのではないだろうか.適宜“一言”付け加えた方がよいと思うのだが,中央からの指示以外はしゃべってはならない.

例えば,

「おはようございます」

「前の時間と重複しますが,この時間から受験する人がいるので・・・・・・」

など

今日は寒いので,試験会場で食事をしてもよいという指示も本部から来ない限り,言ってはならないことになっている.各会場にスピーカーが付いているが,一斉伝達には使用できない.毎年,試験終了時刻を間違って伝えてしまったというニュースがあるが,その原因の一端が見えてくる.

この種の試験を全国で同時に一斉に実施することを可能にしているのは日本国民が勤勉であるからであろうと言った外国記者がいた.逆に言うと,人間味のあるアナログ筆記試験ではなく,この種のマークシート試験で人間の能力を測るとは驚きであるということではないだろうか.

マークシート試験は大学入試をはじめとして各種の資格試験の勉強の仕方を変えてしまったと言えるだろう.勉強の仕方どころか授業の在り方まで変えてしまったといえる.過去問を用いた試験対策,試験対応術の勉強である.

大学入試のひとつに“センター利用入学試験”というのがある.センター試験の得点だけで合格を出すのである.志願大学へ行く必要もない.私立高校によってはこれを利用して優秀な学生にあちこちの大学に出願させて合格実績を稼ぎその合格延べ数を進学実績として公表しているというから驚きである.受験料も高校が負担してくれるところもあるようである.

センター試験の目的は,入学試験問題において難問・奇問の出題をなくし、重箱の隅をつついたような設問をなくし,学力を測るものであったはずである.しかし現実は大学の序列化を明確化する結果になってしまった.当然のことながら高校教育に予備校が介在する機会を多くしてしまっている.偏差値情報のギブアンドテイクは今も変わらないようである.

事業仕分けで,試験センターは廃止し,別の業務に変えたらいかがだろうか.

センター試験やそれ以降に続く入試期間(入試シーズン)は観光旅行等も低調な時期であり,ホテル等の旅行業界を潤しているという意見もあるが,最近は大学側が各地へ出かけて試験をするケースが増えており,受験生は経済的理由から郷里で受験する傾向に傾いている.

試験の集計はともかく試験方式だけは,デジタル化すべきではない.そのためには昔の方式(大学独自の試験)に戻った方がよい.

付記

最初に試験監督を経験したのは九州大学助手のときである.厳冬期に暖房なしで三日間張り付け状態にされた.暖房装置がないわけではなく,試験場によって室温が異なると問題があるという理由であった.

熊大では暖房をつけ,途中休憩ありの交代制を採用していて,同じ国立大学でも実施方法が異なるのに驚いた.すべて文科省の指示と聞かされていたが,そうではないということである.

(平成23年1月17日)