70歳過ぎて初めての歯医者通い

2011-18

70歳過ぎて初めての歯医者通い

二度目の定年退職後,ようやく時間ができたので,昨年11月末,生まれて初めて歯医者に行った.

上の前歯の治療が目的であったが,そう思ったのは甘かった.70年間のツケが歯全体に拡がっており,今のうちに徹底的に治療しようということになった.X線検査,歯周病検査,歯石取り,歯磨き指導から始まり,あちこちにある種々の段階の虫歯の治療(歯間を含めた),歯茎の切開手術,抜歯,神経取り,土台作り,部分入れ歯,ブリッジのための研磨,仮歯,セラミック歯の装着等,全体の半分くらいの歯を治療した.

予約カードを見ると,53回(保険診療49回)通ったことになる.9月末にひと通りの治療が済み,これからは一月毎に診せてほしいということになった.

大体週に一度の治療だが,抜歯,小手術的な治療の際は消毒などのため週二回通った.10ヶ月間かかるとは思わなかったが,治療してみると一挙に処置できないことも理解できた.それにしても長い期間,精神的,肉体的に拘束されたものである.もともと今年6月末に息子の結婚式があったので,それまでに間に合うだろうと半年前に治療を開始したが,結局前歯は仮歯で出席した.

前歯ブリッジはセラミックにすることを勧められ,言われるままに実施したが,両隣の健康な歯を削るため3本分,27万円を保険適用外治療費として請求された.保険治療の歯(硬質プラスチック)なら1/5の費用で済むが,生体親和性に劣り,すぐに変色すると言っていた.何十年も生きるわけではないので日本の高分子化学を信じて硬質プラスチックにしてもよかったかもしれない.その道に詳しい人が教えてくれたところによると,保険治療だけでは歯医者は儲けが少ないらしい.

それにしても一日中,次から次と患者の口の中を診なければならない歯科医師,歯科衛生士,助手,技工士の仕事は大変な仕事である.私には到底できそうにない.予約していても結構待ち時間が必要であり,なかなか予定通りにはいかず膨大な時間を費やした.時間に追われる人達はどのように治療しているのだろう.国立大では予想できなかった超多忙の新設私立大学の5年間に一挙に歯が悪くなった気がする.4年間の学科主任の間に,今回のような治療に要する時間は到底捻出できなった.(2011/11/19)

追記

歯科でもらった薬は鎮痛剤,抗生物質,うがい薬の三種,院外処方箋は出していないとのことであった.この分野では「薬剤師なんて必要ない」という雰囲気が満ち満ちていた.薬学部で教鞭をとってきた人間として最初は違和感を感じたが,薬の種類も少なくさらに長期連用するわけでもないので,薬剤師は要らないのではないかと次第に思うようになった.製剤学の進歩で,現場で薬を調合するわけでもないし,こんなところまで強制的に医薬分業にしたらかえって医療費が嵩むことになるだろう.学生の実務実習を引き受けてもらうため,頭を下げまくった薬剤師会のお偉さんが聞いたら,叱られること必至である.