2011-46
違和感を感じた日本薬学会会頭メッセージ
薬剤師会雑誌の5月号 (2011, 63巻 p.455) に新薬学会会頭がメッセージ(”視点”6年制薬学教育一期生の仕上げの年度に当たって)を寄せている.
読みながら何となく違和感を覚えた.
薬学会会頭は長期実務実習をお願いしている薬剤師会に謝辞を述べ,さらに来春誕生する6年制課程の薬剤師に,4年制課程とはひと味違う役割を期待する気持ちを述べている.
しかし文章の後半は,6年制教育対応のため研究が疎かになっている現状を憂いている内容であり,釈然としない.さらに大学院博士課程の設置申請を目前にして,はたして進学者がいるか疑問ともとれる内容の記述が続いている.
6年制教育によって医療現場を体験し,さらに卒業研究を通して研究マインド(問題提起・解決能力)が醸成された人材が,これまで以上に多方面で活躍することを目標にしてきたはずである.
このメッセージは6年制教育環境が研究とは掛け離れたものであることを暗に認めたものと受けとめることができる.
一言で言えば,6年制教育のシミュレーションが甘かったと言える.
6年制の設置準備段階では,薬学の各領域の代表者が議論を尽くし,現在のモデルカリキュラムが誕生した.ところが,6年制がスタートし,計画案(コアカリ キュラム)にそってやってみると,こんなはずではなかったという意見が巻き起こった.その原因は準備段階からの教員の薬剤師業務に関する知識不足に起因す ると言っても過言ではない.
これまで薬系大学で教育に携わってきた教員の中で薬剤師の業務内容や社会的立場を熟知している人はほとんどいない.研究実績がものを言う教員人事では研 究重点主義の旧制大学出身者が勝ち残り,薬剤師教育に疎い教員組織が全国で構築されている.新設された大学も申請段階では実務家教員を除き研究業績が審査 される.6年制薬剤師教育に関する知識の有無ではない.その証拠に他学部教員が数多く採用されている現状がある.
移行準備段階において,医療現場を熟知した委員が「薬剤師教育はこうあるべきだ」と主張すると,経験がないので「そうなのかな」と思いながら是認してし まった結果がコアカリキュラムに集約されたと極言する人さえいる.薬剤師として就職してから習得した方が理解・対応も早いと思われる項目がカリキュラムに 沢山盛り込まれている.実務家教員側からは,逆も真で基礎系には口出ししなかったようだ.
最近,6年間でも足りないという教員まで出始めている始末である.実際は乱立気味の薬系大学に加え定員割れがもたらす学力低下が原因である.即戦力を前 提としてしまったため,大学教育としての卒業研究も国試対策で中途半端になり結局は消化不良のまま世に出ることになるだろう.
博士課程は現在設置申請の準備が進んでいる段階である.4年間の博士課程進学は経済的にも大きな負担になるので,奨学金,社会人受け入れ等の対策を練っ ているとのことであるが,経済的な理由から進学しにくいと考えるのは早計である.他学部なら修士課程の大学院生に相当する5, 6年次学生に対して,創造力,応用力を醸成する卒業研究を実施し,研究の一端を担う経験をさせないと博士課程に進学する動機付けはできないことを理解して いないようである.
[追記]
それは理想論だよと言われること必至である.私大は国家試験の結果が最優先,そのためには卒業研究は犠牲にせざるをえないという趣旨のメールを現役教授 (他学部出身)からもらった.4年制課程で頻繁に実施した予備校教師による講義,模試の利用も疑問を感じなくなっているようである.
6年制教育の一期生は,前年度にCBT, OSCEさらには長期実務実習を終え,現在6年次生として卒業研究に励んでいるはずである.4年制課程の場合,私立薬系大学においては卒業研究は国試対策 に読み替えられてきたことを考えると卒業研究を完結させることは大仕事になっていることだろう.後れてしまった研究を推進するチャンスと思うのだ が・・・・