マグマ発電 その後
2011-24
マグマ発電 その後
入試のことで取材を受けた記事の載った西日本新聞(1996年12月31日,大学入試に於ける男女差別問題)を捨てようと思い,その一面を見て驚いた.一面のトップ1/3を割いた記事の見出しに下記のタイトルが躍っていた(カラー完成概念図付き,ハガキ大).
世界初,モデル実験へ
九大研究グループ
硫黄山でマグマ発電
まず100メートル掘削,21世紀稼働目指す
噴火の規模制御も?
前文は以下の通りである.
1995 年秋,257年ぶりに噴火した久重山系硫黄山の真下にあるマグマから高熱エネルギーを抽出して発電する「マグマ発電」の実用に向け,九州大学工学部資源工 学科の江原幸雄教授らのグループが本格的な研究に乗り出す.未知の資源・マグマ本体を発電に利用する世界初の試みで,実用化すればエネルギー資源問題や地 球環境保全に大きく貢献する.同グループは地下100メートルでのモデル実験を皮切りに,段階的実験でマグマに到達し,21世紀の実用プラント稼働を目指 している.
さらに,記事には次のような説明がある.
これまでの地熱発電は熱源と地下水が混合する地熱貯留層(200℃ー300℃)から噴出する蒸気でタービンを回して発電する仕組みだが,マグマ発電は固 化したマグマやその周辺の高温岩体(500−600℃)を利用し, 水を循環させる熱交換器を通して,地熱発電より高温の蒸気を抽出するため,発電効率を 飛躍的に高めることが可能になる.同時に火山活動の引き金になる熱エネルギーの蓄積を減少させて火山活動のサイクルを延ばすなど,噴火規模を制御する可能 性も出てくる.
この記事から15年が経った今年3月,東北大震災が起こり,巨大津波によってチェルノブイリ事故に匹敵する原発事故が引き起こされてしまった.その結果,原子力発電の代わりに再生可能エネルギーをもっと利用すべきであったという反原発の主張が主流になっている. 再生可能エネルギーとしては太陽光や風力が注目されているが,地熱発電も有力な候補であることには違いない.地熱発電は石油危機の後,70年代に注目を集めたが,原子力発電の普及,化石燃料の下落のため,地熱発電所の建設は進まなかった.
上記の記事に掲載されている研究は,原発の代替というよりも化石燃料の枯渇や地球環境保全を意識したものであったと思われる.報道後15年の間にどのよ うな位置付けがなされたのだろうか,うまくいったのかたいへん興味がある.発想はよかったが実際はうまくいかなったのだろうか.うまくいかなかった理由は 何だろうか.
この種の報道の後日談を聞きたいものである.マスコミがトピックとして大々的に報道するには社会に訴える価値があると思ったからであろう,単に報道する ばかりでなく,その報道内容がどうなっているか追跡し報道すべきである.そうしないと研究費獲得のためのマスコミ利用と思われかねない.一般の人はそこま では思わないかも知れないが,学者の間では新聞報道に対して結構懐疑的な見方をするものである.
そう思いながら,地熱発電に関するWeb検索結果を見ていたら,今年8月31日の日本経済新聞に
「地熱エネルギーブームに乗り遅れる日本 九州大学の江原教授に聞く」
という記事があった.
注 日本地熱学会長を務めた江原幸雄・九州大学教授と記載されている.
記事には下記の内容が記載されている.
1)米国で開発されたEGS(Enhanced Geothermal System、強化地熱システム)と呼ばれる新技術への我が国の対応は今ひとつ.
注 EGSは石油採掘技術を応用した技術.地下の高温の岩盤に井戸を掘って水圧をかけて割れ目をつくり、そこに水を送り込んで人為的に高温蒸気を作り出す.(マサチュー セッツ工科大学(MIT)の研究グループの報告書)
2)地熱発電への国の支援が十分でなかった.
3)有望地点が国立公園内にあり景観保護の観点から開発が制限されている.また,温泉への影響を心配する観光業からの反対も大きい.
4)推進するためには,国会で法律ができた再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度では高価格の買取が必要.
15年前の大晦日に掲載された研究計画は,結果的にはうまくいかなかったようである.(2011/10/7)