※ホーン抵抗と音質向上に効果があると一部で言われている硬質ゴムシートについて

「バックロードホーンってなに?」の中で「バックロードホーンはバスレフや密閉型の様な共振に頼らず、ホーンの共鳴効果で低音の音圧を稼いでいるのでクリアな低音が得られ、またホーン抵抗で共振が抑えられるメリットも生まれます。」と言う文言を記載しましたが、このホーン抵抗とは何なのでしょう?

また、ホーン抵抗は善人なのか悪人なのか???


空気や液体等、管を流れる物には必ず「配管抵抗」と言う流れを阻害する要素が存在します。

バックロードホーンの場合は「音」、すなわち空気の流れが対象で、普通の管ではなくホーン形状の管を通過するので、これを一般的にホーン抵抗と言う様です。

この抵抗は管内の摩擦や長さ、太さや曲がる角度や回数等で大きく変わります。

そこで思いつくのは、管が太くて内部がツルツル、角は曲面にして曲がる回数も少なくすれば抵抗も減り大きな音が得られのではと言う改善策だと思います。

ところがバックロードホーンの難しい点は、ホーン抵抗を減らし過ぎると逆効果になる場合が少なくありません。

他の項目でも説明していますが、バックロードホーンの長い音道は、低域の拡大と同時に中高音を開口部に送らないという重要な役目があります。

仮にホーン抵抗がゼロだとしたら、中高音が減衰せずに開口部から放出され、スピーカーユニット前面の音と、音道を通って開口部から放出される音が混ざって干渉を起こす事です。

これを一般的には「位相歪」と言い、正相では音が大きくなり、逆相では音が消えてしまう厄介な現象です。

2.0mの音道長の場合を例にすると、85Hz,255Hz,425Hzが正相、170Hz,340Hz,510Hzが逆相にと言う様に周波数の違いで正相と逆相が交互に現れます。

周波数特性のグラフを見ると、バックロードホーンは凸凹が沢山あるのが判ると思いまが、これが正しく位相歪の悪戯で、「バックロードホーンは癖のある音」と言われる一つの原因です。

以前造ったエスカルゴは、アイスの棒をアルミテープで繋げて全く角の無いスパイラル構造にして、周波数特性に定在波による大きな凹凸が多数ある癖を完全に解消する事が出来ましたが、反面中音成分が減衰しきれずに開口部から出てしまうため、空気室内に大量の吸音材を入れてこれを対処しました。

低域の音圧も当然減少しますが、定在波や位相歪による音の劣化と秤にかければ音質重視は譲る事は出来ないでしょう。

時間を掛けて丁寧に造った結果が逆効果・・・なんて、皮肉な結果に終わってしまいましたが、これも造ってみなければ判らなかった事で、金管楽器の様な滑らかなホーン形状はバックロードホーンには不向きと言う事が確認できた結果となりました。

もっとも金管楽器は高音から低音まであらゆる周波数を開口部に運ばなければならないので、滑らかな曲線は当然の事なんだと改めて感じました。

バックロードホーンは音道長が2m以上あり、スピーカーユニットの持つ最低共振周波数(f0)より高い周波数を開口部から出さないか、大きな位相歪を出さないレベルまで音道内で減衰させる事ができる構造がの理想です。

その為には試作機を造り様々な調整と測定を行う必要があり、なかなか時間と手間が掛かる作業となります。

一部で言われる低域の改善や音質向上に効果があると言う硬質ゴムシートですが、これもホーン抵抗を減らす働きが大きく、実際にヒダのあるタイプやノーマルタイプ等を試しましたが、低域の音圧は僅かに増えるものの、位相歪による周波数特性の山谷が拡大し音質の劣化は著しいものでした。

特に開口部近くは定在波を作りやすく、インシュレーターや吸音材を付加する物は有っても、硬質ゴムシート等を貼って音圧を稼いでいる物は皆無で、開口部までの音道内で中高音を減衰させる対策がなされていなければ、改悪以外の何物でもありません。

低域の改善や音質向上を謳って出品されているバックロードホーンは、この対策でどれ程の改善効果が得られるのか、証明して頂けたら信頼性も増すのですが、私の実験では負の要素が増えるばかりでした。

また、音道の曲がり角に斜めの板(斜板)が入っている物をよく見ますが、これもホーン抵抗を減らす方策の一つですが、本来の意味は管内で起こる定在波を解消する目的の方が大きいです。

もともと複数繋がる単管の固有周波数による共振現象が起こりにくいエクスポネンシャル方式で設計したバックロードホーンは、斜板の有無に関わらず周波数特性や試聴での変化はほとんど見られないため、ホーン抵抗の一部として活用するため未設置を推奨しています。


「ホーン抵抗って何?」と言うテーマでお話ししましたが、結論を言うとバックロードホーンにはホーン抵抗は必要な物で、その陰では低域の音圧と位相歪よる音の劣化との駆け引きが必ず起こります。

バックロードホーン造りの難しさはこんな所にもあり、試作・計測・試聴の重要性も改めて認識しなければいけない要素の一つと言える訳です。