バックロードホーン作製時の木材の重量や材質による音の違い


以前「※バックロードホーンエンクロージャーに適した木材」と「バックロードホーンのは何故エンクロージャーの軽量化が可能なのか?」の中でご説明致しておりましたが改めて纏めてみました。

重複する部分もありますが、復習だと思って最後までお読み頂けたら幸いです。


一般的に皆さんが良いスピーカーだと思う印象は、板が厚く大きくてズッシっと重量感のある物だと思います。

その第一の理由は、バスレフ型や密閉型は低音を出すために大きく重たいウーハーユニットを取り付けなければならず、自ずと箱の強度も必要になります。

二つ目にスピーカーの背面から出た音圧を貯めなくてはならないため、強固な箱が必要になります。

貧弱な箱だと背圧の影響で箱自体が異常振動(箱鳴り)を起こし、不必要な音(ビビリ音等)が発生してしまいます。

そしてもう一つの理由は、物理学で良く聞く「作用・反作用の法則」です。

スピーカユニットの振動板が前に空気を押し出す向きに作用した場合、スピーカーは逆に後ろに押し返される反作用が働き、これが原因で特に低域の音圧が減ってしまう現象が発生します。

そこで対抗策として出てくるのが「慣性の法則」です。

慣性の法則とは重量が大きいほどそこに留まる力が大きくなり、反作用を抑える働きが増える事で低域の音圧現象を軽減できる訳です。


それでは肝心のバックロードホーンの場合はどんな感じなのでしょう?

バックロードホーンは背面から出た音圧をホーンを介して開口部から放出する事で低い帯域まで再生する仕組みのため、圧力を貯める必要がほとんど無く重量や強度はさほど必要ありません。

また、フルレンジ1発でウーハーに変わる低域の再生はホーンが受け持つため、重たいウーハーユニットは必要なく、自ずと堅牢性は無用となります。

そして最後に「作用・反作用の法則」ですが、口径が16cm程度までの小口径スピーカーユニットでは反作用の影響を受けるほどの応力は発生しないでしょう。

但し20cmクラスになると、多少の影響は出てくる可能性がありますので、板厚を増やしたりウエート等で重量を増やす効果は有るかも知れません。


書籍等で評論家が〇〇kgのウエートを載せると「低音が締まる」とか「迫力が増す」等の論評を載せていますが、周波数特性計測等の裏付けが無い以上、どこまで信用できるかは不明です。

またスピーカーの設置環境も未公開で有るため、信憑性は疑われます。

ちなみに床面がフカフカの絨毯や畳であった場合は、ウエートを載せる事でスピーカーの座りが良くなり、低域の増強に繋がる可能性は十分考えられる事です。


現在作成中のバックロードホンエンクロージャーは、12~15mm程度の板厚で作製していますが、荒天時を利用した爆音テスト(90dB)でも異常振動等の不具合が起こらない事を確認しています。


音の大きさの目安


・120dB(きわめてうるさい) 飛行機のエンジンの近く

・110dB(きわめてうるさい) 自動車のクラクション(2m)

・100dB(きわめてうるさい) 電車が通る時のガード下、油圧プレス(1m)

・ 90dB(きわめてうるさい) 犬の鳴き声(5m)、騒々しい工場の中

・ 80dB(うるさい)     地下鉄の車内、交差点、電車の車内、ピアノ(1m)

・ 70dB(うるさい)     騒々しい事務所の中、騒々しい街頭、セミの鳴き声(2m)

・ 60dB(うるさい)     静かな乗用車、普通の会話、洗濯機(1m)、掃除機(1m)


では何故バックロードホーンも重量級が良いとされていたのでしょうか?

それはバックロードホーンの神と崇められた長岡鉄男氏の影響と言っても間違いでは無さそうです。

生前長岡氏は、専用のオーディオルーム(方舟)を造って爆音で試聴していたと言うのですから、当時のFE168Σ(出力80W)をフルパワーでドライブさせるには堅牢性や重厚なエンクロージャーは必要だったのかも知れません。

しかも当時の風潮では「スピーカーは重たいほど良い」とされており、長岡氏も同調されたいたビルダーの一人だったとの事です。

ちなみに5W程度の出力でも十分過ぎるほどに大きな音を出す事が可能なので、一般の家庭ではこれほどの重量は必要が無いと感じます。

見かけや重厚感をステータスと感じる方は別ですが、無理に重いスピーカーを運んで腰を痛めるほど不愉快な話はありませんからネ。



ここまでスピーカーエンクロージャーの重量に関して述べてきましたが、バックロードホーンにはどんな板材が適しているのか、今までに造った経験から解説してみます。


書籍やHPでは様々な見解が紹介されていますが、市販されているスピーカーで現在一番多く使われている木材はMDFなんだそうです。

値段も手ごろで密度も高く、どこを切っても均一な事が加工にも向いていて、12mm厚程度でも箱鳴りはほとんど感じない木材です。

また接着に関しては無垢の木材に次ぐ強度があり、悪戯に重量を増やしてしまう補強が必要無い事も長所だと思います。

但し水分に対してはかなり弱く、MDFの木片を1時間も水に漬けておくと膨れてしまうほどの吸水力なので防水防湿対策は必須です。

接着が不完全だったりパーツの切断精度が悪かったりすると湿度の影響で簡単に狂いがでたり、接着部が裂けてしまう事故が発生するリスクも他の材料に比べて大きい様です。

防水防湿対策の有効な手段は塗装を施すのが一番ですが、吸水性が強いのでシーラー等の前処理が重要なのですが、ここでも問題が発生します。

それは12mm程度の板厚でも塗装の水分によって簡単に反ってしまう事です。

既に完成したエンクロージャーに塗装を施したら、接着部が裂けたと言う話を聴く事がありますが、これは板反りが原因である可能性は否定できません。

私が施した対策は加工前の板材の状態の6mm厚のMDFを二枚圧着して12mm厚の板として使用する事で、塗装による板反りのリスクはだいぶ軽減しました。

尚。音的には十分満足できるレベルで、市販スピーカーで多用される木材だと言う理由も理解が出来ます。


次に紹介する木材はホームセンター等で簡単に手に入るラワンベニヤです。

ラワンベニヤもMDF同様、比較的安価に入手でき、自作マニアの間では重宝されている木材です。

シナベニヤ等も含め木地も比較的綺麗で、外装処理は簡単に行えますが、私は一度造っただけでベニヤ板を使うのを止めました。

試聴・調整を繰り返しましたが開口部からは出て欲しくない低音寄りの中域が漏れ出てしまい、吸音材を大量に使う事になりました。

空気室内に10mm厚のニードルフェルトを二枚重ねで施しまし漏れはだいぶ少なくなりましたが、音道内の木地の細かさが厄したのではないかと思っています。

更にMDFに比べ比重が軽いのが最大の原因の様で、音道内で低音成分を吸収してしまい、空気室内に吸音材を多用した影響も加わって軽い低音に繋がったと推測されます。

また切断した木口も粗いのが要因で接着強度も弱く、補強を入れないと簡単に剥がれ落ちてしまいます。

工作のしやすさで書籍等ではシナベニヤを勧めている様ですが、音的にはMDFに比べると多少劣る印象です。

ホワンとした低音を好む方には良い素材かも知れませんが、バックロードホーン特有の切れのある低音は望めない素材だと感じます。

但しきちんと設計・調整された物は普通に良い音で鳴っていますので、あくまでもMDFと聴き比べてみないと低域のキレの有無は判らないと思います。


そしてもう一つOSB合板ですが、板材の中で比重が最も大きく、バックロードホーンに仕立てた時の低域の音圧は最も良い素材でした。

ご存知の方も多いと思いますが、OSB合板も最後に紹介する構造用合板同様、耐力壁等に使われる建築用の板材で、どこのホームセンターでも入手が可能な材料です。

薄くスライスした木片を強い圧力と熱で接着したエコ素材で、密度や比重は他の合板に比べて非常に大きく硬い素材です。

家具工房等で使われる工業用のパネルソーでも12mm厚を3枚重ねでは丸ノコの刃が止まってしまう程の硬さですので、工作には最低でも電動の丸ノコが必要となります。

OSB合板の最大の欠点は木地に多数の凹凸があり、平滑面を造るにはパテ埋めや研磨を何度も繰り返す必要がある点で、OSB合板の木目を逆に利用するか、薄いシナベニヤ等を圧着して外壁面に使用するのが最良と思われます。

硬い素材の為、手ノコでの切断はお勧め出来ませんし、表面処理の手間も想像以上ですので、ホビーには向かない素材ですが、バックロードホーン特有の切れのある低音はOSB合板が一番ですので、手間を惜しまずコツコツと造ると言う方には是非チャレンジしてもらいたい素材です。

そしてOSB合板の最大の優位点は吸音材の量を極端に減らす事が可能な点です。

外装には不向きな凹凸の木地ですが、音道に凹凸をそのまま使う事で中高音成分は吸収拡散され、空気室には僅かな吸音材で開口部から出る不必要な音は大幅に減衰します。

当然スロートで拾い出した最低共振周波数(f0)より低い周波数も減衰量は少なく、開口部からはスピーカーユニットの口径に見合わない低音が発せられます。


最後にご紹介するのは構造用合板です。

ウッドショックの影響でMDFの入手が困難になった時に試しに使ってみたのが構造用合板でしたが、OSB合板に勝るとも劣らない性能を発揮してくれました。

構造用合板もラワンベニヤ同様、スライスした木材を縦横交互に貼り合わせて造られる合板ですが、最大の違いは木の密度や比重がラワンベニヤに比べてかなり大きい事です。

建物の構造上の強度を必要とする場所に使う合板で、防音・防振効果も兼ね備えておりスピーカーエンクロージャーの材料としては現在まで使用した木材の中では一・二を争う物だと感じています。

欠点としてはベニヤ板程では無いものの、切断した木口が粗いので接着には補強材が必要になる事と、木地が荒く節やキズが多い事で、パテ埋め等の前処理が必要になる点です。

音的にはMDF材と遜色が無く、一般的なベニヤ板の様な低域のダラしなさは無く締まった低音で、OSB合板同様バックロードホーンエンクロージャーには最良の材料だと感じます。

外装の表面処理(パテ埋め等)後、塗装をする前提で作成するのであれば、最適の素材ではないでしょうか。


以上、どの板材(シナベニヤを除く)も、安価に手に入る素材ですが、それぞれに長所や短所がありますので、十分理解した上で選ぶ事をお勧めします。

ちなみに構造用合板・OSB合板とも音的にも満足できる板材ですので、時間と手間を掛けても安価で良い音が聴きたいという方には文句のない素材だと思います。

また、バックロードホーンは他の種類に比べて開口部が大きく湿度の影響を受けやすい為、内部外部とも塗装によるコーティングを施せば長く楽しめるスピーカーになると思います。

特に肌理の細かいMDF材を使用したバックロードホーンの内部は艶消し塗装を、構造用合板・OSB合板は粗い肌理のまま塗装を施した方が、音道内で高・中音成分は吸収拡散され、空気室に入れる吸音材は僅かな量ですむ様です。

ちなみに吸音材の増減で使いやすい素材は10mm厚のニードルフェルトで、増やすには2枚重ねで減らす場合は引っ張る事で薄く伸ばす事が可能なので、既に使用しているエンクロージャーのチューニングにも使えるテクニックです。


今回紹介した素材による音の違いは周波数特性ではその変化はほとんど現れず、あくまでも私が聴き比べた印象で有る事を最後にお断りしておきます。

既にお手元にある製品は、吸音材の量で調整を行っていますので、聴感上の違いは全くありませんのでご安心下さい。


バックロードホーンの場合は高価な材料で綺麗に造れば(シナベニヤ等)仕上げの手間もさほど掛からない反面、大量の吸音材に頼る事になりますし、必然的に材料費も高額になります。

しかし音に関して言えば、音造りに適した材料を選べば最良の音に出会えると思いますが、外装の処理に手間が掛かる事は覚悟しなければなりません。

言わば「あちらを立てればこちらが立たず」と言ったところでしょうか。


結論としてはスピーカーは音が命ですから、特にバックロードホーンの場合は高価な材料は使えず、安価な材料が最適なのですが外板の平滑処理と塗装が必須になる事が手間となります。

ちなみに現在ラインナップ中のFE166NV2専用機の外板には12mmの構造用合板に3mmのシナベニヤを圧着し、木目を生かした塗装を施していますので、音と高級感の両立が見事に図れた自信作です。

作業工程が増える事で製作には時間と手間がかかるのが難点でが、安価に良い音のバックロードホーンが造れるのは最大のメリットでもあります。


追伸

その他の素材に関しましては実際に未使用のため、一般的に言われている特徴から善し悪しを述べてみたいと思います。

まず最近建材にも多く使われる様になった集成材から考えてみます。

集成材はMDF材・OSB合板と同様に木片を接着剤で圧着した素材で、大まかな違いは木片の大きさです。

強度的には無垢材と同等で、経年劣化による木割れや反り等は無垢材より少ないと言われていますが、木目に統一性が無くパッチワーク的な市松模様で仕上がるので好みが分れそうです。

また歴史的にも浅い素材の為、今後どの様な不具合が出るか判りませんので、長く使う事を考えた場合は不安が残ります。

しかし価格は安くはなく無垢材とさほど変わらないと言われていますが、大きなサイズの板も造れるので大きな板で購入する場合は無垢材よりは安価になる様です。

音的には比較的密度は高い様ですが、木地が綺麗に整えられている為、シナベニヤと同様に吸音材の量を増やさなければならないと予測できます。

特に音道が2mに満たないバックロードホーン(D-10バッキー等)の場合、位相変化を起こした低域寄りの中音成分が開口部から漏れ出る可能性が高いので、吸音材の調整は楽ではないと思います。


檜や杉・栗等の無垢材は、木の密度や木地の仕上げ状態で音の違いは確実に有ると思いますが、先にも述べた様にバックロードホーンの場合は綺麗に仕上げられた木地ほど吸音材の調整に手間が掛かりますので、極端な言い方をすると「音を取るか見かけを取るか」と言った感じでしょうか?

また無垢材の最大の欠点は、木自体が縮んだり割れたりするリスクが必ずあると言う事です。

高級家具に使われる木材の様に、何十年も乾燥させた材料で造られていればそのリスクも減るとは思いますが、その分価格が跳ね上がる事も覚悟しなければいけません。


最後にスピーカーエンクロージャーには適さない木材を挙げておきます。

比較的安価で厚めの板材が入手できると言う事で、手にしてしまう方が居るようですが、バックロードホーンにしろバスレフ型しろエンクロージャーの役割をご存知の方は絶対に手にしない木材だそうです。

「〇〇ランバーコア」と言う名前を聞いた事がある方もいると思いますが、「ランバーコア」とは薄いベニヤ板の芯にブロックに切った「ファルカタ材」 をサンドした合板なのです。

このファルカタ材」とは子供の頃に造ったであろう模型飛行機の材料「バルサ材」と同様に、カッターで切れる様な柔らかさと軽さを併せ持った素材で、合板の中でも軽く加工がしやすいのが一番の特長です。

一般的に「ランバーコア」と言うと、「ラワンランバーコア」を指すようですが、木地が綺麗なシナ材を使った「シナランバーコア」と言うものも存在します。

では何故「ランバーコア」がエンクロージャーに適さないのかを説明します。

薄いベニヤ板の芯にブロックに切った「ファルカタ材」 をサンドした合板と言う説明をしましたが、構造的には吸音材を薄いベニヤ板ではさんだ物と同等と考えると特に説明も必要無いかも知れません。

要するに音響的には減衰して欲しくない低域を、中にはさんだファルカタ材」が吸収してしまい、低音の出ないエンクロージャーが出来てしまうのです。

また構造上、釘や木ネジが効きにくいと言う特徴から、スピーカーユニットを取り付ける際にも強く締められず、ビビリ音に繋がる事も否定できません。

当然スピーカーユニットの付け替えは不可能で、一度空けた穴はネジが効かなくなるのは確実です。

くれぐれもスピーカーエンクロージャーの材料には「〇〇ランバーコア」は使わない、いや使えないと覚えておいて欲しいと思います。


「バックロードホーン作製時の木材の重量や材質による音の違い」と言うタイトルで説明してきましたが、少しでもご理解頂けましたでしょうか?

「スピーカー木材の特徴」をまとめたHPがありますので、最後にご紹介しておきます。

https://www.highcraft.org/page/55



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