※バックロードホーンエンクロージャーに適した木材

書籍やHPでは様々な見解が紹介されていますが、ここでは私がバックロードホーンを試作・製造した中での感想を述べてみます。

市販されているスピーカーで現在一番多く使われている木材はMDFなんだそうです。

値段も手ごろで密度も高く、どこを切っても均一な事が加工にも向いていて、12mm厚程度でも箱鳴りはほとんど感じない木材です。

また接着に関しては無垢の木材に次ぐ強度があり、悪戯に重量を増やしてしまう補強が必要無い事も長所だと思います。

但し水分に対してはかなり弱く、MDFの木片を1時間も水に漬けておくと膨れてしまうほどの吸水力なので防水防湿対策は必須です。

防水防湿対策の有効な手段は塗装を施すのが一番ですが、吸水性が強いのでシーラー等の前処理が重要なのですが、ここでも問題が発生します。

それは12mm程度の板厚でも塗装の水分によって簡単に反ってしまう事です。

私が施した対策は6mm厚のMDFを二枚圧着して12mm厚の板として使用する事で、板反りのリスクはだいぶ軽減しました。

また、接着が不完全だったりパーツの切断精度が悪かったりすると湿度の影響で簡単に狂いがでたり、接着部が裂けてしまう事がありました。

音的には十分満足できるレベルで、市販スピーカーで多用される木材だと言う理由も理解が出来ます。

次に紹介する木材はホームセンター等で簡単に手に入るベニヤ板です。

ベニヤ板もMDF同様、比較的安価に入手でき、自作マニアの間では重宝されている木材です。

シナベニヤ等も含め木地も比較的綺麗で、外装処理は簡単に行えますが、私は一度造っただけでベニヤ板を使うのを止めました。

その理由は、バックロードホーンに仕上げた時、音に締りが無い事です。

MDFに比べ比重が軽いのが最大の原因の様で、音道の途中に吸音材を多用した時の様な頼りない低音と、籠った音が堪えがたかった印象です。

おそらくは低密度の為、音道内で低音成分を吸収してしまっているのではないかと推測します。

また切断した木口も粗いのが要因で接着強度も弱く、補強を入れないと簡単に剥がれ落ちてしまいます。

また最大の欠点として、反りが発生しやすい素材でも有る事を付け加えておきます。

柔らかでホワンとした低音を好む方には良い素材かも知れませんが、バックロードホーン特有の切れのある低音は望めない素材だと感じます。

新たな材料として採用した構造用合板を紹介します。

構造用合板もベニヤ板同様、スライスした木材を縦横交互に貼り合わせて造られる合板ですが、最大の違いは木の密度や比重がベニヤ板に比べてかなり大きい事です。

建物の構造上の強度を必要とする場所に使う合板なので、スピーカーエンクロージャーの材料としては現在まで使用した木材の中では一二を争う物だと感じています。

欠点としてはベニヤ板程では無いものの、切断した木口が粗いので接着には補強材が必要になる事と、木地が荒く節やキズが多い事で、パテ埋め等の前処理が必要になる点です。

音的にはMDF材と遜色が無く、一般的なベニヤ板の様な低域のダラしなさは無く、締まった低音でバックロードホーンエンクロージャーには最良の材料だと感じます。

外装の表面処理(パテ埋め等)後、塗装をする前提で作成するのであれば、最適の素材ではないでしょうか。

最後にOSB合板ですが、板材の中で比重が最も大きく、バックロードホーンに仕立てた時の低域の音圧は最も良い素材でした。

ご存知の方も多いと思いますが、OSB合板は構造用合板同様、耐力壁等に使われる建築用の板材で、どこのホームセンターでも入手が可能な材料です。

薄くスライスした木片を強い圧力と熱で接着したエコ素材で、密度や比重は他の合板に比べて非常に大きく硬い素材です。

家具工房等で使われる工業用のパネルソーでも12mm厚を3枚重ねでは丸ノコの刃が止まってしまう程の硬さですので、工作には最低でも電動の丸ノコが必要となります。

最大の欠点は木地に多数の凹凸があり、平滑面を造るにはパテ埋めや研磨を何度も繰り返す必要がある点で、OSB合板の木目を逆に利用するか、シナベニヤ等を圧着して外壁面に使用するのが最良と思われます。

硬い素材の為、手ノコでの切断はお勧め出来ませんし、表面処理の手間も想像以上ですので、ホビーには向かない素材ですが、バックロードホーン特有の切れのある低音はOSB合板が一番ですので、手間を惜しまずコツコツと造ると言う方には是非チャレンジしてもらいたい素材です。

以上、どの板材(シナベニヤを除く)も、安価に手に入る素材ですが、それぞれに欠点がありますので、十分理解した上で選ぶ事をお勧めします。

ちなみに構造用合板・OSB合板とも音的にも満足できる板材ですので、時間と手間を掛けても安価で良い音が聴きたいという方には文句のない素材だと思います。

また、バックロードホーンは他の種類に比べて開口部が大きく湿度の影響を受けやすい為、内部外部とも塗装によるコーティングを施せば長く楽しめるスピーカーになると思います。

特に肌理の細かいMDF材を使用したバックロードホーンの内部は艶消し塗装を、構造用合板・OSB合板は粗い肌理のまま塗装を施した方が、音道内で高音成分は吸収拡散され、空気室に入れる吸音材は僅かな量ですむ様です。

今回紹介した素材による音の違いは周波数特性ではその変化はほとんど現れず、あくまでも私が聴き比べた印象で有る事を最後にお断りしておきます。


FE108EΣ専用機をご落札頂いた方から取引ナビでこんな質問をお受けしましたので、回答の内容をこちらにも転記しておきます。

Q)

音工房zでは、バックロード・バスレフでフィンランドバーチ材を採用しています。  

もちろん材料費は跳ね上がりますが、音を求めるなら上位版として選択しに入れても良いのではないでしょうか? 

またMDF系はウーファーはともかく、メインでは向かないのではありませんか?

A)

バーチ材の中でも北ヨーロッパに属するフィンランドバーチは目が詰まっていて硬くスピーカーには最適と言われていますが、要するに比重と肌理の問題なんです。

バックロードホーンの場合、比重が大きければ音道中で吸収される低音成分は少なく、パンチのある低音が期待できます。

MDFが入手できなくなり試しに入手しやすいラワンベニヤでFE103NV専用機を造ったら、柔らか過ぎる低音に幻滅しました。

そこで安価で入手できる板材を探していたところ、OSB合板に辿り着いた次第です。

ちなみにフィンランドバーチ合板とOSB合板の比重は約0.72、ラワンベニア0.6からすると確実に密度が高い事が分かります。

また肌理の問題ですが、表面は肌理が細かく都合が良いのですが、音道内ではこれが災いして低域寄りの中音の減衰量が少なくなります。

位相歪等の軽減を図るには音道を長くするか吸音材を多用するしか方策が無いんです。

音道を長くするとエンクロージャー自体が大きくなったり、吸音材を多用した場合、低域成分の減衰に繋がってしまいます。

いずれにしても、どんな特性のスピーカーを造るかによって、材料を吟味するのが良いんじゃないでしょうかネ。

ちなみにMDFの一般的な比重は約0.62ですが、塗装による反りの問題で6mm厚を二枚接着して12厚を造り塗装下塗りのシーラーを染み込ませたりすると、重量がかなり増しますので、周波数特性でも試聴でも現在使用のOSB合板と大きな違いは認められませんでした。