バックロードホーンを造るうえでのこだわり

※ 全てオリジナル設計 試作は必須 納得するまで煮詰めます

大型サイズから小型・壁掛け型まで、全て他には無いオリジナル設計で、試作・試聴・計測を繰り返し、納得できる物だけ出品しています。


友人からも良く聞かれる質問で、「試作はどうやっているの?」と言うのが意外と多いので、この場を借りてご紹介します。


まずはスピーカーユニットの諸元から自作のエクセル計算シート(添付写真)で設計図に必要な数値を出し、それを元に実寸大設計図を作ります。


その設計図を元に試作機を作るのですが、空気室やスロート、音道等は図面から拾った寸法でパーツを切断し、全て両面テープで仮止めし、周波数特性を計測しながら微調整します。


基本的に最初に作成した設計図から大幅に外れる事はほとんどありませんが、場合によっては数センチ単位で修正しなければならない事も・・・。

特に多い修正箇所は、低音域の拡大に直接つながるスロート断面積と空気室容量、次に音道の第一ターンの角度で定在波の影響が変わりますのでミリ単位の調整を行います。

最終評価のポイントは、スピーカーユニットのF0値(最低共振周波数)より低い周波数まで再生出来ているかは当然の事、その他に開口部から位相歪に繋がる低域寄りの中音成分が十分に減衰していて、周波数特性のグラフに大きな凸凹が無い事を最重点に置いています。

※ 周波数スイープによる周波数特性の計測

出来上がったバックロードホーンのデキの判断は試聴重視ですが、善し悪しの裏付けとして周波数スイープによる特性を計測し、そのグラフを添付しています。

試作段階で開口部から位相歪に繋がるレベルの低域寄りの中音(200Hz~500Hz)が出ていないかは、流石に耳では判らないので、周波数特性の計測は欠かせません。

特にグラフの大きな凸凹は位相歪や音道内で起こる定在波の影響が大きく、空気室内の吸音材の量や音道のレイアウトの微調整等、対策を行いながら繰り返し計測を行い、試作機を仕上げていきます。

※ 爆音試験

あくまでもスマホアプリでの簡易測定になりますが、試作機で荒天時に常識の範囲を超える爆音試験(90db/m)を行い、異常振動(ビビリ音等)が無いかを確認しています。(音圧90dBとは、地下鉄の騒音レベル相当です)

(小口径で音圧に限界がある場合は、許容範囲いっぱいで測定)


※ スピーカー内部配線

スピーカーターミナルは音による振動で僅かに緩む事が判明したため、取り付けナットを接着剤で固定して緩み防止をしています。

スピーカー配線はエンクロージャー内での仕切り板等との干渉による異音発生の要因となるため、貫通穴(接着処理)とターミナル端子間は完全に浮かし空中配線をしています。 (写真は試作機)

(音出し中の異音発生の3大要因は内部配線の干渉・スピーカーユニット取り付け時のネジ締めが不完全・スピーカーターミナルネジの緩みと言われています。)

※ スピーカーユニットへの取り付け端子

内部配線は、米国製の「BELDEN 8470」を使用。

スピーカー端子は、audio-technica社製 スリーブ付ファストン金メッキ端子205を使用。

線長は空気室内での無駄な遊びを極力減らし、スピーカーユニット取り付け時には吸音材に沿う長さとしています。

万が一端子が外れた場合でも短絡しない様、端子スリーブ を付け、プラス側はスリーブがズレない様に収縮チューブで養生。

205端子と配線はカシメた後、半田付けしています。

(金メッキされた端子側は腐食の心配はありませんが、配線側は腐食する場合が多く、接触抵抗を発生させないため)

※ エンクロージャー内部

エンクロージャー内部は湿度によるカビの発生木材の収縮による悪影響を排除するため、全て艶消しのアクリル塗料で塗装済み。

副産物として高音成分は音道で吸収拡散され、空気室に入れた僅かな吸音材で開口部から心地の良い低音が得られる様になりました。

側板との接着はダボにより接着力を高めるとともに、接着時のズレの防止になっています。

尚、ミドルクラス以上は音道長は全て2m以上を確保しています。


ホーンの広げ方にはエクスポネンシャル方式で指数関数的に音道を広げていく方法で、この手法を導入した後は試作段階でも土管臭さはほぼゼロになりました。


(音道の曲がり角が直角の場合、音がその前後で反射を繰り返す事で定在波の要因となります。

 エクスポネンシャル方式の場合、曲がり角が僅かですが90度を超える角度になり、反射波は

 繰り返しが激減し、定在波の発生も抑えられる事が実験で判明しました。

 その為、曲がり角に入れる斜板は必要なくなり、無駄な重量の増加も抑える事が出来ました。)

 

S=S0×e^mx


S=スロートからの距離がx(m)の所のホーン断面積 (cm^2)

S0=スロート断面積 (cm^2)

e=2.718・・・ (自然対数の底)

m=広がり定数

x=スロートからの距離(m)

(壁掛け型スピーカーも含めて過去の出品エンクロージャーは全てエクスポネンシャル方式でホーン設計を行っています)

(写真はFE126NV専用機)

※ ターミナル保護

万が一の転倒、上部からの物の落下等からスピーカーターミナルを保護するためエンクロージャー上部に突起を造っています。

初期の試作機で、上部から壁掛け型スピーカーが落下し、端子を破損した経験から突起部を造る様にしました。

移動の際の持ち手にもなります。

Dー10バッキー魔改造 FE103NV専用機

FE126NV専用機

他の機種も形状は異なりますが端子の保護対策を行っています。

※ 小型バックロードホーンを造る上での注意点

小型のバックロードホーンを設計するに当たり一番の問題は音道の長さが取れないのが最大の欠点です。

音道が短いと低域特性の拡大が難しい事が最初に思い当たりますが、それ以上に深刻な問題は低域寄りの中域音が減衰せずにホーンから出てきてしまう事です。

中域音がホーンから出ると言う事は位相歪がほぼ確実に出てしまう事を意味します。

位相歪とは極端な例ではスピーカーの正面から出る音とホーンから出る音が逆位相の場合は音が消え、同位相の場合は音が大きくなる現象です。

また、位相が15度30度・・・と変わるに従って、スピーカーユニットの正面から出る音と干渉しあい、唸り等の本来有ってはならない様々な波形を作り出してしまいます。

その時の気温や湿度で発生する周波数が微妙に違いますので、特定の音源で耳で聞き分けられるかは疑問ですが、特定の音がうるさく唸ったり「ボンツキ」と言われるキレの無い低音が出てくるのはコレが原因の一つと言われています。

また音が消える現象はスピーカーをアンプに繫ぐ時に片チャンネルだけ極性を間違えてしまった時に、中央で歌っているボーカルが消える事に似ています。

それが低域寄りの中域音の特定の周波数で起こってしまうので、音に敏感な方でしたら物足りない音に感じてしまうでしょう。

ちなみにスピーカーユニットのf0(最低共振周波数)以下の周波数では、この現象は現れません。

解決策は中域音をホーンに送らない様に吸音材を多用する事ですが、肝心の低域の音圧まで減衰してしまうために本来低域を稼ぐ為のホーンが全くの無駄になってしまいます。

小型バックロードホーンを購入検討されている方は、特にQ0値の小さい高効率のユニットを指定したエンクロージャーは以上の様なリスクがかなりの確率である事を十分考慮して選ぶ事をお勧めします。

私の手掛ける小型バックロードホーンの試作機は、空気室容量やスロート断面積・吸音材の量や音道長を微調整を周波数特性の計測しながら繰り返し、低域寄りの中域音が位相歪を作らないレベルまで下げる事を最重点課題としています。

※ エンクロージャーの高さ

ご存知の方も多いと思いますが、音のはスピーカーユニットの中心から放射線状に広がっていきます。

ところが周波数によってこの広がり方が違うのです。

左のグラフは多くの方がご覧になっていると思いますが、左上の引用で示す様に正面からの角度が変わると高域のみが減衰している事がわかります。(30degとは30度の意味)

スピーカーユニットから放出される音は正面から30度60度と外れるほど高音が聞こえなくなってしまいます。

これは左右だけではなく上下にもあてはまります。

上下で30度違う事は有り得ない話ですが、それでも周波数特性を測りながら測定のマイクを上下させると僅かな高さの変化で高域が減衰している様子が見えてきます。

一般的に日本人の体形からソファーにゆったり座った時の耳の高さは70cm~80cmと言われていますので、スピーカーユニットの中心の高さがこの範囲に入れば理想的な高さと言えるでしょう。

私が出品しているエンクロージャはミドルクラスもラージクラスもスピーカーユニットの高さは70cm~80cmの範囲を超える事はありません。

今後新作を設計するとしても、この条件は外さないでしょう。

これも一つのこだわりです!

※ 梱包の様子

スピーカー1本ずつ巻き段ボールで巻き(輸送中のスレ防止)連結した後に、その上からエアーパッキンを二重に、更に12辺の角を養生した後に巻き段ボールで再度梱包しています。

更にPPバンドで固定。

Dー10バッキー魔改造 FE103NV専用機

FE126NV専用機


FE166NV専用機は2本1組30kg弱になるため、1本ずつ上記同様の包装をした後に2本を連結して出荷しますので、到着の際は玄関で連結を切り離し1本ずつお部屋に運べる様に配慮しました。