スロート断面積と空気室容量の求め方
バックロードホーンを設計するに当たって肝となる部分は何を置いても「スロート断面積」と「空気室容量」です。
ここではその求め方を解説します。
※「スロート断面積」
スロートとは空気室からホーンに音を送り出す出口で、その数値は平方センチメートルです。
その数値はスピーカーユニットの振動板面積から算出されます。
スピーカーユニットの諸元表には必ず「実効振動半径(a)」の記載があります。
振動板の面積を求めるには、小学校で習った(半径×半径×3.14)。
そこに「Q0(共振先鋭度)」に対する係数「スロート断面積比」を掛けた数値が「スロート断面積」となります。
Q0の値 振動板面積に対するスロート断面積比(係数)
0.3以上 75%以下
0.3~0.2 70%~85%
0.2以下 80%~100%
FOSTEX FE103NV・NV2を例にするとFE103NVの「実効振動半径(a)」は40 mmですので「振動板面積」は
4×4×3.14≒50平方センチメートル
「Q0(共振先鋭度)」は0.46ですので、その係数は・・・と言いたいところですが上記の表には0.46に対応する係数はありません。
「Q0(共振先鋭度)」が0.3以上と言う事で75%以下を適用するのですが、ここでは70%と過程して計算すると、
35平方センチメートルとなります。
空気室の内幅が17センチメートルだった場合、スロートの高さは約2センチメートルと言う事になります。
※「空気室容量」
「空気室容量」は先に求めた「スロート断面積」を元に算出されリットルで算出されます。
「空気室容量」=10×「スロート断面積」/「クロスオーバー周波数」
FOSTEX FE103NV・NV2専用機を例にすると「空気室容量」は10×35/200 =1.75リットルと言う事になります。
「クロスオーバー周波数」は概ね200Hzが良いとされていますが、「Q0(共振先鋭度)」が0.27のFE166NVの場合は僅かに大きい方が低域の伸びが良い様です。
(ホーンは低音を、ユニットは中音~高音を受け持つのがバックロードホーンの特長ですが「クロスオーバー周波数」とは、この境目の周波数を指しています。)
※許容範囲について
振動板面積に対するスロート断面積比(係数)を上記しましたが、実のところこの範囲であればOK.と言う事では無いのです。
逆に言うと、「適正値はこの範囲にある」と言った方が正しい言い方かも知れません。
試作中にスロート断面積を少しづつ変えて周波数特性を見ると、スピーカーユニットのF0値(最低共振周波数)より低い周波数は見た目で下がる変化を示します。
スロート断面積を絞れば絞るほど、低い周波数まで再現できる様になりますが、絞り過ぎるとF0~中音のレベルが下がります。
この事は空気室内が密になり、スピーカーユニットの振動板(コーン)の動きを抑制してしまうエアースプリング状態になっている事を示し、籠った音(歪)が発生している状態です。
微調整はこの境界点を探す重要な作業になります。
次に空気室容量ですが、これは意外というほどアバウトで、あえて違いを表現すると空気室容量を大きくすると低音が軽くなり、小さくすると中低音がうるさく感じると言ったところでしょうか?
これは低域を受け持つホーンと中高音を受け持つスピーカーユニットの境目(クロスオーバー周波数)が空気室の増減で変化する事によって起こる現象です。
空気室容量を大きくするとクロスオーバー周波数が低くなり、逆に小さくするとクロスオーバー周波数が高くなるという変化が起こります。
ただこれも、適正なスロート断面積が決定された後の事象で有る事を付け加えておきます。
※まとめ
「スロート断面積」「空気室容量」とも、先駆者たちの経験から導いたものなので、これで完全と言う訳ではありませんが、この基準を外れると低域の拡大はおろか、真面に鳴らない事も実験で実際に起こっています。
また「スロート断面積比」も僅かに10パーセント外れただけで低域の拡大幅が激減するので、可能であれば微調整ができる方法で仮組して適正値を見つけた後に本組する事をお勧めします。
(私の場合は両面テープで仮止めし、周波数特性を計測しながら微調整しています)
※応用
今回紹介した数式を逆にたどれば、現在お持ちのバックロードホーンに適応したスピーカーユニットを探し出す手掛かりになりますので参考になさって下さい。