※バックロードホーンってなに?
バックロードホーンとはスピーカーユニット後方から出る音を後部に繋がるホーンによって低音成分のみを開口部から放出させる仕組みのスピーカーシステムです。
元々は現代の様に出力を稼げない真空管アンプ時代、劇場等で大きな音を出すために開発されたシステムで、低域の苦手な高効率のスピーカーユニットから如何に低音を引き出すかが開発のポイントでした。
じゃ現代は「お呼びでは無いのでは・・・」と思われる方も多いと思いますが、当時音の大きさにしか注目されなかったスピーカーシステムに意外な長所があったんです。
その一つが、歪が少ない事。
現代主流になっているマルチウェイシステムは、それぞれのユニットの得意な周波数帯だけを再生して一つの音にするシステムです。
その際に必要になるのがクロスオーバーネットワークと言う音のフィルターで、コイルとコンデンサーで構成され、それぞれのスピーカーに対応する周波数帯域を振り分けています。
それぞれの音域がスパっと切り分けられれば良いのですが、なだらかに減衰していくカーブが重なった場所(クロスオーバー)が発生し、どんなに上手く繋げてやっても僅かな歪が発生します。
勿論、素人が計測器も使わずにやったら、僅かどころでは無い歪が出て、音の濁りに繋がります。(実は私も経験済み)
それに対してバックロードホーンは一つのスピーカーユニット(フルレンジ)で、全ての周波数帯域を再生するので歪の原因になるクロスオーバーネットワークは必要ありません。
そのため濁りの無いクリアーなサウンドが得られる訳です。
二つ目は点音源。
名機と呼ばれたYAMAHA「NS-1000M」等の大型スピーカーは、最低でも6畳間を縦に使って丁度良いリスニングポイントが得られると言われていますが、まさしくこれは大型マルチスピーカー故の欠点です。
要するに高域・中域・低域と音の出る場所が違うために、リスニングポイントはスピーカーから距離を取らなくてはならなくなります。
事実近くで聞くと、ボーカルの頭の上でドラムのハイハットがシャカシャカ鳴ってると言う可笑しな状況に・・・。
それに対してバックロードホーンのフルレンジスピーカーは低域から高域まで、同じユニットから出ているので、極端な話スピーカーから1mに満たない距離でも十分に豊かな音場が現れます。
三つ目は省エネで有る事。
マルチウェイシステムの場合は大電力を必要とするウーハーに対して、さほどパワーの要らないミッドレンジやツイーターには、それぞれのユニットのバランスをとるためのアッテネーター(減衰機)が付けられています。
当然その分、ボリュームを上げなければ大きな音を出す事が出来ません。
バックロードホーンの場合は先ほどもお話ししました様に、真空管時代の低出力アンプから如何に大きな音を出すかを追求したスピーカーシステムなので、数ワットの小さなアンプでも十分にドライブ可能です。
当然フルレンジ一発ですから、アッテネーターも必要ありません。
だから非力なアンプでも十分に音楽を楽しむ事が出来るんです。
四つ目は綺麗な低音。
バスレフ、密閉型といった一般的な方式は共振を利用して低音の音圧を稼いでいます。
しかし共振は時として歪を生む原因にもなって位相ずれ等が起こり、音質への影響は高調波歪や混変調歪より大きいと言われています。
一方バックロードホーンは共振に頼らず、ホーンの共鳴効果で低音の音圧を稼いでいるのでクリアな低音が得られ、またホーン抵抗で共振が抑えられるメリットも生まれます。
良い話ばかりですが、ここでディメリットも・・・。
まず構造が複雑でエンクロージャーが大型になる事。
他の種類のスピーカーに比べて開口部が大きいため、湿度の影響を受けやすい事。
主なバックロードホーンは小口径(20cm以下)のユニットとの組み合わせで構成される場合が多く、部屋を揺らす様な重低音は期待できない事。
またスピーカーユニットとエンクロージャーのマッチングが悪かったり構造に問題がある場合、ユニットとホーン開口部との干渉で周波数特性に凸凹が生じたり、ホーン鳴きによるクセっぽい音になる可能性が多い事。
音響メーカーがバックロードホーンを作りたがらない理由もこの辺にありそうです。
また良く言われている「バックロードホーンらしい音」とは、デキの悪いエンクロージャーや、スピーカーユニットの特性とかけ離れたエンクロージャーとの組み合わせによる癖の強い音で、
スピーカーユニットの特性に合わせて造られたエンクロージャーからは、上記4つの様な癖のない素晴らしい音が出るものです。
そんな理由で絶対に「バックロードホーンらしい音」とか「バックロードホーン特有の音」と言う表現は全く持って当てはまりません。
ただ、そういう音を好まれる方もいらっしゃるため、強く否定は致しませんが・・・。