スピーカーシステムにおける吸音材の役割

このホームページをご覧の方は、スピーカーエンクロージャー内に貼られている吸音材の存在を多くの方がご存知だと思います。

吸音材は名前の通りエンクロージャー内の音を吸収する働きがあります。

「吸収」と言うと単に音を吸い取ると言うイメージですが、実際は空気の振動エネルギーを熱エネルギーに変換する事で音を消しているのです。

ではどうして吸音材は必要なのでしょうか?


例として普及率の高いバスレフ型スピーカーシステムで解説してみます。

通称バスレフ型と言っているタイプのスピーカーシステムは、正式にはバス・レフレックスの略称で意味を直訳すると「低音反射」と言う事になります。

動作原理としては、ヘルムホルツ共鳴によって音を増幅し、エンクロージャーに開けられたダクトを付けたポート(穴)から音を放出する仕組みです。

その際、スピーカー正面と背面の音は逆位相になり、そのまま放出すると音が消える現象が起きる為、ダクトの長さや太さを調整し同位相になる様に設計する事から「位相反転型」とも呼ばれています。

さて肝心の吸音材ですが、低域の拡大を目的とするダクトから中高音が出てこない様にするのが最大の働きです。

次に重要なのが、スピーカー背面から出た音がエンクロージャー内で反射して振動板を通過して前面に出てこない様にする作用です。

更には、エンクロージャー内の並行する上下・左右・前後で音が反射して起こる定在波の抑制にも一役かっています。

と言う事で、バスレフ型スピーカーシステムにおける吸音材の働きは、エンクロージャー内の全て、又は平行に対面する壁の片面に設置し、それはかなり大きな役割を果たしています。

そして最後にエンクロージャーその物の共振による異常振動を抑える働きも忘れてはいけません。

バスレフ型では音の歪を抑えるには吸音材は必須で、入れる位置や量によってはスピーカーシステムとして成立しない駄作を作り出す事も少なくありません。


ではお待ちかねのバックロードホーンではどうなのでしょう?

その前にバックロードホーンの正式名称はバックローデッドホーン、「Loaded」の意味は沢山ありますが、この場合は「負荷をかける」と言う事になります。

バックロードホーンの原理はHP内でも解説の通りなので割愛させて頂きます。

ではバックロードホーンに設置される吸音材のにはどんな働きがあるのでしょう?

バックロードホーンの場合、基本的に長い音道を音の波が通る間にホーン抵抗等で中高音が減衰し、開口部からは低域のみが放出さるはずです。

ところが実際は1本の管で繋がっている以上、多少なりとも中音成分が出てきてしまいます。

これは音道長が短い小型サイズのバックロードホーンの方が顕著で、特定の周波数で位相歪が発生し、周波数特性に大きな凸凹を造ってしまいます。

この事はスピーカーとしては致命的欠陥で、耳で確認できる歪の中でも最悪と言っても言い過ぎでは無いでしょう。

そこで吸音材が登場する訳ですが、沢山入れれば歪も大きく軽減しますが、同時に開口部からの低域の音圧も下げてしまい、最悪はバックロードホーンの意味を為さなくなってしまいます。

バックロードホーンの場合、吸音材の量は必要最低限で、しかも一番背圧のかかるスピーカーユニットの背面の空気室に適量入れるのが最適と言う事が周波数特性を計測しながらの実験で得られた結果です。

D-10バッキーの様に空気室の奥行きが足らず、スピーカーユニットの背面に吸音材が入れられない場合は、バスレフ型と同様に空気室背面で反射して振動板を通過して前面に出てしまう事で歪を作る要因となります。

また空気室内で起こる定在波の影響は、前後及び上下のみ強い傾向で左右の壁では設置・未設置に関わらず試聴や周波数特性には全くと言うほど影響は出ませんでした。

これは、音源(振動板)からの距離の違いによるもので、左右同じ距離であれば上手く干渉しあい、定在波を作る要素としての影響が少ないのではないかと推測されます。

一部音道途中に吸音材を設置している物がありますが、中高音を減衰させる働きは顕著ですが、同時に開口部からの低域の音圧も下げてしまう傾向が強いので、最悪の場合の救済策と考えた方が良さそうです。

これは音道内でホーン抵抗が増える事で、肝心の低音成分まで通りにくくさせているのではないかと推測されます。

私の考えでは空気室内では高域寄りの中音成分まで吸音させ、低域寄りの中音成分は開口部まで導き、そこで吸音させる方がチューニングも容易で音圧も稼げ効率も良さそうな気がしています。

また開口部で起こりやすい定在波の抑制にも繋がりますのでお勧めです。

これは私がサックス型のバックロードホーンに拘る理由の一つでもあります。


バスレフ型とバックロードホーン型で吸音材の使い方の違いを説明してきましたが、低音を増幅する原理も違えば吸音材の使い方も大きく違います。

こんな事からでも動作原理が判って頂ければ、お気に入りの1セットを選ぶ参考になるのではないでしょうか?


吸音材について面白いHPを発見しました。

吸音材の材質についても詳しく解説しています。

一部、ダブりや見解の相違がありますが、一読頂けると参考になると思います。

「吸音材の使い方」https://www.xperience.jp/news/20210730/