大口径(20cm越)バックロードホーンに関する考察


まず、バックロードホーンについてその原理をおさらいしておきましょう。

「様々な疑問点」内の「※バックロードホーンの原理」で説明した通り、バックロードホーンは本来であれば再生不可能な低域を、限られた空間とその出口の細さで拾い出し(振動板にロードをかける)、ホーンの増幅効果で大きな音に変えて放出する仕組みのエンクロージャーです。

ホーンと言ってまず思い当たるのは、スイスの民族楽器であるアルペンホルンだと思います。

一般的なサイズは全長約2.4 m(8 feet)、大きい物は4~5メートルに及ぶものもある様です。

元来は、羊の群れを呼び集めたり、山から山へ呼び交わすのに用い、また19世紀まではカトリック教会の夕べの祈りの合図など信号として使われたとの事で、山々に届く大きな音を作りだすためにはこの長さが必要だった様です。

バックロードホーンはこの原理を利用し、2mを超える長さのホーンを上手く折りたたんで箱に納めたエンクロージャーなのです。


本題に戻ります。

今までに造った全てのミドルサイズ以上のバックロードホーンは、実験の結果音道長が2m越で無いとスピーカーユニットの持つ最低共振周波数(F0)より低い周波数を満足いくレベルまで拡大する事が出来ない事が度重なる試作で判っています。

では、「低域特性に有利な大口径(20cmクラス)のスピーカーユニットを使えば、もっと簡単に低域拡大が出来るのでは?」と言う疑問が湧いてきます。

そこでフォステックスでのスピーカユニットの最高峰、「FE208EΣ20cm」を研究してみたいと思います。


FE208EΣ20cmフルレンジ

最低共振周波数(F0)42Hz / 再生周波数帯域 F0~14kHz

メーカー推奨のバックロードホーンの音道長は一般的なアルペンホルンと同じ約2.4 m

エンクロージャのサイズ 高さ1118mm 幅372mm 奥行520mm 板厚18mm 3×6合板6枚使用(L/R1セット)

3×6合板 一番軽いシナランバーコア合板1枚 11kg越 1本のエンクロージャーの重量は30kg超え。

安価なラワン合板で1枚7000円程度ですのでL/R1セットで材木だけで42000円 FE208EΣの価格は1本40700円なので、1セット造るのに12万円以上になります。

更に高域が14kHzと言う事なので、スーパーツイーターの追加は必須で、安価な「T90A」でも1本36300円。

全てを合計すると30万円を軽く超える金額になります。


ではそこから得られる音はどんなものなのでしょう?

これは実際に聞いた事が無いので推測でしかありませんが、取説に記載されている周波数特性をユニット単体とメーカー推奨のエンクロージャーに納めた時のグラフを見比べると、低域が僅かに拡大されていますが、驚くほどの拡大には至っていません。

参考 https://www.fostex.jp/wp/wp-content/uploads/2015/04/FE208ESigma_m.pdf


以上の事から、皆様はこのセットを造る、又は買おうと思いますでしょうか?

実際にオークション等に出品されているショートレンジ音道の短い)の口径20cmクラスのバックロードホーンは、メーカー推奨のエンクロージャーには遠く及ばない事はどなたにでも想像はつくはずです。

実際に聴いている音はスピーカーユニットその物の音で、エンクロージャーはバックロードホーンの役目を全く果たしていない無駄な飾りと言っても過言では無いと思います。

それでもデキが良ければスピーカーユニットの発する音と同位相の音が開口部から放出され、あたかも低域の音圧が増えた様に聞こえますが、ホーン効果による低域の拡大はほとんどされていません。

デキが悪ければ、逆位相によりスピーカーユニットその物の音を消してしまう場合も少なからず起こるでしょう。

私が口径20cmクラスのバックロードホーンを造らないのは、ユニットその物でかなり低域の再生限界(F0)が下がる為、デキの悪いエンクロージャーでもそれなりの音が出るからです。

また逆に高域は苦手で、高価なスーパーツイーターを追加する必要性が出ています。

「安価に高音質を楽しむ」と言う私自身のバックロードホーン造りのコンセプトから大きく外れてしま事になるので造らない訳です。

何方も低音の効いたスピーカを求めようとする気持ちは判りますが、バックロードホーンの場合は安易にスピーカー口径が大きければ良い低音が出ると言った思い違いは正した方が賢明かと感じます。