バックロードホーンのは何故エンクロージャーの軽量化が可能なのか?

まずスピーカーエンクロージャーに重量級が存在する理由を解説します。


スピーカーユニットは音声信号により振動板を細かく動かし、空気にその振動を伝える事によって音として再現する構造の物です。

その際、スピーカーユニットの前面と逆相の音が背面からも排出されます。

もしエンクロージャーがなければその音は打ち消し合い、特に低域の音はほとんど消えてしまう現象が起こります。

そこで外に音を出さない様にするスピーカー構造が必要な訳です。

背面から出る音を完全に封じ込めるエンクロージャーは密閉型、箱に穴を開け正面から出る音と同相になる様に計算されたポートを持った物をバスレフ型と呼び、現在でもエンクロージャーの主流となっています。

いずれの場合もスピーカーユニットの背面から出た圧力は(以下、背圧と呼ぶ)ある程度の板厚が無ければ異常振動を起こし、異音や音を濁らす原因となってしまいます。

ところが世の中には例外と言う存在もあるのです。

「アルテックA7」と聞くと懐かしく思う方も少なく無いと思いますが、このスピーカーはフロントホーンでありながら典型的な位相反転型(バスレフ型)なのです。

しかも例外と紹介した理由は、エンクロージャーの厚さを細かく検証し、箱鳴りを利用して低域の増大を図っています。

あくまでも計測を繰り返して得られた板厚なので、素人が真似をしようとしても無理な話です。

音出し中にエンクロージャー自体が振動している物は、あまりデキの良いスピーカーとは言えないと結論付けても間違いでは無さそうです。


もう一つの理由は、物理学で良く聞く「作用・反作用の法則」です。

スピーカユニットの振動板が前に空気を押し出す向きに動いた場合、スピーカーは逆に後ろに押し返される反作用が働き、これが原因で特に低域の音圧が減ってしまう現象が発生します。


そして最後に大型のウーハーユニットを取り付ける場合は、その重量に負けないだけの強度が必要になり、その結果板厚を厚くする必要性が生まれます。


スピーカーが重い方が良いよ言う主な理由はこんな所でしょうか。


では、バックロードホンの場合はどうでしょうか?


まず背圧の問題ですが、バックロードホーンの場合は、背圧を貯める必要性がほとんどなく、構造を支えるだけの強度があれば十分であると考えられます。

「作用・反作用の法則」に関しては、小口径のスピーカーユニットでは反作用の影響を受けるほどの応力は発生しないでしょう。

但し20cmクラスになると、多少の影響は出てくる可能性がありますので、板厚を増やしたりウエート等で重量を増やす効果は有るかも知れません。

そして大型のウーハーユニットを取り付ける代わりに、ホーン構造を持った物がバックロードホーンですので、板厚を厚くする必要性もなくなります。


実際MDFが入手困難になった時に、構造用合板を使う事で軽量化が出来ましたが、10cm~16cm口径のスピーカーユニットでは試聴や周波数特性の計測、90dBの爆音テストでも全くと言うほど変化は有りませんでした。


書籍等で評論家が〇〇kgのウエートを載せると「低音が締まる」とか「迫力が増す」等の論評を載せていますが、周波数特性計測等の裏付けが無い以上、どこまで信用できるかは不明です。

またスピーカーの設置環境も未公開で有るため、信憑性は疑われます。

ちなみに床面がフカフカの絨毯や畳であった場合は、スピーカーの座りの悪さが影響し、ウエートを載せる事で設置環境が改善し低域の増強に繋がる可能性は十分考えられる事です。


「バックロードホーンのは何故エンクロージャーの軽量化が可能なのか?」と言うタイトルで説明してきましたが、ご理解頂けましたでしょうか?

かつて長岡氏は重量級のバックロードホーンを推奨していましたが、生前の長岡氏は専用のオーディオルーム(方舟)を造って爆音で試聴していたと言うのです。

しかも当時のFE168Σ(出力80W)をフルパワーでドライブさせるとしたら堅牢性や重厚なエンクロージャーは必要だったのかも知れません。

実際に一般家庭でこれ程の音を出したら、近隣からの苦情は覚悟しなくてはいけません。

ちなみに5W程度の出力でも十分に大きな音を出す事が可能なので、常識的には必要以上の重量は必要が無いと感じます。