18.運命論

誰もが、運に恵まれたいと思っています。

日常生活の中で、うまくトラブルを避け、チャンスを見逃さないで、

運良く生きていきたいと思っています。

運とは、確率のバラツキが、自分の都合のほうに、

どのように傾いているかということです。

宝くじの1等のように、何万分の一以下の低い確率のものが、

自分に起こるなら、それは奇跡(奇絶)です。

何百分の一から、何千分の一の確率のものが、

自分に起こるなら、それは偶然と言えます。

何分の一から、何十分の一の確率のものが、

自分に起こるなら、それは成り行きと言えます。

そして、起こった出来事が、二分の一以上に高い確率なら、

それは必然に近いと言えます。

人の力では、奇跡や偶然を、引き起こすことは不可能です。

しかし、奇跡と言えども、宝くじは、買わなければ当たりません。

それは、多少なりとも、人の意識によって、運を自分のほうに傾けたことと言えます。

高い確率のものなら、人の意識に、大きく影響されます。

運のいい人間とは、どのような者を言うのでしょうか?

(1)対応の判断が、適切である。

(2)対応行動に、ミスがない。

(3)対応の達成に、無駄がない。

以上の三点によって、問題への対応が、効率良く行なわれるため、

確率のバラツキを、自分の都合のほうに、自然に傾けれる人のことです。

ここで言う、確率のバラツキとは、何でしょうか?

たとえば、サイコロを6回振るとして、1の目の出る確率は、六分の一ですが、

1回目に出るか、6回目目に出るか、それとも出ないか、繰り返し出るかはわかりません。

機会が少なければ、、確率はバラつくということです。

6回振るのを一組として、その組をかなり多く繰り返せば、

1の目の、1回目から6回目に出る率は、同じになっていき、

そして、全体の確率は、六分の一に限りなく近づいていきます。

機会が増えれば、バラツキは減ります。

しかし、日常においては、機会は多くて数度であり、

バラツキは多いのが、通常です。

つぎに、1の目を出そうとするのでなく、偶数を出すことにしたら、

どうでしょうか。

確率は二分の一となり、機会が少なくても、バラツキは減ります。

これが、対応を効率良く行なって、ものごとの確率を高くしてやることにより、

そのバラツキを、自分のほうに傾けれるということなのです。

運命とは、切り開くものです。

幸運を呼び寄せ、不幸を遠ざける。

幸運は逃さないように、不幸は引きずらないようにする。

運という確率のバラツキに、冷静に対処していくことが必要です。

運の良い者とは、日常生活において、起こった問題や起ころうとしている問題に、

効率良く、対応出来る者であると、述べました。

問題の対応には、つぎの六つの条件が必要です。

①気力・体力があること。

②技術・知識があること。

③時間があること。

④場所があること。

⑤道具・設備があること。

⑥資源(材料、燃料)があること。

これらが十分に満たされているならば、

人は、ほとんど苦もなく、ものごとに対応していけれるのですが、

いくつかの条件に無理があると、人によってそれぞれ、対応に差が出ます。

問題への対応は、上で述べたように、以下の三要素に分けれます。

(1)対応の判断

(2)対応の行動

(3)対応の達成

上の条件が十分でない場合、それぞれの行動は、どのような影響を受けるかを、

つぎに見てみます。

①気力・体力がないと、人は面倒くさがり、ものごとを楽なほうに、

自分の都合のいい方に判断してしまいます。

また、面倒くさがって、手を抜いたり、確認を怠ったりして、ミスをします。

そして、対応の持続力がなく、達成が中途半端になります。

②技術・知識がないと、人は適当な推測をして、誤った判断をしてしまいます。

また、短絡的にものごとを見てしまい、目立つものに気をとられます。

想像や思い込みで行動し、ミスをします。

対応に論理性がなく、達成までが紆余曲折してしまいます。

③時間がないと、人はあせります。

あせりは、論理の組み立てが待てず、カンに頼り、判断を誤らせます。

対応の順序を間違えたり、途中を抜いてしまったりして、ミスをします。

対応にあわて、中途半端な達成となってしまいます。

④場所がなければ、安定した状態で思考できず、判断をあやまります。

行動範囲が狭められ、不自由さからイラつき、ミスをします。

行動に無理が生じ、達成に時間がかかります。

⑤道具・設備や⑥資源がなければ、代用品を考えなければならず、

判断が複雑化してしまいます。

代用を用いる不自由さからイラつき、ミスをします。

また、代用品を用いた無理が生じ、達成に時間がかかります。

以上の条件をまとめると、人に影響をあたえる四つの要素に言いかえれます。

①面倒

②思い込み

③あせり

④不安定(不自由)

運の良い者は、その四つの影響をはねのけて、

次の三つの行動をとることが出来るわけです。

(1)判断が、適切である。

(2)行動に、ミスがない。

(3)達成に、無駄がない。

これらは、上にあげた四つの要素に、影響されない力を、

その人が、持っているということです。

それぞれの要素に、その者は、どう対処していくのでしょうか?

①気力、体力があっても、面倒だと思ってしまうのは、

その行動に興味を持っていないからです。

その行動をすることによって、どのような結果が導き出されるか、

全体に、どのように展開していくかを、考慮すれば、

その行動の意味を知り、必要性を知ります。

その行動に興味を持ちます。

興味を持てば、気力、体力が多少、失われていても、

その行動に、意識を向けれるわけです。

全体から、その行動を考える、システム思考が必要とされます。

②ものごとの論理を、すべて把握することは、不可能です。

人は、いくつかの実際の現象や経験から、因果関係を類推します。

その推理が間違っていることに気づかないで、さらに、論理を組み立てて、

いってしまうことが、思い込みです。

その推理が、たえず間違っているのではないか、

ほかの現象と、論理矛盾がないかを考慮して、

思い込みを防ぎます。

論理は確率であることを前提とした、論理思考が必要とされます。

③実際に時間がなくて、あせるということよりも、

時間がないという脅迫観念から、あせるということのほうが多くあります。

強迫観念とは、不快苦回避の欲求が、想像によって引き起こされることです。

想像であるため、過去に起こった最悪の状況が根拠になり、

必要以上に、おびえてしまいます。

実際に対処できない不安ですが、意識は解消しようと、あがき、あせり、

不安を、増幅させていってしまいます。

世の中には、解決できない問題もあること、

そして、巡りあわせの宿縁もあり、ある程度、あきらめも必要です。

あきらめるとは、自分の欲求や感情を抑制することであり、

自分に対しても、社会に対しても、バランス感覚が求められます。

バランス思考が、必要とされます。

④不安定感や、不自由感を感じるのは、状況に秩序性がないからです。

状況が複雑化し、混乱しているため、ものごとが因果に従うのを邪魔し、

また、その因果を見えにくくしてしまっています。

状況を整理し、単純化するシンプル思考が、必要とされます。

ここで述べた、論理思考、システム思考、バランス思考、シンプル思考は、

【5.秩序思考】、【7.環境論】において、

くわしく述べました。

そして、【9.対人論】において、

それらの思考を、生きるスタイルとする『哲士』という観念をあげました。

そこでは、以下のように述べました。

幸福とは、「生きる楽しさ、満足、安定である」ことです。

そのために、ものごとの真理を探ろうとし、

問題対応のために、秩序思考を用います。

この行動パターンをとる者を、「哲士」と呼びます。

「哲士」とは、一般には「道理に明るく、すぐれた識見を持った、志のある者」のことを

言います。

運がよければ、生きることが楽しく、満足し、安定しています。

運が良いとは、問題対応が効率が良い(すばやく、適確な)ことでした。

そのためには、自分の制御と、外の環境からの影響を受けない防御が、

必要ということです。

『哲士』は、大きく、次の四つの態度を、行動スタイルとします。

泰然性・・・因果に従い、陰湿を嫌い堂々と、誠意を持って対処する。

つまり、自分の確信する論理にもとづいて行動して、羞じることなく、

その成り行きに任せるという態度です(論理思考)。

裕然性・・・こだわらず、本質をつかみ、先行きを見通す。

自分中心でなく、広い視野から、そして時間軸から、

ものごとを見ようとする態度です(システム思考)。

毅然性・・・冷静に、現状を受け入れ、他人に応じない。

自分や他者の、欲求や感情に左右されず、自然の成り行き(宿縁)に、

従うような、バランス感覚を重視する態度です(バランス思考)。

整然性・・・秩序を重視し、正確に、丁寧に、礼儀正しく努める。

環境を整理整頓し、わかりやすく明確にしようとする態度です

(シンプル思考)。

【7.環境論】において、気流という概念を述べました。

気流の気とは、いわゆるポテンシャル・エネルギー(位置エネルギー)と呼ばれるものの

考えと同じです

ポテンシャルエネルギーとは、物を高く持ち上げた時、重力によって、

下に落ちようとしますが、その落ちようとする力のことです。

それは、物を持ち上げるために必要としたエネルギーと同じ量です。

物質が、他の物質に変化することによって生じるエネルギーとは違い、

ポテンシャルエネルギーは、基本的に物質の変化が起こらないものです。

どんなエネルギーも、分散、平衡化しようとします。

エントロピー(無秩序の度合い)は、たえず増大しようとしているわけです。

高く持ち上げられた物も、いつかは、下に落ちてくるわけです。

そのときのエネルギーの流れが、気流となるわけです。

運良く生きるためには、その時の状況、環境における、気流を読むことが重要です。

自然のエネルギーは、地球の物理的運動や科学的反応によって引き起こされますが、

その他のエネルギーは、生物の生きようとするパワー、

そして人の欲望、社会の欲望によって引き起こされます。

エネルギーが一ヶ所に集中してくると、何らかの兆候があらわれます。

そのエネルギーの動向を、いち早く適確に感じ取れたならば、

運を自分のほうに向けることが出来ます。

そのためにも、前頁で述べた、こだわらない冷静な態度が必要です。

最後に、運命論としてのまとめを述べます。

運は、確率のバラツキだと述べました。

たとえば、車の運転が慎重な人は、乱暴な人に比べて、交通事故を起こしにくい。

これは、確率です。

しかし、慎重な人でも事故にあうし、乱暴な人でも、ほとんど事故にあわない人もいます。

これが、確率のバラツキです。

バラツキは偶然であり、防ぐことは出来ません。

しかし、確率自体を下げる、または上げることによって、

バラツキの発生率を下げることが出来ます。

慎重な運転でも、事故にあうのなら、運転をしなければ、

さらに、事故にあう機会は減るということです。

しかし、現代社会では通常、車をまったく運転しないことは不自由であるし、

慎重すぎる運転も、社会の流れに合いません。

そこで、事故にあうポイントの確率を下げてやるという方法をとるわけです。

そのためには、状況に、たえず注意を払っている必要があります。

抜け目なく、状況に対応することが、運を良くすることであり、

そのためには、

面倒がらず、思い込まず、あせらず、不安定にならない

ということです。

そして、自分の、他者との、社会の、自然の、大きなエネルギーの流れ(気流)を

読むことも重要です。