問題を解決するには、一人で考えるよりも、複数の人間で考えた方が有利です。
(1)視野が広く、全体を把握しやすい。
(2)知識や記憶量が多くなる。
(3)多くのデータを整理しやすい。
(4)思い込みや、論理の飛躍が防止できる。
(5)創造的アイデアが多く出される。
以上の利点があげられます。
複数の者が集まって、それぞれの意見を発言し、議論し、まとめられ、
そのことで現状が把握され、分析され、問題が解決されます。
議論とは、自分の意見の確かさを論じる、
他人の意見の不確かさを論じる、
自分の意見の不確かさを修正する、
他人の意見の確かさを受け入れる、
自分と他人の意見の調和(妥協点)を見出す、
以上のことを行ない、互いに、自分および他人を納得させることです。
人を納得させるためには、正しさの確率の高いデータを用いた、
論理を組み立てることが理想です。
しかし、一般に、論理の組み立てにおいては、
Ⅰ.根拠にしているデータが、事実の一部分しか示してない。
(現状の全体が把握されておらず、一部で全部を語ろうとしている)
Ⅱ.根拠にしているデータの一部分のみが、事実である。
(一般論的、抽象的で、現状を絞りきれていない)
Ⅲ.根拠にしているデータの一部分が、事実の一部分である。
(思い込みや偏見に満ちた意見である))
Ⅳ.根拠にしているデータが、まったく事実ではない。
(単なる想像である)
Ⅴ.根拠にしているデータが、事実そのものである。
(論理の、正しい根拠となる)
以上のような場合があります。
完全ではない論理が、複数の人の前に出されることによって、
論じられ、修正され、互いに納得できるよう、まとめられるのが、議論の効果です。
議論として、上にあげた基本的な原理が、まず第一に守られなければなりません。
それらが守れらない理由を、次にあげていきます。
議論が正しく行なわれることへの、障害となるのは、
(1)時間が足らない。
(2)参加者の立場が対等でない。
(3)議論の技術が乏しい。
以上の3点です。
(1)時間がなければ、議論は荒く大雑把になり、
納得より、妥協によってのみ意見がまとまる、
またはまとまらないのが結果です。
時間がない場合は、事前に問題点を絞っておくことが必要です。
また参加者の人数と、議論の時間も考慮しておく必要があります。
10人で一時間では、1人6分です。
内容にもよりますが、まともな議論をしたいのなら、
1人20分位として、10人なら3時間程度は必要となります。
(2)立場が対等でなく、参加者に権力者がいると、
議論は、その人の主観に左右されます。
その人の論理に無理があっても、ほとんどの者がそれを指摘できず、
逆に、同調する者もあらわれて、結局、議論は成り立ちません。
これを防ぐには、やはり権力者自身が、その弊害を十分承知して、
議論の場では、公平に論じれるように振舞うしか方法はありません。
議論によって、参加者が感情的になってしまった場合も、同じです。
感情のパワーが、権力のパワーと同じように、論理を追いやり、
議論を成立させません。
(3)議論の技術がないために、前ページで述べた、いくつかの論理の矛盾に、
気づかず、また正しく指摘出来ないため、そのような意見に振り回されます。
議論の技術は、発言、質問、応答、総括の技術に分けられます。
それぞれの技術論は、次ページで述べていきます。
技術論に入る前に、言葉というものの持つ性質について述べておきます。
言葉というものは、一次元的なものです。
一度に、一つの論理しか伝えられません。
その論理の構造が、複合的であっても、全体を一度に伝えられず、
順番に、一つずつ説明していくわけですが、言葉だけで把握させるのには、
無理があります。
そこで、図や表を用いて、二次元的に表現する方法がとられるわけです。
そして言葉は、その意味が正しく定義されて使われるのが理想です。
しかし現実には、多くの言葉をあいまいに使わざるおえません。
私たちは常識で、ほとんどの言葉を、暗黙の了解の上、共通の意味として使います。
もし、使用した言葉が、論理上、誤解を生みそうであるなら、
わかりやすく限定してやるのが、会話の礼儀です。
議論の技術は、発言、質問、応答、総括の技術から成ります。
これらは、①順序、②範囲、③論法の、三つのポイントに分けれます。
(1)発言の技術
①順序
発言のはじめに、タイトルを言って、全体の枠組みを決めておくのが、
議論の脱線を抑えます。
発言の内容は、状況、問題点、分析・推理内容、対策・結論と、
順番に述べていきます。
状況や問題点が、すでに議論の統一テーマとして掲げられているときは、
発言は、分析・推理・対策・結論だけとなります。
決して、結論を先に言わないことです。
結論を先に言うと、他人は、その結論に対して、疑問や批判や同意を
思い浮かべてしまい、その経緯をしっかりと聞いてくれなくなります。
②範囲
もっとも難しいのは、状況や問題点がぼやけており、
そのため、分析・推理が広範囲に及ぶ時です。
それらを全部語るわけにはいかないので、
重要と思われる箇所をピクアップして述べることになりますが、
そこを偏見ととられやすく、指摘されます。
また、分析・推理の内容をあまりに省略過ぎると、
結論に対する信憑性が薄くなってしまいます。
これらを防ぐには、限度にもよりますが、
やはり問題点を細かく分けて絞り、そのいくつかを、
一つずつ説明していくしかありません。
③論法
分析・推理は、論理に基づきます。
論理は因果の確率です。
それらは、簡単に証明できるものは少なく、
その参加者の常識に頼らざるおえません。
そこがまた、指摘をされやすい弱点となります。
それを防ぐためには、出来る限り事実にもとづいて話し、
抽象的な言葉を用いない、たとえ話を用いないようにします。
論理は明確な三段論法を使います。
「AはBに含まれる、BはCに含まれる、ゆえにAはCに含まれる」
「AはBとCからなるとき、AからBを引けばCとなる」
「AはBになる、BはCになる、ゆえにAはCになる」
(2)質問の技術
①順序
第一に、何に対しての質問かを、明確にします。
状況に対してならば、事実と状況説明に、大きなギャップはないか?
問題点に対してならば、状況において不都合な点が、正しく把握されているか?
分析・推理に対してならば、原因から問題点までの論理に、無理はないか?
対策、結論に対してならば、そこまでの誘導に無理はないか、効果はあるか?
次に、一つの質問に対しての答えを得てから、次の質問をするようにします。
いくつかの質問を同時にすると、答えがあいまいにされたり、忘れられたりします。
また、他の者が質問をしている場合は、それに関連する質問を優先し、
すじみちが脱線していかないようにします。
そして発言者の意見が、十分出尽くせるように誘導します。
②範囲
第二に、範囲を限定して、質問します。
つまり、発言者の言った内容の範囲内で、質問すると言うことです。
この時点ではまだ、内容をはみ出すような意見は述べません。
また発言者の答えを予想しての、先走った質問や、
発言者の内容を、この時点でまとめてしまうような質問も避けるべきです。
③論法
発言者は、全てが完全な状況把握、論理で語っているわけではありません。
しかしあいまいな事実で、ものごとを論じていくわけにもいきません。
その状況が、現時点で可能な限りの把握であるとしたら、
それを承知で質問しなければいけません。
完璧主義の過剰な追求は避けるべきです。
だが、発言者の内容が、根本的に間違っており、それが明白な場合は、
それをはっきりと言わなければなりません。
相手に遠慮して、あやふやな質問をすると、議論をさらにこじらせてしまいます。
(3)応答
①順序
出された質問に対しては、順に一つずつ答えていくのが基本です。
まず、質問を要約して繰り返し、誤解のないようにします。
②範囲
発言では、全体を話すために、重要ヶ所のみをピックアップしましたが、
質問の答えには、出来る限りくわしく話します。
しかし、質問の内容を大きくはみ出してしまわないように、
さらなる質問を待つようにします。
③論法
質問の論理におかしいところや疑問があれば、逆に質問することになります。
この場合は、質問者、応答者が、それぞれ入れ替わることになります。
また、自分の発言の論理の間違いが指摘された場合は、
修正、保留、放棄の3パターンの処置があります。
その場で修正できることは、すぐに修正し、
状況の再確認で修正できそうなときは、保留とします。
修正不可なら、潔く発言を撤回します。
つまり、それらどの処置をとるかは、その発言に進展性があるかどうかであり、
自分の意見に、感情だけでこだわり続けないことです。
これは、質問者にも当てはまります。
(4)総括
①順序
発言者の意見、質問、応答をきっかけにして、
次に、参加者がそれぞれの、自分の意見を述べます。
その場合は、まず前の発言に対して、賛成(同意)か反対(疑問)か、
または別かを宣言します。
そして、いくつかの質問応答をへて、それぞれの意見が吟味されます。
議長は、問題点をもう一度明確にし、
結論として、全員の意見を調整します。
放棄されたものは省き、
保留とされたものは、参考意見として考慮します。
そして、修正されたもののみをまとめます。
②範囲
問題解決が、議論の目的です。
解決のめどのついたものから、まとめ、
対策の全体に矛盾が生じないようにします。
現状では、解決が無理と判断されたものについては、
何らかの状況の変化を待って、次の課題とします。
③論法
問題の解決案が出たとしても、それが現実に有効であるかはわかりません。
現実に有効でなかったならば、その議論は全て無意味だったことになります。
そのためにも、議論は、問題の解決に向けて、
論理的、システム的、バランス的、シンプル的でなければなりません。
有効性が100%でなくても、出来る限りの効果があるように
また、次回への足がかりになるように、議論をまとめます。
議長は、先に述べた三つの、議論の障害となる要素、
「時間が足りない」「参加者の立場が違う」「議論の技術がない」
これらによって歪められた内容を、出来る限り修正しなければなりません。
すなわち、議論の結果がどれだけの有効性を生むかは、
議長の責任が大となります。
議長がいない、または議長に、議論の進行を修正する能力・知識・意欲がない
場合は、たいてい議論の行くえは運任せとなってしまいます。
参加者が、それぞれの欲求や感情を捨てて、問題解決に努めるしか、
議論を有効にする方法はありません。