20.議論術

問題を解決するには、一人で考えるよりも、複数の人間で考えた方が有利です。

(1)視野が広く、全体を把握しやすい。

(2)知識や記憶量が多くなる。

(3)多くのデータを整理しやすい。

(4)思い込みや、論理の飛躍が防止できる。

(5)創造的アイデアが多く出される。

以上の利点があげられます。

複数の者が集まって、それぞれの意見を発言し、議論し、まとめられ、

そのことで現状が把握され、分析され、問題が解決されます。

議論とは、自分の意見の確かさを論じる、

他人の意見の不確かさを論じる、

自分の意見の不確かさを修正する、

他人の意見の確かさを受け入れる、

自分と他人の意見の調和(妥協点)を見出す、

以上のことを行ない、互いに、自分および他人を納得させることです。

人を納得させるためには、正しさの確率の高いデータを用いた、

論理を組み立てることが理想です。

しかし、一般に、論理の組み立てにおいては、

Ⅰ.根拠にしているデータが、事実の一部分しか示してない。

(現状の全体が把握されておらず、一部で全部を語ろうとしている)

Ⅱ.根拠にしているデータの一部分のみが、事実である。

(一般論的、抽象的で、現状を絞りきれていない)

Ⅲ.根拠にしているデータの一部分が、事実の一部分である。

(思い込みや偏見に満ちた意見である))

Ⅳ.根拠にしているデータが、まったく事実ではない。

(単なる想像である)

Ⅴ.根拠にしているデータが、事実そのものである。

(論理の、正しい根拠となる)

以上のような場合があります。

完全ではない論理が、複数の人の前に出されることによって、

論じられ、修正され、互いに納得できるよう、まとめられるのが、議論の効果です。

議論として、上にあげた基本的な原理が、まず第一に守られなければなりません。

それらが守れらない理由を、次にあげていきます。

議論が正しく行なわれることへの、障害となるのは、

(1)時間が足らない。

(2)参加者の立場が対等でない。

(3)議論の技術が乏しい。

以上の3点です。

(1)時間がなければ、議論は荒く大雑把になり、

納得より、妥協によってのみ意見がまとまる、

またはまとまらないのが結果です。

時間がない場合は、事前に問題点を絞っておくことが必要です。

また参加者の人数と、議論の時間も考慮しておく必要があります。

10人で一時間では、1人6分です。

内容にもよりますが、まともな議論をしたいのなら、

1人20分位として、10人なら3時間程度は必要となります。

(2)立場が対等でなく、参加者に権力者がいると、

議論は、その人の主観に左右されます。

その人の論理に無理があっても、ほとんどの者がそれを指摘できず、

逆に、同調する者もあらわれて、結局、議論は成り立ちません。

これを防ぐには、やはり権力者自身が、その弊害を十分承知して、

議論の場では、公平に論じれるように振舞うしか方法はありません。

議論によって、参加者が感情的になってしまった場合も、同じです。

感情のパワーが、権力のパワーと同じように、論理を追いやり、

議論を成立させません。

(3)議論の技術がないために、前ページで述べた、いくつかの論理の矛盾に、

気づかず、また正しく指摘出来ないため、そのような意見に振り回されます。

議論の技術は、発言、質問、応答、総括の技術に分けられます。

それぞれの技術論は、次ページで述べていきます。

技術論に入る前に、言葉というものの持つ性質について述べておきます。

言葉というものは、一次元的なものです。

一度に、一つの論理しか伝えられません。

その論理の構造が、複合的であっても、全体を一度に伝えられず、

順番に、一つずつ説明していくわけですが、言葉だけで把握させるのには、

無理があります。

そこで、図や表を用いて、二次元的に表現する方法がとられるわけです。

そして言葉は、その意味が正しく定義されて使われるのが理想です。

しかし現実には、多くの言葉をあいまいに使わざるおえません。

私たちは常識で、ほとんどの言葉を、暗黙の了解の上、共通の意味として使います。

もし、使用した言葉が、論理上、誤解を生みそうであるなら、

わかりやすく限定してやるのが、会話の礼儀です。

議論の技術は、発言、質問、応答、総括の技術から成ります。

これらは、①順序、②範囲、③論法の、三つのポイントに分けれます。

(1)発言の技術

①順序

発言のはじめに、タイトルを言って、全体の枠組みを決めておくのが、

議論の脱線を抑えます。

発言の内容は、状況、問題点、分析・推理内容、対策・結論と、

順番に述べていきます。

状況や問題点が、すでに議論の統一テーマとして掲げられているときは、

発言は、分析・推理・対策・結論だけとなります。

決して、結論を先に言わないことです。

結論を先に言うと、他人は、その結論に対して、疑問や批判や同意を

思い浮かべてしまい、その経緯をしっかりと聞いてくれなくなります。

②範囲

もっとも難しいのは、状況や問題点がぼやけており、

そのため、分析・推理が広範囲に及ぶ時です。

それらを全部語るわけにはいかないので、

重要と思われる箇所をピクアップして述べることになりますが、

そこを偏見ととられやすく、指摘されます。

また、分析・推理の内容をあまりに省略過ぎると、

結論に対する信憑性が薄くなってしまいます。

これらを防ぐには、限度にもよりますが、

やはり問題点を細かく分けて絞り、そのいくつかを、

一つずつ説明していくしかありません。

③論法

分析・推理は、論理に基づきます。

論理は因果の確率です。

それらは、簡単に証明できるものは少なく、

その参加者の常識に頼らざるおえません。

そこがまた、指摘をされやすい弱点となります。

それを防ぐためには、出来る限り事実にもとづいて話し、

抽象的な言葉を用いない、たとえ話を用いないようにします。

論理は明確な三段論法を使います。

「AはBに含まれる、BはCに含まれる、ゆえにAはCに含まれる」

「AはBとCからなるとき、AからBを引けばCとなる」

「AはBになる、BはCになる、ゆえにAはCになる」

(2)質問の技術

①順序

第一に、何に対しての質問かを、明確にします。

状況に対してならば、事実と状況説明に、大きなギャップはないか?

問題点に対してならば、状況において不都合な点が、正しく把握されているか?

分析・推理に対してならば、原因から問題点までの論理に、無理はないか?

対策、結論に対してならば、そこまでの誘導に無理はないか、効果はあるか?

次に、一つの質問に対しての答えを得てから、次の質問をするようにします。

いくつかの質問を同時にすると、答えがあいまいにされたり、忘れられたりします。

また、他の者が質問をしている場合は、それに関連する質問を優先し、

すじみちが脱線していかないようにします。

そして発言者の意見が、十分出尽くせるように誘導します。

②範囲

第二に、範囲を限定して、質問します。

つまり、発言者の言った内容の範囲内で、質問すると言うことです。

この時点ではまだ、内容をはみ出すような意見は述べません。

また発言者の答えを予想しての、先走った質問や、

発言者の内容を、この時点でまとめてしまうような質問も避けるべきです。

③論法

発言者は、全てが完全な状況把握、論理で語っているわけではありません。

しかしあいまいな事実で、ものごとを論じていくわけにもいきません。

その状況が、現時点で可能な限りの把握であるとしたら、

それを承知で質問しなければいけません。

完璧主義の過剰な追求は避けるべきです。

だが、発言者の内容が、根本的に間違っており、それが明白な場合は、

それをはっきりと言わなければなりません。

相手に遠慮して、あやふやな質問をすると、議論をさらにこじらせてしまいます。

(3)応答

①順序

出された質問に対しては、順に一つずつ答えていくのが基本です。

まず、質問を要約して繰り返し、誤解のないようにします。

②範囲

発言では、全体を話すために、重要ヶ所のみをピックアップしましたが、

質問の答えには、出来る限りくわしく話します。

しかし、質問の内容を大きくはみ出してしまわないように、

さらなる質問を待つようにします。

③論法

質問の論理におかしいところや疑問があれば、逆に質問することになります。

この場合は、質問者、応答者が、それぞれ入れ替わることになります。

また、自分の発言の論理の間違いが指摘された場合は、

修正、保留、放棄の3パターンの処置があります。

その場で修正できることは、すぐに修正し、

状況の再確認で修正できそうなときは、保留とします。

修正不可なら、潔く発言を撤回します。

つまり、それらどの処置をとるかは、その発言に進展性があるかどうかであり、

自分の意見に、感情だけでこだわり続けないことです。

これは、質問者にも当てはまります。

(4)総括

①順序

発言者の意見、質問、応答をきっかけにして、

次に、参加者がそれぞれの、自分の意見を述べます。

その場合は、まず前の発言に対して、賛成(同意)か反対(疑問)か、

または別かを宣言します。

そして、いくつかの質問応答をへて、それぞれの意見が吟味されます。

議長は、問題点をもう一度明確にし、

結論として、全員の意見を調整します。

放棄されたものは省き、

保留とされたものは、参考意見として考慮します。

そして、修正されたもののみをまとめます。

②範囲

問題解決が、議論の目的です。

解決のめどのついたものから、まとめ、

対策の全体に矛盾が生じないようにします。

現状では、解決が無理と判断されたものについては、

何らかの状況の変化を待って、次の課題とします。

③論法

問題の解決案が出たとしても、それが現実に有効であるかはわかりません。

現実に有効でなかったならば、その議論は全て無意味だったことになります。

そのためにも、議論は、問題の解決に向けて、

論理的、システム的、バランス的、シンプル的でなければなりません。

有効性が100%でなくても、出来る限りの効果があるように

また、次回への足がかりになるように、議論をまとめます。

議長は、先に述べた三つの、議論の障害となる要素、

「時間が足りない」「参加者の立場が違う」「議論の技術がない」

これらによって歪められた内容を、出来る限り修正しなければなりません。

すなわち、議論の結果がどれだけの有効性を生むかは、

議長の責任が大となります。

議長がいない、または議長に、議論の進行を修正する能力・知識・意欲がない

場合は、たいてい議論の行くえは運任せとなってしまいます。

参加者が、それぞれの欲求や感情を捨てて、問題解決に努めるしか、

議論を有効にする方法はありません。