21.芸術論

ここで言う芸術とは、その意義が、人の心に影響を与えることにある、

技術のことです。

その技術によって生まれる作品には、

絵画、写真、彫刻、造形、映像、

音楽、演劇、演芸、舞踊、パフォーマンス

詩歌、小説、エッセイ、まんが、CG、

以上のような形態があります。

人の心に影響を与えるとは、脳内の感情野で感情ホルモンを分泌させることです。

【2・意識とは?】で、以下のように述べました。

「感情ホルモン」には、以下の四つがあります。

○「快感ホルモン」は、全身に喜びを与え、充足感で満たします。

●「不快ホルモン」は、全身に不安感を与え、緊張状態にします。

○「興奮ホルモン」は、全身を活性化し、興奮状態にします。

●「慰安ホルモン」は、全身を沈静化し、感受性を強くします。

欲求野で、快楽追求または、不快苦回避の欲求が起こると、

それらの達成の難易度によって、「不快ホルモン」が分泌され、

感情は【不安】となります。

欲求が強いと、さらに「興奮ホルモン」が分泌され、感情は【怒り】となります。

欲求が満されると、または満たされるのが予想されると、「快感ホルモン」が分泌され

感情は【楽しさ】となります。

その満足感が大きいと、さらに「興奮ホルモン」が分泌され、感情は【喜び】となります。

欲求が十分に満たされなかった場合、その欲求をもう一度繰り返すか、

欲求自体を引き下げるように、「慰安ホルモン」が分泌され、感情は【哀しみ】となります。

満たされない感情に、さらに「興奮ホルモン」が分泌されると、感情は【悲しみ】となります

ものごとを認識すると、欲求野が反応します。

そして欲求を達成しようと、感情野が反応します。

それらの影響により、意識野が対応をとろうとします。

芸術作品は、これら心の反応を、作為的に起こさせるものです。

そして、特に感情野においての反応を目的とします。

意識は、これが仮想の反応であることを承知しているので、

感情の変動は、意識下で制御されます。

ゆえに、その変化を、第三者的立場で楽しむことが出来るわけです。

次に、より効果的な影響を与えるための方法を述べます。

感情を引き起こすためには、欲求を引き起こす必要があり、

そのためには、ものごとを、そのように認識させる刺激が必要となります。

欲求や感情が引き起これば、それらは、何らかの形で満たされようとします。

実際に満たされることが不可能なら、代償で満たすことになります。

芸術作品には、上の欲求を作為的に引き起こして、感情を揺り動かすもの、

そして、その代償行為を行なわせ、それにより、ふたたび感情を動かすもの、

二つのタイプがあります。

前者は、絵画や音楽などの感覚的なもの、

後者は、演劇や小説などの経験的なものです。

人の基本的な欲求と、その心理的な代償行為を、以下に述べます。

(1)休養追求(満たしたい)と疲労回避(癒されたい)・・・生存本能による

豊かさ、豪華さ、穏やかさを求める。

代償行為としては、認識したものの代替を用いて、

欲求のおおよその部分を満足させます。

(2)快楽追求(感じたい)と不快回避(避けたい)・・・種存本能による

快さ、可愛らしさ、セクシーさを求める。

代償行為としては、認識したものを、過去の記憶の再構成で、

仮想体験します。

(3)尊敬追求(認められたい)と軽蔑回避(見返したい)・・・存在本能

かっこうよさ、優秀さ、上品さを求める。

代償行為としては、他者と自分を同一の立場とし、劣等感を分散し、

また自分も認められているような錯覚をします。

(4)満足追求(達成したい)と不満回避(手に入れたい)・・・達成欲求

楽しさ、怖さ、賢さを求める。

代償行為としては、他者の達成を、仮想で追体験し、

充足感のみを得ます。

(5)安定追求(完全でありたい)と不安回避(落ち着きたい)・・・秩序欲求

美しさ、シンプルさ、完璧さを求める。

代償行為としては、美しく整った環境の中に自分を置いて、

自分も秩序正しいような錯覚をします。

芸術作品において、欲求を強く引き起こすためには、

①そのものに、誰も思いつかない独特の価値があること。

ただし、突飛すぎて、その価値を比較できるものがないと、、

理解が出来ず、とっつきにくくなります。

②そのものに、今までにない斬新さがあること。

ただし、過去に、類似の記憶がないと、これも、とっつきにくくなり、

その価値が認められるのに、時間がかかります。

③そのものが優れていて、理想とできること。

ただし、自分でもやれる、自分でもなれる、自分でもわかるという、

自分と同一と思える基盤があることが必要です。

④並大抵では達成できないことを、成し遂げていること。

ただしこれも、自分の努力次第で達成できると思えることが必要です。

⑤バランスよく制御されて、秩序が守られていること。

状況が複雑で、秩序が保ちにくいものほど、効果が目立ちます。

完全でなく、やや不完全の部分を含むほうが、秩序的な場合もあります。

以上、五つのポイントがあげられます。

上で芸術作品によって、欲求を引き起こす五つのポイントをあげました。

欲求を引き起こし、心を動かすことが、芸術作品の価値であり、

人は、それを待っています。

そのためには、それぞれの作品が理解されなくてはいけません。

理解されるためには、鑑賞者の方に、それだけの能力が必要ですが、

理解されるための構造も必要です。

(1)リアリティーがあり、現実的であること。(論理性)

その現実感が、人をとっつきやすし、仮想体験を容易にします。

また表現したいもの(テーマ)と、表現方法の間に、論理性がなければ

なりません。

(2)構成、時間的変化に、奥行き、複雑さがあること。(システム性)

単純すぎて全体や先が見えすぎると、人は退屈してしまい、

魅力を感じません。

絡み合う構成、予測を裏切る展開が必要です。

(3)構成、変化が、全体から見て調和されていること。(バランス性)

作品から、完成感や完結感を味わいたいのなら、

大きな変化と、そのバランスが生む安定感が必要です。

(4)構成に、わかりやすい一貫性があること。(シンプル性)

人が、その作品世界に入り込める、単純な道筋が必要です。

(2)と矛盾するようですが、大きな幹のうねりがあって、そこから、

複雑な枝分れがいくつか出ているという構成が基本です。

芸術作品は、感性で理解するものであり、基本的に自由であり、

論理の枠組みをはめることは出来ないという考えもあります。

感性とは、何でしょうか?

【2.意識とは?】において、

ものごとを認識は、意識回路の認識野で行なわれると述べました。

それらは、主に五感を使って行なわれます。

しかし意識野から送られてくる仮想パターンも、ここで認識されます。

通常、ものごとの認識に、この仮想パターンの認識は補助的に働き、

情報不足を補います。

この仮想能力が、非常に優れていると、少しのものごとの認識で、

多くの情報を得ることが出来ます。

広範囲で正しい仮想パターンを作り出すためには、

意識野の一つずつの働きが、優れているより、

総合的な働きが、優れている必要があります。

その働きが、感性と言えます。

ゆえに、感性は論理力より、総合力が重視されます。

しかし、他者の理解を必要とする以上、芸術作品といえ、

論理を無視して、完全に自由にはなれないと言えます。

ゆえに、上にあげた四つの条件を満たした芸術作品が、

人の心に深い印象を与えると考えられます。