わたしたちが、物事を感じ、考え、判断する心、それは脳の中の、意識回路に
存在するのです。
人の意識回路は、認識・記憶野、欲求野、感情野、意識野の五つの分野から
構成されています。
対象物を、過去の記憶と照合して認識し、欲求のフイルターを通って、感情が引き起こされ、
対策が判断されて、そして行動が選ばれます。
《認識・記憶野》
この分野においては、五感によって、まず対象物が知覚されます。つぎに対象物を、
記憶野にある認識パターンと照合します。
ほぼ合致する、またはかなり近似するものを見つければ、認識は終了します。
たとえば、赤く光沢があり、球形に近いハート型のものは、記憶野から、「りんご」という
名称のものだと照合があり、「りんご」だと認識するわけです。
今までにない対象物の場合は、より近いものを基礎に、新たに認識パターンを構築、
記憶します。
また、情報の増加によって、認識パターンは更新されていきます。
記憶野には、古い~新しいの階層があります。
照合の多い認識パターンは、上層の、認識野に近い領域に記憶されます。
照合が少なくなると、認識パターンは下層へと送られていきます。
下層へ行くほど、忘れやすく、思い出しにくく(照合しにくく)なります。
記憶野の最上層は、認識野とたえず情報をやりとりして、状況記憶、状況認識となって、
現在の状況を、監視、把握しています。
メモ代わりの一時記憶も、ここで行われます。
認識は、五感で知覚する他にも、意識が生み出す仮想認識がありますが、
これについては、後述します。
《欲求野》
認識された対象物は、つぎに、欲求野の欲求フイルターを通ります。
対象物の持った情報が、フイルターにかかると、多かれ少なかれ欲求が引き起こされます。
欲求野は、本能システムの上に成り立っています。
本能システムは、生存本能、種存本能、存在本能の三大本能を中枢として、
人のすべての活動を、制御しています。
生存本能は、生命を維持しようとする、生き物の本能です。
種存本能は、自分の遺伝子を代々つないでいこうとする本能です。
存在本能は、上の二つの本能の補助的働きとして、自己の存在をアピールしようとする本能です。
本能システムのセンサー部分が、欲求野の欲求フイルターです。
欲求は、快楽追求と不快苦回避の二つに分けられます。
入ってきた情報は、本能にとって益があるか、害があるかが判定され、
快楽追求の欲求、または不快苦回避の欲求が起こるわけです。
欲求は、つぎの感情野で、感情を引き起こします。
本能について、もっとくわしく見てみます。
本能は、三つの機能を持っています。
(1)先導(リード)、(2)防御(ガード)、(3)慰安(ヒール)です。
生存本能は、(1)飢餓感から、生きるエネルギーを獲得しようとし、
(2)防衛心から、生命、身体を守ろうとし、
(3)疲労感から、休息しようとします。
種存本能は、(1)性欲から、種を拡散しようとし
(2)配偶者や子孫を守ろうとし、
(3)子孫を育成します。
存在本能は、(1)自己を顕示して、存在アピールし、
(2)自尊心から、プライドを守ろうとします。
(3)自己を正当化して、バランスをとろうとします。
三つの機能を満足させるため、快楽追求、不快苦回避の欲求が、状況に応じて、
ウラオモテで起こるわけです。
《感情野》
欲求野で起こった欲求は、つぎに感情野で、全身にとるべき態度を指示する、
「感情ホルモン」を分泌します。
「感情ホルモン」には、以下の四つがあります。
○「快感ホルモン」は、全身に喜びを与え、充足感で満たします。
●「不快ホルモン」は、全身に不安感を与え、緊張状態にします。
○「興奮ホルモン」は、全身を活性化し、興奮状態にします。
●「慰安ホルモン」は、全身を沈静化し、感受性を強くします。
反応は、つぎののようにして起こります。
欲求野で、快楽追求または、不快苦回避の欲求が起こると、
それらの達成の難易度によって、「不快ホルモン」が分泌され、
感情は【不安】となります。
欲求が強いと、さらに「興奮ホルモン」が分泌され、感情は【怒り】となります。
欲求が満されると、または満たされるのが予想されると、「快感ホルモン」が分泌され
感情は【楽しさ】となります。
その満足感が大きいと、さらに「興奮ホルモン」が分泌され、感情は【喜び】となります。
欲求が十分に満たされなかった場合、その欲求をもう一度繰り返すか、
欲求自体を引き下げるように、「慰安ホルモン」が分泌され、感情は【哀しみ】となります。
満たされない感情に、さらに「興奮ホルモン」が分泌されると、感情は【悲しみ】となります
欲求を達成しようと、感情野が反応します。
そしてその反応は、認識データと欲求とともに、つぎの意識野へと送られます。
《意識野》
意識野は、認識した物事に対して、欲求が生じたとき、その欲求を達成しようとする
分野です。
欲求を達成するために、物事の状況に対して、何らかの対応をとろうとします。
その対応には、つぎの三つのレベルがあります。
(1)状況に順応して、慣れようとするレベル(順応-省エネレベル)
(2)状況に対応して、改良しようとするレベル(対応-改善レベル)
(3)状況をシステム化して、秩序を構築するレベル(システム-秩序レベル)
それらのレベルを達成するために、意識野は、仮想パターンを設定するという
機能を働かせます。
仮想パターンを設定することによって、つぎの五つの能力を発揮します。
① 観察力 : 物事を、既存の認識パターンと比較、その差異を発見することです。
② 記憶力 : 物事の特徴を単純化したパターンを想定、名前を付けて保存する
ことです。
③ 分析力 : 物事を分解したパターンを想定、その仕組みや特徴を分類することです。
④ 推理力 : 物事の因果のパターンを想定、その変化を予測することです。
⑤ 創造力 : いくつかの物事の組み合わせパターンを想定、新たなものを
作り出すことです。
意識野は以上の能力を使って、論理を立て、問題を解決しようとします。
意識野で設定された仮想パターンは、認識パターンと同じように、認識・記憶野を通り、
欲求野で新たな欲求を引き起こし、感情野で反応し、意識野で対応しようとします。
意識野では、欲求野の欲求とは別に、達成欲求、秩序欲求の二つの欲求が
生じています。
それらは、存在本能の欲求を基礎に、意識野で発展してきた欲求です。
人は、意識回路の中で、生存、種存、存在、達成、秩序の五つの欲求を生み出している
わけです。