23.経営論

経営の目的は、資本を投入して、利益を上げることです。

【10.企業論】において、以下のように述べました。

利益を生み出すとは、基本的に、原材料に付加価値を付けて、製品とし、

その製品を、生産に要したコスト以上の価格で、販売することによって、

その差額を生むことです。

その利益を生もうとする活動を、阻害する方向にあるものが、

企業のロスです。

経営とは、商品(製品・技術・サービス)の価格を決めることだと言えます。

どんなに、その商品が優れていても、需要がなければ売れません。

価格は、需要の量によって決まってきます。

その需要を引きつけるために、経営者は以下の事をします。

(1)商品、または供給者の宣伝をします。【宣伝】

(2)供給者の信用を作り出します。【信用】

(3)需要者の利点を考慮します。【利点】

(4)流通経路を確定します。【環境】

(5)商品の保障をします。【快感】

以上を行い、商品の供給が確定したなら、社会の需要に応じて、価格を決めます。

類似の商品がある場合は、その値に準じます。

価格を決めるとは、すなわち、

価格=原材料(燃料)費+経費+利益

のうちの、利益額(利益率)を決めることです。

原材料費とは、商品を構成する部品、

およびそれらを作り出すための、燃料にかかる費用のことです。

経費とは、その商品を作り出すための環境を保つための費用、

また、その商品を供給するための費用です。

必要:人件費、水道光熱費、消耗品費用、管理費、税金

投入:設備費、借り入れ利息・返済費

維持:設備保持費、保全・改善費

流通:運送費、保管費

開発:投資・研究費、宣伝費、接待費

補償:ロス費用、クレーム費用、廃棄費用、保険費用

などが、あげられます。

利益は、将来に向けての発展費用、

大きな事故などによる補償費用、

現状の老朽化に対する改造費用、

株主、役員、従業員への分配や、負債の返却、

などに、向けられます。

【19.仕事術】で、産業を、大きく四つに分類しました。

一つ目は、農業、漁業、畜産、林業などの生物産業です。

二つ目は、地下に眠る高エネルギーの鉱物、燃料を掘り出す鉱業や、

太陽エネルギーや、原子力を利用するエネルギー産業、

排出物を再原料化するリサイクル産業などの、資源産業です。

三つ目は、形を変更、材料を組み合わせことによって、ものごとの効率化、動力化、

制御化(自動化)を行なう、加工産業(工業)です。

四つ目は、製品に、労力・時間や知識・技術、環境も含む、サービス産業(商業)です。

それぞれの産業で、経営の方式は違います。

しかし、それぞれの産業で作られる商品に、

その時点での、需要量と供給量の限界があるのは、同じです。

売上げを増加したくても、需要・供給量の限りまでしか、売ることは出来ません。

生物産業は、自然環境に大きく影響されるため、供給過剰・不足になりがちです。

また、食品用途が主なため、安全衛生面の情報によっても、左右されます。

食品には、消費期限があるため、過剰・不足で、価格が大きく変化します。

そして代替品が多いため、価格が上がれば、とたんに売れにくくなります。

生物産業の経営では、供給の安定、効率化が中心となり、

特に、供給不足の際に発生する補償費を、どれだけ準備しておけるかが、

ポイントになります。

大量生産化は過剰気味であり、商品の開発も、すでに慢性的です。

多種品化、差別品化の傾向にあります。

資源産業は、天然資源が有限であるため、その分野では、供給が不安定になりがちです。

リサイクル産業も、原料の過剰・不足が起こりやすく、不安定な面があります。

その経営では、大量な供給より、安全で、安定・効率の良い供給が、ポイントになります。

資源、エネルギー技術の開発も重要ですが、

それには、国家的で大規模な投資が必要になり、

企業としては、支援・協力という形になります。

工業では、製品の需要・供給は、一般に安定しており、大量生産が可能です。

しかし、普及品では競争が激しく、

競争に負ければ、いくつかの設備が無駄になってしまいます。

工業の経営では、競争に生き残るため、特色性が尊重されます。

品質を追求する、低コストを追求する、短納期を追及する、

それぞれの特色を強調して、安定・効率の良い供給を目指します。

また、新たな需要の開拓、技術の開発と、その独占が重要となります。

サービス産業では、商品がものでなく、技術であるため、

供給が、容易に過剰になる傾向があります。

また、需要も不安定で、人の心理作用に影響されやすいと言えます。

供給過剰であるため、競争が激しくなりますが、

負けても、工業のように特有の設備を用いないため、大きな損失にはなりません。

その経営では、需要に、もっとも適応した供給を、考える必要があります。

次から、経営のポイントについて、述べていきます。

商品の価格は、原材料費に経費という原価に、利益からなっていると述べました。

原材料費に利益だけであるなら、商品を一個のみ売っても、儲かることになります。

しかし、ものを、需要者に供給するまでには、何らかの経費がかかります。

利益率が非常に高ければ、この場合も、一個を売って、経費の全てを負担でき、

儲けることが出来ますが、たいていの場合は、多くの個数を売って、

経費を分割する必要があります。

すなわち、経費は、ある範囲の間では、たとえば一個でも百個でも、

作ったり供給したりするのに、かかる費用は同じであり、

原価をもっとも下げるためには、百個売る必要があります。

原価を下げれば、価格を下げることも、利益を上げることも可能になります。

売上げが、さらに上がったのなら、多少、経費も上がりますが、

ふたたびある範囲、たとえば百個から千個の間、経費は一定となるため、

さらに原価を下げ、利益を増やすことが出来ます。

しかし、売上げは、需要量の限界までしか、上げることは出来ません

さらに、価格を下げ、利益を上げるためには、

技術を開発して、原材料費を下げ、経費を削るということになります。

次に、利益(率)をどの程度に設定するかを、考察します。

全体の需要量から、自己の供給量(売上げ量)を予測します。

次に、その供給量を満たすときにかかる経費を、計算します。

必要な原材料費(燃料費含む)に、その経費を足し、供給量(個数)で割ります。

その値段が、原価です。

価格の場合、ほとのどのものが、市場価格(相場)で決められています。

市場価格と、原価の差が、利益です。

その商品が、市場に出回っているものより、独創性が高く、

さらに需要が望めると思えば、価格を高く設定して、利益率を上げます。

逆に、競争が激しく、需要が奪われそうなら、利益率を下げて、

価格を低く設定します。

例えをあげますと、

1万個の売上げが見込め、その経費が80万円かかるとして、

原材料費が1000万円なら、原価は、一個あたり1080円となります。

1200円の価格設定では、利益は一個あたり120円、利益率は10%となります。

全体の利益は、120万円です。

利益率は、当然、高い方がよく、取り扱う商品によって、違ってきます。

しかし、売上高が大きいものは、利益率が小さくても、儲かります。

上の例で、10万個の売上げで、経費が800万円かかったとして、

全体の利益は、1200万円となります。

通常、経費は、ある範囲一定なので、800万円ではなく、200万円程度の上昇とすると、

原価は、1020円、利益は一個あたり180円、利益率は15%となり、

全体の利益は、1800万円となります。

企業が大きくなるほど、諸々の経費も増えますが、

取り扱う商品の種類、量が多く、売上高が大きくなるため、経費を薄く広く分配でき、

利益を大きく上げることが出来ます。

供給者が、売上げ至上主義に走るのは、上のような理由があるからですが、

利益率を正確に計算しないと、、原価割れを起こしてしまいます。

営業活動の戦略上、あえて原価割れを承知して、価格設定をすることもあります。

将来的な売上げの増加や、他の製品の利益で、マイナスを補う見込みですが、

十分な先見性や計画性が必要となります。

以上のように、需要と供給の量を把握し、それに対応することが、

経営の、一番目の大きな要素です。

需要と供給には、量のほかに、速度と、確実性があります。

需要の速度とは、ものごとを欲し、手に入れることを決心するまでの時間(D)、

注文し、完全に手中に収めるまでの時間(O)、

商品を受け取ってから、費用を支払うまでの時間(P)から成っています。

供給の速度とは、宣伝などで、存在や機能をアピールする時間(C)、

原料の仕入れから、製品になるまでの時間(S)、

受注し、完全に納入するまでの時間(O)、

費用を受け取るまでの時間(P)から成っています。

これらの速度を把握し、制御することが、経営の二番目に大きな要素です。

それぞれの時間が短く、速度が速ければ、供給者にとって、資本の回転が速く、

売上げを増やすことが出来ます。

需要者から費用が支払われるのは、最後ですが、

供給者の、資本を使っての、経費の支払いは、

宣伝などの時間(C)、または生産にかかる時間(S)の初めからです。

需要が発生するまでの時間(D)が長すぎると、

供給者側には、その宣伝などをしている時間(C)が長くなり、経費の負担が増えます。

また、すでに製品を作り始めていると、在庫が増え、維持費がかかり、

消費期限や、流行が変わると、売れ残って、ロス費が増えます。

商品を受注し、納入するまでの時間(O)が長すぎると、

いわゆる納期がかかり過ぎて、需要者に不満感をもたれてしまいます。

納入してから、費用が払われる間での時間(P)が長すぎると、

収入もないのに、原材料や、人件費などの経費の支払いが、重なってしまいます。

次の供給の用意も始まるため、資本の余裕が必要となります。

資本を費やし、売上げを上げ、その売上げだけしか、次の資本に回せないのなら、

それは「自転車操業」となり、支払いが一度遅れたら、経営が破綻してしまいます。

しかし、資本の多くを、安全のための予備金としておくのは、効率が悪く、

また、そのような時の、急な資金の借り入れも、容易ではありません。

これらの時間を短くし、速度を上げるには、それぞれの段階での確実性を上げることです。

経営の三番目の要素は、その確実性を上げること、すなわちリスク管理です。

経営にとって、リスクとは、資本が減ってしまうことです。

(1)売上げが伸びず、経費だけがかかってしまう損失、

(2)売上げが伸びず、さらに在庫分の原材料費、処分費がかかってしまう損失、

(3)需要に応じた供給が出来ず、ロスや補償によって生じる損失、

(4)事故や犯罪によって生じる損失、

(5)費用の支払いや借入金の返済が出来ないために、生じる損失、

以上のような場合が上げられます。

経営者は、この五つの損失を出さないように、

(1)に対しては、売上げ予測を正確に行なう。

宣伝を効果的に行なう。

経費の節減を行なう。

商品への見切りをつける。

(2)に対しては、受注に応じて、製品を作れるようにする。

適正在庫量を管理する。

(3)に対しては、生産管理、品質管理を重視する。

(4)に対しては、防衛や、保険を検討しておく。

(5)に対しては、資本の運用の計画を立てる。

などが上げられます。

経営論をまとめます。

経営者は、商品の価格を決定します。

すなわち、仕入れて売る時の、原価に上乗せする利益を決めることです。

それは、売上げ量を予測するということであり、

また、需要を活発化するように、努力することと言えます。

【需要・供給の量】

経営者は、需要と供給の、いくつかの段階の速度を制御します。

すなわち、資本の回転率を、可能な限り早くして、供給量を増やし、

利益を増やすということです。

中途の製品のまま長く保たない、製品在庫を過剰に持たない、

開発商品に投資するなど、資金を遊ばせないようにします。

【需要・供給の時間】

経営者は、リスクを管理します。

製品を供給し、利益を得るまでには、いくつかの不確かな要因が存在します。

その不確かさは、いろいろなロスを生み出し、そのロスは利益を侵します。

不確かさを管理して、確かなものとするということです。

【需要・供給の質】

以上、三つの役目を十分に果たすようになるためには、

繰り返しの経験によって、学習を積み重ねていくしか、方法はありません。

学習していくためには、上にあげた需要・供給の【量】【時間】【質】の三要素を、

たえず頭に置いておかなくてはいけません。

経営の例をあげます。

製品イ、ロ、ハがあるとして、

製品イは、需要量の大きな伸びはないが、一定量の需要は確保できるもの。

製品ロは、需要量は増えているが、急激に減る可能性もある。

製品ハは、当たれば需要量は爆発的に増えるが、外れればゼロに近い。

製品イは、利益率を下げて、一定の需要量を固守する、

または、それ以上の需要を、他社から奪い取ることを戦略とします。

逆に、品質や納期にトラブルがあれば、需要をすぐに奪われてしまいます。

供給状態の管理が問われる状況です。

製品ロは、利益率を平均並に設定し、出来るだけ早く、需要に供給することを、

戦略とします。

売上げ量は多めに想定し、需要が止まったと見れば、すみやかに撤退します。

需要のピークを見切るのがポイントであり、まだ伸びると判断すれば、

増資もありえます。

製品ハは、利益率を上げ、売り上げ量は低めに想定し、

ヒットの兆しがあったときは、供給体制の変更が可能なように、

用意しておく必要があります。

イのような製品を主体にしながら、全体の売上げを保ち、

ロのような製品で、利益を上げます。

そしてハのような製品を、将来を担うために、開発し続けるのが、

理想の経営と言えます。