25.人生論

人生には、多くの問題が降りかかってきます。

それらの問題に対応していくには、まず自己の思考を確立しておく必要があります。

秩序思考を用いて、問題を解決し、真理を探る者を、「哲士」と呼びます。

【9.対人論】において、以下のように述べました。

「哲士」とは、一般には「道理に明るく、すぐれた識見を持った、志のある者」のことを

言います。

『哲士』は、大きく、次の四つの態度を、行動スタイルとします。

泰然性・・・因果に従い、【想】

陰湿を嫌い、堂々と、【義】

誠意を持って、対処する。【誠】

裕然性・・・こだわらず、【展】

本質をつかみ、【智】

先行きを見通す。【順】

毅然性・・・冷静に、【節】

現状を受け入れ、【縁】

他人に応じない。【諦】

整然性・・・秩序を重視し、【信】

正確に、丁寧に、【直】

礼儀正しく、努める。【礼】

秩序思考にもとづく行動については、

【7.環境論】で、以下のように述べました。

論理思考 【想】 想像力をもって、ものごとを観察し、工夫する、

問題を解決し、再発を防止し、現状を発展させます。

【義】 すべきことをする、人目を気にせず義理を果たせば、

因果は、人に影響されず、理に従います。

【誠】 誠意をもって事にあたれば、因果が良い方に

導かれる確率が高くなります。

システム思考 【展】 全体から、時間軸から見方を変えて、ものごとを展開すれば、

本質が見えてきます。

【智】 叡智を働かせ、付着した余分なものを取り除けば、

ものごとの本質が見えてきます。

【順】 計画を立て、順序よくこなしていけば、

ものごとの達成は、より確実となります。

バランス思考 【節】 秩序を保つには、制御が必要です。

意識には、節制が必要です。

【縁】 自然に従えば、理にかないます。

意識は、偶然を宿縁として受け入れる必要があります。

【諦】 ものごとは、他とのバランス状態にあります。

完全と言うものは、偏りを生み出します。

ある程度満たされれば、諦めることも必要です。

シンプル思考 【信】 自分を信じる、自分の経験、知識、感覚を信じて判断することが、

複雑な状況の対処に、有効性を示します。

【直】 明確、正確を心がけ、基本にムダなものを付着しないようにすれば、

ものごとは理に従います。

【礼】 ルールを守り、礼儀をもって事にあたれば、

人間関係は円滑に進みます。

これらの関わりを、次から、さらにくわしく論じていきます。

人の性格は、意識回路のそれぞれの分野に影響されて作られることを、

【13.性格論】で述べましたが、それらを簡単にまとめると、

以下のようになります。

認識・記憶野・・・敏感型 ― 厳密、 慎重 気が利く

鈍感型 ― 大雑把、軽率 思い込み

欲求野・・・・・・・・快楽追及型 ― 自己中心 自己顕示 怠け者 欲張り

不快苦回避型 ― 臆病 内向(消極)的 おせっかい 無気力

感情野・・・・・・・・過反応型 ― 感情的 悲観的 神経質 陽気

未反応型 ―冷静 楽観的 大胆 陰気

意識野・・・・・・・・完璧型 ― 頑固 まじめ 知的

ルーズ型 ― 中途半端 融通性 感覚的

泰然性とは、非難や羞恥に、心が動じることなく、堂々とした態度でいることです。

すなわち、上で挙げた、欲求野の不快回避から、臆病になったり、

消極的で、こそこそすることなく、度胸を決めて振舞うことです。

その基本は、因果に従うと言うことです。

因果とは、確率です。

良い結果に成るように、想像力を働かせて、確率を高めるよう努力します。

しかし、確率であるからには、どんなにその率が高くても、成らないことがあります。

確率として理解し、諦めるしかありません。

能力は限られています。

どんなに努力しても、その状況での限界があります。

そして、ものごとが成立するには、タイミングやバランスがあります。

タイミングやバランスがずれると、状況が整っていても、うまくいきません。

以上の、「確率」「限界」「タイミング」「バランス」は、

成るようにしか成らないという外因です。

これを「成行四要素」と名付けます。

結果を恐れて、おどおどしたところで、どうにもなりません。

「因果に従い」・・・すぐに諦めず工夫する、

諦めるべきは、諦める,

想像力を働かせて、先を読む【想】

「陰湿を嫌い、堂々と」・・・人目を気にせず、すべきことをする、

恥ずかしがらない、

劣等感を持たない【義】

「誠意を持って、対処する」・・・正しい思いで行動する、

前向きに立つ、

誠意があれば、必ず心が通じる【誠】

あとは覚悟を決めて、「成行四要素」という因果に従うという態度です。

論理に従い、すべきことはした、その思いが、堂々とした態度を生みます。

裕然性とは、欲求に振り回されず、ゆとりを持った態度のことです。

前ページで挙げたところの、欲求野の快楽追求の、強い欲望を抑え、

おおらかな気持ちで、ものごとを受け入れます。

その基本は、システム思考です。

その状況で良くなくても、全体から見れば良い。

現在、良くなくても、将来、良い結果となる。

以上のように、広い視野でものごとを見ることによって、

衝動的な心の反応を防げます。

しかし、範囲が広くなれば、迷いも多くなります。

今、何が必要なのか、大事なのかを見抜く叡智が必要です。

また、前もって予測(計画)を立てておくことで、行動に余裕が出ます。

そして、あとは、「泰然性」で述べたように、

ここでも、「確率」「限界」「タイミング」「バランス」の、人知に及ばない面があるので、

視野が届かない、予想が外れるなどの不測に、慎重になりすぎないことです。

「こだわらず」・・・思い込みを疑う、

ごまかしをしない

全体からとらえる【展】

「本質をつかみ」・・・事実を重視する、

誤差に振り回されない、

違和感を軽視しない【智】

「先行きを見通す」・・・論理に従う、

流れを正しく導く、

具体的な計画を立てる【順】

全体を見る、真理を見るという態度が、悠々とした態度を生み出します。

毅然性とは、自分にも他人にも、厳しい態度をとるということです。

欲求野において、快楽追求、不快苦回避の欲求が起こると、

それは、感情野を通して、全身の行動に、対応態勢をとらせます。

その対応は、意識野にも及び、それまでの自分の経験、記憶、想像から、

さらに、新たな欲求を引き起こし、そして、ふたたび感情野を刺激し、

それを繰り返して、過剰な対応を引き起こします。

過剰は、対応の必要以上に、興奮する、あわてる、おびえる、緊張するなどの

行動が起こさせます。

これらはほとんど、対応の達成の、障害となります。

この過剰を防止するためには、

一つは、先ほど述べた、意識の繰り返しの刺激を、遮断する、

一つは、感情野から、全身への命令を、遮断する、

以上のことが必要です。

この二つの遮断には、過剰を断ち切るという態度が必要です。

そのためには、

自分の心を、論理で、強く制するということ、

ものごとを、前ページで述べた「成行四要素」に従って、運に任せること、

「成行四要素」が満たされないなら、諦めること、

以上の心構えが、日頃から必要です。

「冷静に」・・・あわてない、

あせらない、

恐れない、【節】

「現状を受け入れ」・・・すべきことをしたら、後は天命を待つ

結果が良ければ、良い、

正当な解決手段をとる【縁】

「他人に応じない」・・・他人に気に入られようとしない、

劣等感を気にしない、

認められたいと思わない【諦】

割り切る、情を切って機械的に対応する、そういうきびしさを、社会は求めています。

整然性とは、几帳面な態度のことです。

意識は非常に複雑に反応します。

この単純系では、意識を、認識・記憶野、欲求野、感情野、意識野と、

大きく四つの分野からなる、意識回路と想定しましたが、

その回路の、信号の流れは、複数に、相乗・干渉を起こして複雑です。

人の意識に影響を与えるのは、記憶、経験、想像です。

それらが、さらに反応を複雑にしているのは、上に述べたのと同じです。

経験・・・(身体で記憶した、漠然とした情報)・・・錯覚、間違いを生む

記憶・・・(記憶野で記憶した、パターン化された情報)・・・思い込みを生む

想像・・・(意識野で、再構築した情報)・・・短絡、虚構を生む

意識野は、起こった問題に対処しようとする分野です。

出来るだけ、効率良く対処するためには、当然、上のような混乱をふせいで、

意識内が、整理整頓されていることが、理想です。

意識の整理整頓をするためにも、不要なものを思い切って捨てる必要があります。

不要であるか、ないかは、完全に正しく判断することは無理です。

その判断は、最終的に、自分を信じて行なうしかありません。

自分の回りの環境を、たえず整理整頓しておくことも、重要です。

真っ直ぐに揃える、素直に従うことが、落ち着いた環境を作り、

意識の混乱を防ぎます。

そして、対人関係が、意識に、大きく影響を与えます。

対人環境を整えておくためには、礼儀が重要なポイントとなります。

礼儀とは、相手の存在価値を認めることです。

相手の存在領域(縄張り)を、むやみに侵さないことです。

過剰反応をしている他人にも、この断ち切りは必要です。

「秩序を重視し」・・・規則を作り、守る、

グレーゾーンを明確にする、

自分がルールブックとなる【信】

「正確に、丁寧に」・・・規範を作り、守る

順序だてて行動する、

面倒がらない【直】

「礼儀正しく、努める」・・・相手に正対する、

相手を尊重する、

けじめをつける【礼】

混乱を避ける、他人を惑わさない態度が、社会の秩序を守ります。

以上から、

泰然性の態度は、因果に従う「論理思考」から作られ、

裕然性の態度は、広い視野の「システム思考」から作られ、

毅然性の態度は、自然に従う「バランス思考」から作られ、

整然性の態度は、混乱を避ける「シンプル思考」から作られるわけです。

人の脳は、簡単に例えると、

ハ虫類の脳、ホ乳類の脳、サルの脳、ヒトの脳の四層構造です。

ハ虫類の脳は、生存本能で、貪欲になります。

ホ乳類の脳は、さらに、種存本能で、貪欲になります。

サルの脳は、さらに、存在本能で、貪欲になります。

ヒトの脳は、さらに、達成欲求で、貪欲になります。

人は、この四つの貪欲さを持つわけです。

これらの貪欲さは、問題解決の意欲にはなりますが、

意識をかき乱し、対処の障害にもなります。

この貪欲さを抑える方法を、前ページまでで述べてきましたが、

抑え続けることは、生物として、大きなストレスを受けます。

それぞれの脳の貪欲さを、認めてやることも必要です。

しかし、動物の脳を、放し飼いには出来ません。

区域を定めて、解放してやることです。

それを監視するのは、高い意識レベルの、秩序欲求です。

秩序欲求の弱いものは、動物の脳が、十分制御されず、自由に振舞います。

哲士の行動の逆のパターンを示します。

哲士の行動を、12個の漢字で表しましたが、ここでも、反対の漢字で表します。

【無想】・・・想像力を働かさず、

【不義】・・・すべきことをせず、

【不誠】・・・誠意がなく、自己中心的な行いをする。

【非展】・・・全体を見る度量がなく、

【無智】・・・本質を見抜く知恵がなく、

【不順】・・・秩序を乱す。

【無節】・・・節制がなく、欲望のまま振舞い、

【無縁】・・・自然の流れに逆らい、

【不諦】・・・諦めが悪く、未練に引きずられる。

【不信】・・・自分すら信用できず、

【非直】・・・ものごとを率直に扱わず、

【無礼】・・・礼儀を知らない。

上の者は、自分の本能に引きずられます。

本能を抑え、秩序を守ることに、本人が意義を見出さない限り、この状態は続きます。

これらの程度がひどいと、周囲からは「やっかいな人物」となります。

人が、その本能や欲求を制御することは、容易ではありません。

態度や行動を設定してしまうことで、それらの制御を習慣化出来ます。

次に、いくつかの生活態度の指針をあげます。

(1)姿勢を正す。

(2)胸をはって歩く。

(3)明確な話し方をする。

(4)過食・過飲をしない。

(5)身体を清潔にする。

(6)身だしなみを整える。

(8)贅沢をしない。

(9)生活を規則正しくする。

(10)腹式呼吸をする。

(11)疲労をためない。

(12)礼儀を守る。

一日の時間の使い方も大事です。

日常は、労働に11~12時間程度費やし、

睡眠や食事、休養などの生活に、9~10時間程度とります。

その残りの時間を、ゆとりの時間として、

自分を整える時間、

自分を鍛える時間、

自分を解放する時間に、割り当てます。

これが、健全な生活態度を作る基本となります。

哲士について、まとめます。

生物は、望む望まないに関係なく、生を受け、死を迎えます。

人は、意識を持ったために、以下の苦しみを感じます。

老苦、病苦、死苦、孤独苦、別離苦、

疲労苦、不快苦、蔑苦(劣等苦)、不満苦、貧苦

また、それらと反対の、いくつかの喜びも受けます。

若さ、健康、協力、出会い、

慰安、快楽、尊敬、満足、豊かさ

苦しみを出来るだけなくし、喜びを出来るだけ得ようとするのが、人の望みです。

そのためには、

冷静に状況を認識し(理解力)、

適確に対応を検討し(想像力)、

正確に行動する(制御力)、

それらを成し遂げる強い意志を持つ(動機力)、

それが、「哲士」です。

しかし、何事も、完璧に成し遂げられるとは限りません。

他人からも、自分からも、100%認められることは不可能です。

そこには【成行四要素】の条件があるからです。

泰然性(堂々と)、

裕然性(裕々と)、

毅然性(厳しく)、

整然性(正しく)という、枠組みの中で行動する、

そのような型にはまった生き方を、開き直って、してみることが、重要です。

「哲士」という概念をまとい、自分を、「穏やかに」保ちます。

高い意識で生きれば、志ある人たちに必ず理解され、

やがて高い意識の、ネットワークを作り出すことが出来ます。