28.複雑系

世界は三次元の空間と、一次元の時間の、四次元構造で出来ています。

言語は、過去から現在へ続く、一次元の構造です。

図(二次元)と言語を用いて、ものごとを説明すれば、それで三次元を表現出来ます。

しかし、四次元の世界を、完全に表現は出来ません。

これが、言語を用いた人の思考の限界です。

人が、高次元化した複雑さを解くには、やはりある程度、低次元の要素に

分解していくしか方法がありません。

現実の世界は、多くの因子が複雑に絡み合って、多くの結果を導いています。

複数の因子は、どのような関係を作り出すのでしょうか?

結合(引力―増幅、干渉、共鳴)、分離(反発、拡散、崩壊)の、関係が想定されます。

結合は、以下の四つに分かれます。

接合:境界面のみ結合しており、互いの性質が一部残り、

また、新たな性質が生まれる。

例として、「汚れの付着」

「ボルトとナット」

融着:全体が混ざり合って結合し、新たな性質に生まれ変わる。

例として、「光合成で、栄養分が作られる」

「音楽の演奏」

付加:全体または一部に、他の性質が影響して、従来の性質に

新たな性質が加えられる。

例として、「雨が冷えて、雪となる」

「技術革新で、需要が変わる」

混合:全体が混ざり合っているだけで、互いの性質が残り、増幅、干渉を起こして、

新たな性質を生み出す。

例として、「建造物や構造物」

「人の集団行動」

これら結合を起こす引力には、以下のものがあげられます。

重力、磁力、電子・イオン間力、分子間力などの物理的引力

気流や水流、濃度、温度差などによる力学、化学的引力、

生物の食物摂取、生殖、集団化などによる生物的引力。

人の欲望による社会的引力。

上にあげた引力によって結合し、それぞれの性質が変化します。

増幅は、性質が強化され、干渉は、性質が弱化されることです。

共鳴は、直接に結合してないものが、途中の物質を通して、増幅・干渉し合うことです。

分離は、以下の三つに分かれます。

反発:エネルギーとエネルギーのぶつかり合いによるもの。

例として、「衝突による破損」

「磁石の反発」「浮力」

拡散:二つ以上の物質間での、エネルギーの平衡化によるもの。

例として、「煙の拡散」

「重力による落下」

崩壊:二つのエネルギーへの分散化によるもの。

例として、「岩が崩れ、砂となる」

「細胞分裂」

分離を起こす反発力には、以下のものがあげられます。

遠心力、磁力、電子・イオン間力などの物理的反発力、

気流、水流、地殻エネルギーなどの力学的反発力、

生物の攻撃、不快回避などによる生物的反発。

人の嫌悪によ社会的反発。

拡散や崩壊を起こす力は、時間の経過によるエントロピー(無秩序さ)の増大です。

結果には、原因があります。

いくつかの因子が上のような状態で関連し合って、新たな性質となり、

大きな一つの原因となります。

その一つの原因(主原因)に、それを促す環境(補原因)が整って、

いくつかの結果が生まれます。

主原因は、結果にとって、なくてはならない必要条件のことであり、

補原因は、結果にとって、あればより成り立ちやすい十分条件のことです。

これら、複雑に絡み合った因果を、正確に解くのは非常に難しい上に、

現実では、さらに別の要素が加わってきます。

それを、次に述べます。

【1.想定論理】において、以下のように述べました。

論理を構成する基本的な原理は、次の三つがあげられます。

(1)所属の関係 (2)組み合わせの関係 (3)変化の関係

(1)所属の関係とは、例えば、「人間は哺乳類である(に属する)」というような、

物事の所属の範囲をあらわすものです。

所属の範囲は、言葉の定義によって限定されます。

二つの関係としては、AはBに属する、BはAに属する、AとBの一部分が共通する、

AとBは無関係である、の4パターンがあります。

(2)組み合わせの関係とは、ジグソーパズルのように、部分が集まって全体となる

関係です。部分の総和は全体になり、部分の重複も不足もありません。

(3)変化の関係とは、「風が吹けば、枝がゆれる」というような、ある物事に対して、

何かが付加する、または削除されて、別の形に、確率的に変化するということです。

A+α⇒B(またはA-α⇒B)

Aとαは原因となり、Bは結果となる、因果の関係とも言えます。

(1)所属の関係は、言葉の定義で決められると述べましたが、

言葉は一次元であり、物質的なものや一般的なものは、その特徴の積み重ねで、

ある程度、正確に定義することが出来ます。

しかし、抽象的なもの、観念的なものになると、その全体像は三次元または四次元的で、

言葉での定義に、あいまいさが残ってしまいます。

このことが、ものごとの論理に矛盾や混乱、人による食い違いを起こしてしまいます。

ましてや、研究者でない一般の者には、ものごとをいちいち正確に定義している暇はなく、

議論がかみ合わない、思い込みによる間違った論理に進み、

ものごとの仕組みを、さらに複雑にしてしまいます。

(2)組み合わせの関係も同じです。

全体像が三次元、四次元的であり、それを構成する部分も、三次元、四次元的であると、

非常に組み合わせが複雑になり、また、互いに変化すると、構造が合わなくなります。

ジグゾーパズルが、立体になり、時間が経過して、形が風化してしまった状態と同じです。

この論理もまた、簡単には理解できなくなります。

(3)変化の関係は、確率によります。

確率の高いものが起こりやすく、低いものが起こりにくいと言うだけで、

確率の低いものも、起こりうるわけです。

それが、確率のバラツキです。

簡単な因果関係であるなら、おおよそ、その蓋然性(確率性)の予想がつきますが、

構造が複雑であると、その予想もおおよそとなり、さらに、確率のバラツキが加わって、

真の因果関係がわからなくなってしまいます。

上で、因子同士が関系して、新たな性質を持った原因になる状況を述べました。

原因には、主原因と補原因(環境)があると述べました。

これらの原因に、上のような曖昧な原理が働いて、結果が生まれます。

そしてさらにやっかいなことは、そんな因果の流れに、人の気ままな意識が入り込むことが、

多いということです。

サイコロを振る装置があるとします。

装置へのサイコロのセット、振る動作、落ちる速度、高さ、そしてサイコロの状態、

実験状況などが主原因となります。

結果は、サイコロの目の数です。

条件が一定ならば、出るサイコロの目もたえず同じになるはずです。

サイコロの目が同じにならないならば、どこかにブレ(誤差)を生み出す原因、

すなわち補原因があります。

この場合、サイコロの重心の狂い、装置の動作誤差、転がる面の凸凹、空気の流れなどが

考えられます。

そのブレ(誤差)が、論理(確率)を狂わせるのです。

そのサイコロを装置でなく、人が振るとなると、そこに意識が入り込みます。

ブレが大きくなって、さらに結果がバラツクか、

または逆に、全体のブレを微調整して、同じ結果ばかり出せるようになるか、

因果の状況は、さらに複雑となってしまいます。

サイコロを振るということだけでも、その結果だけを見ると、

ただの気まぐれで、複雑で、分析不可能な印象を受けます。

無数に近い因子が絡み合う、大きな系、

たとえば、生命、意識、知性、進化、自然、社会、経済、政策など、

人の認識より、はるか巨大な宇宙、はるかに微小な素粒子の世界、

これらを人が理解するのは、並大抵のことではありません。

次に、それらを理解いていく思考の、ポイントを述べていきます。

因果を解き明かすには、結果がわかっていて、原因を求める場合と、

原因から結果を予想する場合があります。

どちらの場合も 、状況を複雑であると、いきなりくくってしまっては、

本質をつかむことは出来ません。

結果から原因を求める場合、まず現象をよく見て、状況の基本的な構造に分解します。

はじめに、人の意識が、影響を及ぼしている部分がないかを見ます。

人の意識の存在が、事実を歪めてしまっている場合が多いからです。

そのような部分があったら、とり除くか、機械的なものに取り替える、

保留とする、または、注意深く取り使う必要があります。

そして、主原因、補原因(環境)を求め、結果を導いた論理を組み立てます。

そのためには、それぞれの構成のキーポイントとなるものを見つけます。

そのキーポイントを中心に、因果の論理を組み立てて、全体と比較します。

全体とは、原因・結果の現象にかかわる、すべての状況のことを言います。

その全体の状況から、そのキーポイントのあり方を確認し、

徐々に、関係の弱い付着物をとり除いていきます。

複雑系の分析の例として、社会現象をあげます。

例えば、ヒット曲が生まれたとします。

結果は、日本で、Aという歌手が歌った歌が、CDの売上げで何百万枚も売れたことです。

歌のヒットの要素は、主原因として、「多くの人の心を動かす曲であったこと」であり、

補原因は「多くの人に、その曲の存在を知らしめすことが出来たこと」です。

主原因は、いくつかの要素から出来ています。

「心打つ詞」「心に響く曲」「斬新な編曲」「歌手の魅力」などであり、

それらが相乗効果で、すばらしい歌を作り出したのです。

特にAという歌手の魅力が、その歌によって引き立てられ、

歌を引き立てたなら、その歌手の存在がキーポイントとなります。

補原因もまた、いくつかの要素から出来ています。

「CMソングであった」「キャンペーンに力を入れた」「リクエストが増えた」

「急なヒットで品切れが続いた」「急なヒットで歌手がTVに出れなかった」

「発表時期が良かった」「評論が良かった」などです。

とくにCMソングであったことが、ヒットのキーポイントと言えます。

すべての要素に、人の意識がかかわっていますが、

群集であるということで、ある程度は機械的に取り扱えます。

製作者は、ヒットをあまり予想していなかったため、急なヒットにCDの再販が追いつかず、

品切れとなって、人々に、手に入りにくい貴重感を与えた。

TV局なども、歌手の出演を予定していなかったため、人々に歌をまともに聞きたいという、

欲求を引き起こした。

以上から、人々の購買意欲を引き起こし、それが群集を流行に追いやったわけです。

もう一つのキーポイントとして、「ヒットの予測をしていなかった」ということがあげられます。

結果が良ければ、すべての原因が良かったような印象を受けます。

歌の作詞者は、ヒットは自分の力だと思い、作曲者も同じです。

歌手は、自分の魅力のおかげだと思い、製作者は、自分の先見の明だと思います。

しかし、2曲目は、大きなヒットはしません。

「多くの人に、その曲の存在を知らしめる」効率は、1曲目以上です。

2曲目への期待感から、CDの発売枚数も多く、キャンペーンも充実しています。

歌手Aは、多くのTV番組などに出演して、見慣れた感もありますが、

洗練されて、より魅力がアップしています。

歌の出来は、1曲目と同じ程度ですが、歌手との相乗効果は、前曲に比べ今一歩です。

1曲目の完成度が高く、印象が強いため、また人々の期待感が大きいため、

二曲目がやや不満足に見えます。

ヒットしなかった原因の、キーポイントは何でしょうか?

この二曲目が、一曲目であったと仮定して、ヒットが予想されるなら、

「二曲目であった」ことが、キーポイントになります。

一曲目であっても、ヒットが予想されないなら、

「歌手と歌とのマッチ感が良くなかった」ことが、キーポイントと思われます。

結果が悪ければ、この場合も、すべての原因が悪かったような印象を受けますが、

その原因を取り除いてどうかを予想し、何がキーポイントであったかを見抜き、

状況を理解します。

複雑な状況から、キーポイントを見つけて、本質的な因果を見つけるという、この方法は、

結果が分かっている時に、その原因を追求するときには有効ですが、

原因から結果を予想することには、要因の見落としが起こりやすいことから、

難しい面があります。

次に、それらについて述べます。

原因から結果を予想する場合も、因果それぞれのキーポイントを見つけることが、

重要です。

しかし、結果から原因を追求するのは、ある程度、限定されて可能ですが、

原因から結果を予想するのは、難しい面があります。

とくに、要素が多くある場合が困難です。

結果の出ていない現在では、要素のどれがキーポイントになるか、

絞りきれない面があるからです。

状況に影響を与える確率の、高いものを選ぶことになりますが、

確率にはバラツキがあります。

競馬の予想を例にとります。

競走馬の1頭の、足の速さが抜きに出ていたならば、予想は簡単です。

その馬が1等になる確率が大になります。

しかし速さが皆、鼻の差であったら、予想は難しくなります。

騎手、馬場状態、天候、それぞれの馬の体調、性質、互いの関連などの要因に影響され、

レースは混沌(カオス)状態となります。

思考の順序は、前ページで述べた方法と同じです。

主原因、補原因(環境)を求め、結果を導いた論理を組み立てます。

そのために、まず全体の状況と、求める結果を明確にします。

この場合は、公式ルールに基づいたレースでの、勝ち馬を予想することです。

次に、原因を求めます。

その状況で、コースを最速で駆け抜ける馬であることが、主原因です。

その馬が速く走ることを促す環境であることが、補原因です。

主原因、補原因それぞれで、結果に影響を及ぼすと思われる要因を出来るだけ挙げます。

出場する馬全頭と、その要因の関連をマトリックス(行列)表示します。

速く走る方向を促進するものはプラス点、阻害するものマイナス点で評価します。

要因同士が相乗効果を示すものは、高得点となり、

干渉しあえば、ゼロまたはマイナス得点となります。

トータルのプラス点の多い馬が、勝ち馬になる可能性が高いと言うことになります。

結果の予想は、この程度が限界です。

さらに結果を絞る込むためには、勘に頼るしかありません。

勘とは、その人の持つ総合の判断力です。

その人の持つ知識、常識に、理解力、想像力、動気力、制御力があって、

正しい勘が働きます。

左脳の言葉による論理に、通常は偏りぎみになりますが、

右脳のパターン認識も活用した、総合の判断力によって、結果を推理すると言うことです。

これらはもちろん、上で述べた細密なマトリクス分析をふまえた上での判断です。

以上、原因から結果を予想する方法をまとめます。

①全体の状況から、大きく主原因、補原因、予想される結果の状況を求める。

②それぞれの、出来る限りのデータ―を集める。

②結果の予想データを縦軸、主原因、補原因データを横軸にして、

マトリックス表示する。

③それぞれの項目の関連度を、評価する。

④評価点の合計、または分布密度の高いものが、関連の可能性が高い。

これが、原因から結果を予想する限界です。

④さらに予想を絞り込むには、知力の総合判断力(勘)に委ねる。

複雑系を解析するためには、勘のような、言語による論理以上の総合判断力が必要です。

次に、それらについて論じます。

複雑な状況を解明するには、一次元の構造である言語では、表現しきれないと

述べました。

元来、人の脳はパターン認識の組み合わせのみで思考していました。

すなわちパターン化して簡略化された映像を、仮想して、状況の変化を予想するという、

二次元の構造です。

やがて言語が発明され、脳の左脳に、その支配が任されました。

言語は、構造は一次元ですが、記号として記憶しやすく、整理しやすいため、

蓄積させることで、多層的な論理を表現できます。

そして、右脳に従来のパターン思考、左脳に言語思考という分担が生まれました。

言語は、音声、文字などで印象が残りやすいため、意識のすべてのような錯覚を、

生じますが、脳は二つの論理思考の組み合わせで、意識を作っているのです。

複合的なもの、全体的なものの把握には、パターンによる二次元認識、

多層的なものの把握には、言語による一次元認識の分析を行ないます。

そして、それぞれが知識、経験などの記憶を使って、論理思考を行ないます。

これが、知能の総合判断力です。

言葉で、その思考の論理性が説明出来ないときが、勘、直感と呼ばれるものと

なります。

知識や経験が少ないと、思考が雑になり、その勘や直感も外れやすくなります。

特に、パターン思考は、読書などによる言語的な知識の習得より、

体験などによる、経験の習得が必要です。

知能の能力には、記憶力、理解力、想像力、動気力、制御力があります。

意識回路の意識野には、五つの能力があると述べました。

仮想認識を使って、観察、記憶、分析、推理、創造を行なう能力です。

これらの組み合わせで、記憶力、理解力、想像力が作られます。

また、それらの能力を使って、問題を解決した喜びから、達成欲求と秩序欲求が、

生まれました。

達成欲求は、動気力、秩序欲求は、制御力を生みます。

人には、他にも欲求があります。

生存本能により、食欲や、休みたがったり、面倒くさがったりします。

種存本能により、性欲や、快楽追求、不快回避が起こります。

生存本能により、自尊心や自己顕示が起こります。

これらの影響によって、状況の判断に狂いが出ます。

動気力、制御力によって、その影響を出来るだけ押さえ、

知性のみで判断する、そして勘を純粋に鋭くしなければなりません。

状況は主原因、補原因(環境)、結果の構造からなっていると述べました。

その状況の発生時点では、取る足らないと思われたことが、後で大きなキーポイントに

なることがあります。

結果が出ていても、そのキーポイントに気づかない場合もあります。

これらを見抜くのが、上で述べた勘(総合判断力)です。

偶然という要素も、判断を混乱させます。

偶然が、原因の大きなキーポイントになる場合と、

結果が偶然で、たいした法則性がない場合があります。

これらも振り回されないように、真理を見抜かなければなりません。

状況をすぐに複雑であると決めつけず、出来る限り要素に分解し、

そして、キーポイントを見つけ出します。

そのキーポイントから、状況を再構成して、その複雑な部分、理由を明確にします。

そして、その部分を、さらに要素へと分解します。

論理思考とは、要素に分解して、その要素を出来るだけ見落としなくあげることが、

どんな状況においても、基本であるわけです。