単純な細胞分裂を繰り返して、増殖していた生物は、
さらに環境に適応するための変化を、突然変異のみに頼っていました。
遺伝子の組み合わせミスか、放射能などによる影響での変化では、
環境に適応するより、不適応になる可能性の方が高く、進化は非常にゆるやかでした。
やがて、二つの遺伝子が組み合わさって、性質が変化する、分離―融合の
増殖方法が生まれると、環境に適応する確率を、飛躍的にアップさせました。
二つの遺伝子が、無作為に組み合わさるのでなく、オスとメスと二種類の性の
組み合わせになったのは、なぜでしょうか?
無作為では、安易な手段として、自分の遺伝子との再融合が起こってしまいます。
オスとメスという、違う細胞スタイルの組み合わせにすることによって、
その自分との再融合を避けることが出来ます。
オスもメスも、自分の遺伝子を強くして残したいと思います。
そのために、強いパートナーを求めます。
強いパートナーを選ぶと、当然ライバルも多くなります。
オスもメスも、自分の強さをアピールする、同性間での競争をしなくてはならなくなり、
環境への、より適応したものだけが、子孫を残せるようになりました。
自然淘汰のシステムです。
強い遺伝子とは、何でしょうか?
生命の防御が優れていている(ガード)。
エネルギーの獲得が優れている(リード)。
生命の回復が優れている(ヒール)。
これら三つの特徴をもった遺伝子は、環境の影響に対して強く、
生命の長い存続、継続が可能となります。
動物には、基本的な本能として、生存本能と、種存本能があります。
本能とは、脳に組み込まれたプログラムであり、
生存本能は、生命を存続させる方向に、たえず身体を働かせ、
種存本能は、生命を子孫へ継続させる方向に、身体を働かせます。
本能は祖先からの記憶であり、その通りに従えば、快楽が与えられ、
不快苦を避けることが出来ます。
そのことを基本に、本能以外のいろいろな行動も、本能に照らし合わせてることによって
快不快を感じ、その記憶を新たな判断として、学習していくようになりました。
人も、他の生物と同じに、これらの原理に従って、行動していきます。
ほとんどの動物には、生存本能、種存本能、そして存在本能があります。
存在本能とは、生存や種存本能を満たすために、自己の存在をアピールする
補助的な、欲求です。
人には、そんな本能にもとづいて、五つの欲求があります。
休楽(休養)追求――――【生存欲求】――――疲労苦回避
快楽(快さ)追求 ――――【種存欲求】――――不快苦回避
尊楽(尊敬)追求――――【存在欲求】――――蔑苦(軽蔑)回避
満楽(満足)追求――――【達成欲求】――――不満苦回避
豊楽(豊かさ)追求―――【秩序欲求】――――貧苦回避
人が、異性を求める思いは、種存欲求の快楽追求から、発生します。
異性との性行為、身体的接触の快感、
この動物的欲求(性欲)が根本にありますが、
それに付随して、以下の欲求も発生します。
異性から、自己の価値を認められた存在感、
異性を手に入れたという、達成感、
異性と共にいる、生活上の安定感(秩序感)、
これらの欲求は、異性を求める思いに、拍車をかけます。
しかし、快楽追求の欲求のほかに、不快苦回避の欲求も発生します。
コンプレックスからくる、身体的不安感、
異性から、存在価値を認められない不在感、
異性を手に入れれない、不満感、
他人との齟齬から生じる、不安定感、
以上の欲求が、異性を求める思いに、ブレーキをかけます。
これら快楽追求と不快苦回避の、どちらの欲求が強いかによって、異性へのアプローチの
仕方に差が出ます。
快楽追求が強ければ、異性に対して、積極的で、
不快苦回避が強ければ、消極的となります。
この強さの違いは、遺伝や、経験、能力、体質によって形成される性格によって、
決められます。
異性に対して、積極的であるタイプは、経験の豊富さから、
多くの異性に、容易に接近していってしまうという欠点があり、
消極的であるタイプは、逆に経験不足から、自信が持てず、
さらに、異性を苦手としてしまう欠点があります。
しかし、異性に対して積極的に、自分をアピールする方が、自然淘汰のシステムにおいて
当然、有利です。
異性を求める思いが生まれると、次は、異性へのアプローチが始まります。
異性を欲しがっても、相手も自分を求めてくれなければ、交際は成立しません。
商売でいうところの、需要と供給でたとえると、
互いに、需要者でありながら、同時に供給者であり、
相手を得た代償に、自分を払うということになります。
そしてすでに、こちら側には需要が発生しているので、
相手側に、自分に対する需要を発生させなければなりません。
【14.商売論】において
商売が成功する要素として、以下のことを述べました。
製品に需要があっても、それで売れるというわけではありません。
需要者が欲しているのは、製品ですが、それに付随して、
入手できた充足感、安心感、利得感も求めています。
供給者は、以下の点で、需要者の便宜を図ります。
(1)製品がそこで手に入ることが、告知されていなければなりません(宣伝)。
(2)適正な品質、適正な値段、適正な納期が、保障されていなければいけません(信用)。
(3)他より良い品質、安い値段で、早く手に入ることが優先されます(利点)。
(4)商品の選択、供給が容易になされることが必要です(環境)。
(5)需要者の、その他の欲求も満たされることが求められます(快楽)。
ここでの、供給される製品とは、自分のことです。
(1)の宣伝では、
自分の存在を、相手に知らせなければ、交渉は始まらないということです。
積極的なアプローチ、自分の紹介が必要です。
会話によるコミニュケーションで始めるのが、もっともストレートで、正常です。
関心があるから、話しかける程度で、強引な売り込みは、相手を警戒させます。
相手に関心を持っていることを示すだけで、自分の存在をアピールでき、
そのことで、相手が、自分に興味を示せば、宣伝効果は十分です。
(2)の信用では、
自分が相手に対して、安全な存在であることを、保証しなければいけません。
また、居場所(所属)が明確で、交際可能な立場であることを保証し、信用を得ます。
この信用を得るには、長く、同じ集団に所属していると有利です。
とくに、友人関係として、長く交際する方法が有効です。
第三者に、自分を保証してもらう方法もあります。
(3)の利点では、
自分が、他のまわりの同性より、優れている点を持ち、
それをアピールするということです。
しかし、それは、相手から求められる特徴でなければなりません。
身体・容姿・・・健康的で、調和がとれている。
性格・・・偏見がない、理性的である
能力・・・知的能力、運動能力が優れている。
身分・財産・・・安定している、将来性がある。
また、性別によって、求められる特徴が違います。
男性には、社会環境に対する働きかけ(リード)と、
生活環境の守り(ガード)が、強く求められます。
強さ、俊敏さ、したたかさ、賢さ、寛容さに、優れている者。
女性には、子供の守り(ガード)と、生活環境での慰安性(ヒール)が、
強く求められます。
優しさ、細やかさ、清らかさ、賢さ、気楽さに優れている者。
すべてに優れているという者はいません。
また、今は優れていても、努力しなければ、保持できません。
そしてそれは、、どの項目も努力次第で、ある程度レベルを上げることが
出来るということです。
身体・容姿に関しては、姿勢を正し、劣っている点に卑屈になることなく、
堂々としていることが肝心であり、男性も女性も、健康的であることを第一に、
体を運動や食事などで制御することが必要です。
性格に関しては、自己中心的にならずに、相手のことを思いやる気持ちで、
接することが肝心であり、感情的、欲求的にならず、思い込みにとらわれないように、
制御することが必要です。
そして、男性は、全体をとらえる寛容さ、女性は、いろいろな状況を受け入れる、
気楽さが、望まれます。
能力に関しては、自分の得意である分野を発展させ、苦手な分野を、
それでフォローする方法が、有効であり、強い劣等感を持たずに、自信を、
持てるように、努力することが必要です。
異性の組み合わせは、お互いに劣った能力をおぎない合うことが基本なので、
多少劣った点がある方が、カップルのバランスがとりやすいこともあります。
身分・財産に関しては、将来への可能性の問題であり、
現状では、社会に対する積極性と、社会常識があるかということが重要です。
この特徴は、おもに男性に対してですが、
高い地位や、大きな財産を、手に入れることが、求められているのではなく、
安定した生活が出来ることが、求められています。
(4)の環境では、
まず第一に、交際が可能な状況にあるということが、肝心です。
交際する時間がない。
交際する場所がない。
交際する資金(エネルギー)がない。
この三点が、解消されない限り、交際の維持は不可能です。
交際が維持できることが前提にあって、出会いを生むのが順序です。
次に環境は、(3)で述べた自分の利点を、アピールする演出となります。
相手が自分との交際に求めていることを満たすのに、
より効果的、印象的に見せますが、
あまりに作為的であると、不自然さが目立ち、逆効果になります。
次の項の快楽の中で、相手に影響を与える環境(雰囲気)つくりを、
いっしょに述べていきます。
(5)の快楽では、
前に、人が異性に求めるのは、快感、存在感、達成感、安心感であると
述べましたが、それらが、満たされることが、基本です。
つまり、それらを相手に求めることを主体にするのでなく、
それらを相手に与えることを、主体に考えることが、交際を成功させます。
相手の心を快くする・・・基本的には、不快感を与えずとり除き、
快感を与えることです。しかし人は、持続する感覚には慣れて
しまいます。相手との距離を、ある程度保ち、抑圧と解放を心得て、
刺激を効果的にするといった、雰囲気作りが有効です。
相手の価値を認める・・・誰もが自分の価値を認めてもらいたがっています。
相手の価値を認めることは、必要ですが、恋は人を盲目にします。
相手を、実際以上に評価してしまいがちです。人は、自分を、正しく
評価されたがっています。互いに信頼がおけるといった雰囲気を、
作り出すことが有効です。
相手の達成感を高める・・・自分の価値を下げると、交際する相手の価値も
下げてしまいます。相手に気に入られようと、媚を売るのは、逆効果に
なることが多い。自分のプライドを保つ、自信をもって生きているように
見せる雰囲気作りが有効です。
相手の安心感を高める・・・人は、整然としたものに美しさを感じ、秩序的なものに
知性を感じます。そして知性には、安心感がともないます。
自分の秩序感を守る、相手に合わせて、自分の秩序を崩すことなく、
毅然とした態度で接することが有効です。
人は、恋したとき、相手が自分に、どの程度の好意を持っているかが、気になります。
交際を申し込んで、断られ、傷つくのを恐れるからです。
心に衝撃を受けようと、基本的には、直接、相手に聞くしか、確かめる方法はありません。
恋する相手の行動や気持ちを、その当人の自分が、冷静に分析出来ないからです。
しかし、上に述べた4項目の行動をとるかどうかで、ある程度の予想は出来ます。
自分を平気で、不快にする。
自分の価値を、認めていない。
自分の前で、自己の価値を高く見せ、アピールしようとしない。
自分の前で、だらしない、ルーズな態度をとる。
上のような行動をとるなら、相手は自分を、何とも思っていない。
または、相手は自分を嫌っている可能性があります。
恋愛のいくつかの成り行きを述べることで、この恋愛論を締めくくります。
異性同士は、その特徴、能力が違い、価値観が違うため、
お互いが協力することで、ものごとの対応に容易になります。
しかし、 異性同士が、互いを求め合い、交際するのは、
基本的には、子供を作るためです。
前頁の環境で、交際が不可能な三つの状況を述べましたが、
もう一つ、付け加えるべき状況があります。
交際する権利がない
成人の、異性同士が交際すれば、そこに子供が出来る可能性が、必ずあり、
そして子供は生まれれば、出来る限り安全で、自由で、進歩的な環境が
与えられなければなりません。
そのような環境を作り出せる可能性が、将来に渡ってないのなら、
交際をする権利は、ありません。
権利もなく交際すれば、倫理に反することとなります。
倫理とは、法律で定められた以上の、自然の調和の中での人間のルール、
社会の調和の中でのルールのことです。
欲求は満たされないと、蓄積されて、欲望となります。
欲望は、意識を圧倒して、制御を容易にしません。
意識回路は、情念というパワーで満たされます。
情念と、理性の凌ぎあいが始まります。
人の心は弱く、そして強くなければならないという葛藤の中におかれ、、
結果は、自分の成り行きに、任せるしかありません。
情念が勝てば、人は、不倫であろうと、不純、未熟であろうと、
異性との愛という、欲望の中に、溺れていきます。
異性と交際するのは、恋愛だけではありません。
異性との間に、友情も成立します。
友情とは、お互いが信頼関係にあって、ともに力を合わせて、
相乗効果で、マイナス部分は補い、プラス部分はさらにパワーアップする関係です。
そのために人は、自分の能力の精一杯に、自己を研磨して、
相手と、健全な秩序関係をつくる必要があります。
人は、基本的に、自分勝手です。
相手との関係の中で、自分を捨てて、相手を思いやる感情が、友情です。
その思いは、異性間では、恋愛感情に、よく似ていますが、大きな違いは、
情念を、理性によって押さえつけ、表面に出さないことです。
異性との交際を求めるのは、本能ですが、恋愛関係という形だけでなく、
友情という形もあると理解すれば、上の、情念と理性の葛藤も、
ずいぶん軽減されます。
人は、歳をとります。
歳をとれば、性としての魅力をなくして行きます。
子供を作る能力も薄れて、自分を異性として、交際を望んでくる者は、なくなります。
しかし、歳をとっても、種存、存在本能はあり、達成、秩序欲求もあります。
それらの欲求は、欲望としてパワーをもつこともなく、
ただ、空回りするだけです。
人は、歳をとって、孤独を感じます。
恋愛には、目的があり、その目的が達成できないのなら、成立しません。
人が発生する、愛という感情は、原理的には、同情です。
自分と所属を同じにして、その自分が他者に負けないように思うのと同じように、
その所属自体も、他者に負けないような、また救われるような思いを持つのが、
同情であり、愛です。
すでに所属を同じにする動機もない恋愛では、同情さえ起こしません。
歳をとって、浮き彫りにされる孤独ですが、
人間は、生まれたときから孤独であり、それが、いろいろな人間関係の中で、
見えなくなっていただけです。
人は、孤独である。
それを承知していることが、異性との交際を成功させ、維持させる
最も重要な要素であるかも知れません。
そして、ここでも、友情という観念が、人の孤独を救います。
孤独を知って、他人を思いやることが、より可能になります。