基本技

第1節 要則


(要旨)


第12条

 基本技は、短剣道の基礎となる技術であり、初心者はもとより高段者に至るまで、基本技をおろそかにすることなく、一つひとつの動作について気・剣・体の一致を主眼として絶えず錬磨することが大切である。


第13条

 基本技には、「気を付けの姿勢」「構え」「直れ」「体・足さばき」「突き」「打ち」「払い突き」「払い打ち」「入身」及び「制体」等がある。


(基本技の稽古)


第14条

 基本技は通常元立と習技者に分かれて行い、個々の技ごとに正確な動作を習得するように稽古するものとする。

 基本技を稽古する場合、竹刀の手の内を締め、刃筋の正しさ、軽快な足さばき及び入身・制体要領を体得させることが大切である。

 稽古の要領で一人で行う場合と集団で号令又は指示により一斉に行わせる要領がある。この場合習技者に相手がいることを常に意識しながら練習することが大切である。




第2節 基本の動作


(気を付けの姿勢)


第15条

 正面を向き、目は相手の目に注ぎ、左手で竹刀の鍔元を弦を下にして握り、左体側に角度45度に保持し、背筋を伸ばし踵を揃えて直立する。

 左肘は自然に伸ばし、右手は垂直にして体側につける。

 号令は「気を付け」である。

 歩行する場合の竹刀等の持ち方は、前項に準じて保持するものとする。



(構え)


第16条

 構えは、正面又は相手に対して竹刀を構える動作である。

 号令は「構え」である。

 動作(中段の構え)の要項は、頭を正面にして相手を注目したまま体を半ば左に向けながら、左手で竹刀を内側に回し僅かに引き上げ、右手で柄の中央部を小指側から柔らかく握り、右足を約一足長正面に踏みだし、右足先は正面、左足はやや左向きとする。

 両膝は凝ることなく弾力性を持たせ、上体は背筋を伸ばして腰の上に安定させ、剣先の延長線を相手の目に向ける。

 右手は腰骨から約30cm離し、左手は軽く握り、左腰骨付近にそえ

半身に構える。

 他に上段、下段、入身の構えなどがある。



(直れ)


第17条

 直れは、構えから気を付けの姿勢にかえる動作である。号令は「直れ」である。

 左足を右足の位置に引きつけながら、竹刀を左手に納め、正面を向きながら、気を付けの姿勢にかえる。



(体・足さばき)


第18条

 足さばきは、相手に対して有利な体勢を取るための前後左右に移動する動作である。

 足さばきには「送り足」「開き足」「継ぎ足」「歩み足」「踏み替え」がある。

 体さばきは「踏み替え」と同時に体の向きを変える動作をいう。

 動作の要領は、相手に対応の暇を与えないように軽快機敏に行うことが必要である。

 足さばきは、通常「送り足」で行い、号令は、前に出る場合「前へ」、後退するときは「後へ」、左(右)に動く場合は「左(右)へ」である。

 その他の足さばきをさせる場合は、号令の前に「継ぎ足」その他を加えて号令する。

 足さばきは腰の上下動を少なく軽快に移動する。



(基本の間合)


第19条

 基本技は、単独もしくは相対して一動作ごと演練するのが通例である。

 相対して構える場合には双方の竹刀先端が左側で相触れる位置を基本の間合いという。



(突き)


第20条

 突きは、相手の喉又は胴を突く動作である。号令は「(喉または胴を)突け」である。

 構えから左足の親指つけ根付近で強く踏み切り、右足を床に近く素早く踏み込みながら

右手は肘を十分に伸ばし一挙に突出し、相手の喉又は胴を突く。

 この場合、竹刀の剣先を真っ直ぐにし、喉・胴に当たる瞬間に竹刀を握り締める。

 この場合気・剣・体の一致が重要である。

 引き抜きは、右手の握りに新たな力を加えて、突いた逆方向に真っすぎに引き抜き、構えにかえる。

 突きは、腰の推進が重要であり、腕のみによる突きにならないように心掛けなくてはならない。

 突く部位を指定する場合の号令は「喉(胴)を突け」である。

 左手で構える場合は左手で突くが、右手への持ち替えは認めない。



(面打ち)


第21条

 面打ちは、相手の面を打つ動作である。号令は「面を打て」である。

 左足の親指の付け根付近で強く踏み切りながら、竹刀を頭上に振りかぶり、右足を素早く床に近く踏み込むと同時に、刃筋正しく振り下ろすまでの竹刀の素早いこと、面を打った瞬間の右手の握り締め、右手首・肘を伸ばし、腰の推進と配筋を伸ばし、左足は打ち込みと同時に素早く引きつける。

 打った後は元立の後退にあわせて、速やかに構えにかえる。

 元立と修技者が相対して行う場合は、前20条の要領で打つ動作を稽古させる。

 元立が面を打たせる要領は、竹刀が面部に当たる直前に、自分の竹刀を僅かに右方に偏して、その場で面を打たせたのち小さく2歩後退して基本の間合にかえる。



(左・右面打ち)


第22条

 左右面打ちは、相手の面に対して概ね45度の角度で打つ動作である。号令は「左(右)面を打て」である。

 動作の要領は、前21条に準じて行うが、打つ場合の右手の左・右への返しを正しくして打ち、打った時の右拳は常に顔の正面にあるようにする。



(小手打ち)


第23条

 小手打ちは、相手の小手を打つ動作である。号令は「小手を打て」である。

 竹刀を小手が見える高さまで振り上げ、前21条の要領で踏み込みながら、相手の竹刀の左側より小手を打つ動作である。

 元立が小手を打たせる要領は、習技者の竹刀を僅かに左方に圧して自己の小手に隙をつくる、習技者は剣先に圧力を感じた瞬間に竹刀を振り上げ、間隙を作らないように素早く踏み込んで小手を打つ。

 元立は習技者が打つ瞬間に手元を僅かに左に偏し、小手を打ち易いようにする。

 元立は習技者が小手を打ち、構えにかえると同時に小さく2歩後退し、基本の間合にかえる。



(連続して行う突き・打ち)


第24条

 連続突き・打ちは、連続して突き・打ちを行う動作である。号令は「続いて喉(胴)を突け」・「続いて面を打て」等である。

 単一の突き技・打ち技を通常4-5回行い、そのうち1回を遠い間合で行う。

 元立は突き・打ちの1動作毎に1歩で間合をとり、最後は小さく2歩後退して基本の間合にかえる。

 この場合、習技者の技倆に応じて適切に間合をとり、

 習技者が正しい突き・打ちが繰り返せるようにしてやる。

 なお、突き・打ちの正しい受け方が大切である。



(突き流し・打ち流し)


第25条

 突き流し・打ち流しは、突き又は打った余勢を生かし、送り足で数歩前進する動作である。

 号令は「喉(胴)を突け前へ」「面(小手)を打て前へ」である。

 突き・打った余勢を生かし、送り足で数歩(4-5歩)前進する間に構えの姿勢にかえる。

 これは突き・打ちと足さばきの連携を習練し、試合稽古への導入を円滑にさせるものである。

 この場合、突き・打ちの動作と送り足との連携、及び送り足の間に正しく構えにかえる動作が大切である。




第3節 攻め技の払い技


(払い突き)


第26条

 払い突きは、相手の竹刀を左下又は右下方に打ち払って、喉又は胴を突く動作である。号令は「左(右)に払い喉(胴)を突け」である。

 元立と習技者は基本の間合で構え、元立の号令により習技者は、送り足で出ながら、竹刀を目の高さまで素早く振り上げ、元立の竹刀の鍔元を左下方に打ち払い、機を失することなく喉(胴)を突く。

 この場合、打ち払いは機敏に強く打ち払うこと。

 右の打ち払いは、相手の竹刀の下から剣先を外して右下方に打ち払い、喉(胴)を突く。

 打ち払った直後の剣先は相手に向いていること。

 足さばきは、軽快機敏に行い、払い突き技は気・剣・体の一致した動作が特に大切である。



(払い打ち)


第27条

 払い打ちは、相手の竹刀を左下方または右上方に打ち払って、面を打つ動作である。

 号令は、「左(右)に払い面を打て」である。

 元立と習技者は基本の間合で構え、元立の号令により、習技者は、送り足で出ながら、竹刀を目の高さまで素早く振り上げ、元立の竹刀の鍔元を左下方に打ち払い、機を失することなく、面(左右面)を打つ。

 この場合、打ち払いは機敏に強く打ち払うこと。

 右の打ち払いは、相手の竹刀の下から剣先を外して、右上方に打ち払い、面を打つ。

 払った直後の竹刀は相手を直ちに打てる位置にあることが大切である。

 足さばきは軽快機敏に行い、払い打ち技は気・剣・体の一致した動作が特に大切である。




第4節 応じ技の払い技


(突き払い突き)


第28条

 相手が突いてくる竹刀の鍔元付近を、竹刀のもの打ち部分で左・右下方に打ち払って、喉・胴を突く動作である。

 号令は、「突きを払い喉(胴)を突け」である。

 元立と習技者は基本の間合で構え、元立は「突きを払い喉(胴)を突け」と号令し、習技者の喉(胴)を突いていく。

 習技者はその場で元立の竹刀の鍔元を左・右下方に打ち払い、機を失することなく、喉(胴)を突き、構えにかえる。

 元立は後退し基本の間合をとる。

 打ち払いは機敏に強く、打ち払った直後の剣先は相手に向いていること。

 右の払いは右手首を内側に返し、竹刀のもの打ち部分で相手の竹刀を右下方に打ち払い、喉(胴)を突く動作である。

 足さばきは、相手が突いてきた場合は体を左(右)に開き、刃筋正しく突くことが大切である。



(打ち払い打ち)


第29条

 相手が面を打ってくる竹刀を、自分の竹刀の側面で左・右に摺り上げ、面を打つ動作である。

 号令は「面を払い面を打て」である。

 元立と習技者は基本の間合で構え、元立は「面を払い面を打て」と号令し、習技者の面を打っていく。

 習技者はその場で竹刀の側面で、元立の竹刀を左・右に摺り上げ、機を失することなく

面を打ち、元立の後退にあわせて、構えにかえる。

 この場合、動作に間隙がなく、刃筋正しく打つことがたいせつである。




第5節 入身・制体技


(入身)


第30条

 入身とは、有効な技が使えない場合、相手の居ついたところ、出頭等を捉え一挙に手元に入る動作である。

 この場合大切なのは、素早い足さばき及び踏み替えである。

 入身の3効果としては、次のとおりである。

 ア、自分の身を守る入身

 イ、相手に勝つ気を放つための入身

 ウ、相手との間合を計る入身



(制体突き)


第31条

 短剣道は、用具の特性上機敏に入身・制体して突き技を駆使することが大切であり、その要領は次のとおりである。


 1 基本の間合から、相手の竹刀を剣先から縦割りするように、手元まで入身し、左足を相手の右足の近くに踏み替え、左手で相手の右肘関節のやや上部・袖部を下方又は右腕を抱え込んで制体し、機を失することなく、竹刀を右腰付近に構え、腰の回転力を利かして、相手の胴又は喉を突く。


 2 基本の間合において、相手の突き・面打ちを、竹刀で下方から真上に払い上げ、相手の上体が伸びたところを、機敏に手元まで入身し、左足を相手の右足付近に踏み替え、左手で相手の右上腕を下から押し上げて制体し、機を失することなく竹刀を右腰付近に構え、腰の回転力を利かして、相手の胴を突く。