星加哲さんは、妹尾隆一郎の大学生時代からの旧友です。
『オフ・ザ・ウォール・ブルース・バンド』のギタリストでも有りました。
妹尾がビクターからファーストアルバムを出したのは
星加さんが、ビクターの社員でディレクターをしてくれたからという事も決めての一つでした。
妹尾隆一郎が、レコーディングをしたビクタースタジオ内の一室を、星加さんが借りて下さいました。
2013年3月19日に、お話を伺いました。
妹尾:あの、大森のお化け屋敷。
あそこに僕がいった時は、哲ちゃんが既に住んでたよね。
星加さん:住んでた。
妹尾:僕は、哲ちゃんに誘われていったんだっけ?
星加さん:そう。その後、だっちゃん(オフ・ザ・ウォールのベース)も来て。
妹尾:その時。増山くんっていうドラムが居たでしょ。
星加さん:増山はベース。
妹尾:ああ、そうか。
増山くんはベースか。車の運転が上手い人。
星加さん:増山は何もやった事ないんだけど、ベースやりたいって云うから。
妹尾:ちょっと一緒にやってた事あったよね、アマチュアっぽく。
星加さん:ちょっとね。
そうだ、陸送やってた人だから。
妹尾:ああ、だから、車の運転上手かったんだ。
で、その大森のお化け屋敷っていうのは、東京の大森に有った家。
その家の持ち主に頼まれて管理してる不動産屋さんが、自分のやり方で
その家に、いろんな人を住まわせてたの。
哲ちゃんが、あの家に入ったのは?
星加さん:うん、最初に入ったの。増山くんの紹介だと思う。
一軒家で、部屋が7つ位あって。
陸送の人が先に居たんだ。
もう一人居たでしょ。その人と増山くんが居て。そこに俺が入って。
で、広いから「バンドで住んでもいい?」って云ったら。「全然いい!」って訳よ。
バンド練習もやり放題。
住んだ方が税金対策に成るとかって聞いたけどね。
部屋代、高くは云わないけど、少しは払った。
妹尾:俺は、月3000円払った。
星加さん:払ったの、そうか。
妹尾:で、西浜ちゃん(西濱哲男)は、いつ頃来たんだっけ?
星加さん:西浜来た? 住んでないよ。
ー:西浜さん夫婦二人で。新婚さんで住んでたそうですが。
星加さん:俺、出てからじゃない?
妹尾:あっそうだ、たぶん。
星加さん:あんまり汚いから、俺逃げたのね、先に。福生に。
ああ、それからだ、西浜は。
あと、二階には全然別次元の慶応の教授が居たよね。
妹尾:そうだそうだ。なんか、ちょっと、とぼけた人な。
で、まあ、管理してる不動産屋のおっさんに「麻雀やろう!」って云われて
「麻雀やらなきゃ、住まわせないぞー!」とか云われて。
家賃納めた後、また何千円か取られて。
星加さん:『ウエストロード』が何回か泊まりに来たの覚えてる。
全員でね。ツアーで来た時、泊めてあげたの。
妹尾:なんか、面白い話、覚えてるのない?
星加さん:いっぱい、あるけどさ(笑)
妹尾:もののけ騒動は、いっぱいあったね。
星加さん:もののけ、あったねぇ。
じゃあ、一発くらい話しておくかな。
大森に住んでる時ね、僕ら、いつも飲みに行く店があって、
毎日の様に、その店で飲んで居たんだけど、まあスナックみたいな所ね。
そこで、なんか、喧嘩に成っちゃったの。
ちょっと、これっぽい人(ヤクザっぽい人)だったの。
俺たちも酔ってたし、何でか解んないんだけど、逃げたのね。
本当に、殴り合いの喧嘩に成ったので。
よせばいいのにさ、大森の、その家に向かって逃げたのさ。
そしたら凄い勢いで追っかけて来たの。
それで、玄関ガーッと開けて入ったら、そのヤーさんみたいな人も入ってきた訳。
土足で。
それ覚えてる?
妹尾:覚えてる、覚えてる。
星加さん:その時、家に『ウエストロード』も居たよね。妹尾ちゃんも居たよね。
妹尾:あれはね『ウエストロード』じゃなくて『田舎芝居』のメンバー。
星加さん:あっ、そうなの?
妹尾:『田舎芝居』が泊まってたのよ。
ー:星加さんは何人で飲んでたんですか?
星加さん:三人で。よく飲んでる連中と。
ー:三人共、大森の家に逃げたんですね。
星加さん:向こうに逃げりゃ、いいじゃないねぇ。
ー:逃げ帰りたかったんでしょうね。
星加さん:そうだね。
玄関開けてパーッと入ったら、ツカツカ ツカツカって、土足で、
二人位じゃなかったかな。
妹尾:うん、二人位だったかな。
星加さん:結構、恐そうだったよね。
妹尾:うん。
俺、覚えてるのは...
俺、寝てたのよ。そしたらドカーン!って入って来て、「オオー、ナナ何何ー!」ってさ。
俺寝てて、頭がボーっとしてるからさ、「なんですのん?」って云って。
で、こっちが落ち着いてるもんだから、むこうも落ち着いちゃって。
「俺はな、若いもんを指導する立場なんや!」とか云ってな。
なんかカッコつけて、ワッと脱いで、モンモン(入れ墨)見せてさ。
「警察、電話しますよ」って云ったら、目の前で「やってみろー!」って云うからさ。
警察来るの遅くてさ、なかなか来ないの。
星加さん:そうそうそう。
俺と、なんか一番恐そうな二人が、パトカーで何とか署に連れて行かれたの、事情聴取ね。
警官の前では、その人「だいじょうぶ?」とか云って、やさしいのよ。
妹尾:あの時ね、ヤクザがね、ベルトを抜いて手にまわしてね、ガラスをガーンと割って
鍵あけて入って来たのよ。
星加さん:玄関、めちゃくちゃだったの覚えてる。
妹尾:まあ、なんせ、大きな事なく、怪我人もあまりなくて...
ー:それにしても、その恐そうな人達は、警察呼んでも逃げなかったんですね。
妹尾:逃げないで、おったよ。居座ってたよ。
警察が来て、いろいろ、ちゃんとして、みんな連れて行ったら、
俺、からだが震えてきて(笑)
ところが、その時京都から泊まりに来てたバンドの連中は、みんな寝た振りして、
知らんぷりして、誰も起きて出てきいへんのよ(笑)
星加さん:あと、覚えてるのはね。
妹尾ちゃんと僕が大森の家に居て、
たまに、今日は大学があいてるから行かなきゃならない。って時に、
妹尾ちゃんがバンマスだから、10円玉を6枚位くれるんだよ。
妹尾:覚えてないな。
星加さん:えっ、覚えてないの?
ー:電車代ですか?
星加さん:そう、電車代。
みんな、金ないもん。俺も全くなかったの。
妹尾:10円玉、6枚位で、すみませんでしたねぇ。
星加さん:いやいや。わびしいなあって思ったりしてさ(笑)
妹尾:麻雀してたらさ、しょっちゅう、もののけが走り回るしね。
真っ昼間、麻雀してたらさ、玄関がガラスの引き戸でさ、チリンチリン鈴が付いてて。
玄関ガラッと開いてチリンチリン鳴って、またバタンッって閉めてチリンチリン鳴って。
麻雀やってる隣の部屋にいってね、テレビつけるのよ。
「誰か来たの~? 誰~?」って見に行っても、誰もおらへん。
ー:テレビはついたままなんですか?
妹尾:ついてるの。そんな事しょっちゅう有った。
俺が二階で寝てたら、下から階段をドドドドーッて上がって来るしね。
一時期、誰も居なく成って、俺一人っきりの時もあったしね。
星加さん:あっそう。 みんな居なく成った。
妹尾:階段上がって、すぐ左側の六畳の部屋で...
星加さん:あの、教授は?
妹尾:教授もその時は、もう居ない。
教授はね、二階のその六畳の部屋に居たの。
教授が居た頃、俺は一階の麻雀の卓の有る部屋の奥の狭い部屋に居たから。
一階の一番広い八畳の部屋に居た事もあったし。
まあ、なんせ、どこでもいいから、自分の居場所さえ確保できればいいんで。
みんな、それぞれ、鍵もなんにもなく。
で、一階の階段の右側の、台所の裏側に、開かずの間が有って。
星加さん:うん、うん。
妹尾:あそこ。
ある日、開かずの間の襖を開けてみたの。
畳を上げてあって、畳を何枚か重ねた上にタンスが一つ置いて有ってさ。
星加さん:そうなの、よく開けたね。
ー:星加さんは、その開かずの間、知ってましたか?
星加さん:部屋の存在は知ってたよ。
妹尾:あのね、どう見ても押し入れにしか思えないの。
ー:納戸みたいなのかしら?
妹尾:そう、納戸みたいにしか見えないの。
ところが、開けてみると、部屋に成ってて。
タンスの引き出しには、女物の着物が入ってて。
それで、管理してた不動産屋さんが来て、その部屋をきれいにしたら、
もののけは出なく成った。
ー:居なく成ると、なんか寂しいですね。
妹尾:俺が二階の部屋に居たら。一階の納戸の様な部屋の襖がパーンと開いてさ、
階段をポンポンポーンって上がって来る、もののけが多かったから。
ちょっと、地震がきたらさ、ギシギシギシって揺れるしね。
星加さん:そう、そう、そう。
妹尾:あの家、いつ壊れるかと思って、心配だったよ。
星加さん:そうね。
ー:もののけって、ちゃんと戸を開けて、閉めて、出入りするんですね。
妹尾:そうなんよ。
で、ドタバタ走り回るのよ。
ー;お皿をきれいに洗ってくれたり、
背中を流してくれた事もあったそうですね。
妹尾:うん、そう、風呂場でね。
一人で風呂入ってたら背中さわられてさ。
誰かがソーっと来て悪戯したのかと思って、「おおー」って云ったら、
誰もおらへんのよ。
ー:おもしろいですね。遊ばれてたんじゃないですか。
妹尾:考えてみると、あの頃が、一番楽しかったなあ。
2013年7月17日